耳の話 その31 国立時代(17) | 小迫良成の【歌ブログ】

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東京藝大学部声楽科入試、

一次試験課題曲の話。

 

出願時に提出する課題曲は8曲だが、

その内2曲は曲目記入のみで済む「捨て曲」なので、

実際に準備しなければならない曲は6曲のみ。

 

曲の方向性に含みをもたせることで

あと2曲ほど本命から外すことができるが、

100%確実という訳ではないため、

6曲についてはどれが当たったとしても

合格ラインを超えるだけの仕上がりに

もっていく必要がある。

 

それでは

どこが「合格ライン」となるのだろうか?

 

当時の東京藝大は今と違い完全な国立大学。

独立採算制ではなかったため、私大のように

「大学運営のために毎年何人の学生が必要」

といった経営戦略を立てる必要がなかった。

 

これは、どういうことかというと

「志願者の中から成績上位何名を合格させる」

という変動成績方式ではなく、

「人数に関係なく固定されたライン以上の

 成績を出したものを残し、下回った者は外す」

という固定成績の方式で合否が決まるということ。

 

変動成績の場合は、

たとえ100点満点で98点を叩き出しても

99点以上の成績者で募集枠が満たされれば

そこで終わりになってしまう。

 

「何点以上とれば大丈夫」という保証はなく

1点の差で天国と地獄に分かれてしまうのが

この方式の怖いところ。

 

逆に固定成績の場合はどうか?

 

あらかじめ合否ラインの成績は決まっており、

その成績に達しさえすれば誰もが合格できる。

 

だがそのラインに達した者が

募集枠20名に対して5名しかいなくても

合否ラインの移動は行われず

5名のみが合格となってしまうのだ。

 

実際に過去の例をみても

テノールが3人しかいない学年や

声楽科の数が異様に少ない学年があり、

合唱の授業などではその声種バランスの悪さに

先生が頭を抱えたりすることも・・・(アハハ)

 

ただ、この固定成績方式は、

受験する側にとっては

周りの受験生を意識する必要がなく、

その意味ではとても有難いものだった。

 

「合否の基準はどこでなされているか」

=「実技試験においては何に気をつければ良いか」

でしかなく、

非常にシンプルなのだ。

 

それは見方をかえれば

私大の受験よりもよほどシンプルで

受け入れ易いものでもあったりする。

 

(続)