自作ゲーム制作拠点

自作ゲーム制作拠点

現在作っているゲームの設定、進行状況などをずらずらとただ書き連ねているブログです。

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 夏が終わる。そう錯覚させるような涼風が、私の横を通り抜けてゆく。日は既にその姿を地平に呑まれ、辺りには哀愁を感じさせる蝉の声が反響していた。昔、蝉の羽化を見たのはいつの日だったか。そのときも、私は夕闇に立ち尽くしていたような記憶がある。段々と暗くなってゆく大気の中で、その存在だけは翡翠の体に光を湛えていた。私はそれに、生命と死の狭間を垣間見た気がしていた。あの蝉は、無事子孫を残せたのだろうか――もう、何年も昔のことだ。

 私は一人、ぽつねんと車止めの上に腰掛けていた。眼下に広がるビルや高速道路を見下ろし、その営みに溜め息をつく。人類の英知と愚行の象徴たちは私を知覚することだになく、せかせかと世界を創り上げている。ああ、愚盲は人の性なりや。「世界を創り上げた」という妄想に囚われ、そしてそれに気付かない。まったく、まったく嘆かわしいことだ、などと大仰な事を考える。その一部に属しているのが自らであるというのに、殊更それを意識していないのは、私も同じだった。

 車止めの上で足を揺らす。ギシギシと金属の軋む音がして、車止めは共振した。慌てて足を止めると、揺れは止まった。さすがにここから落ちれば助からないだろう。首の辺りを嫌な汗が流れてゆく。私は鳥ではないし、ましてや哺乳類と鳥類の中間にいるどっちつかずの生き物でもない。うっかり車止めから足を滑らせれば数瞬後には美味しい生肉の完成である。縁起でもない。同じ生肉でも、私は食べる方がいい。食べられるのはゴメンだ。

 カラスが私の真下を飛び抜けてゆく。その背は私の影に濡れ、黒く染まっていた。地方に行けばカラス以外も見えようが、生憎ここは帝のおわす都、東京だ。雁だの鷲だのがいるはずもない。さりとてスズメやハトは、私の影で塗るには少々小さすぎだ。故に、今の私と接点があるのはカラスぐらいなものだった。カラスに挨拶をすると、彼らは悠然と去ってゆく。不思議に感じてよく見れば、いつの間にかカラスの背は元の色に戻っている。ああなるほどね、と呟いた声も、彼らには届かないようだった。

 私は今に至って、全ての焦燥から解放された気分になっていた。特に何がある訳でもなく、至極穏やかな気持ちだった。一刻前まではこの世の全ての絶望と、千辛万苦を抱えた代表選手であるかのような幻想に満ちていたのだが。これも全て、今私が座しているこの車止めのおかげであり、せいでもある。黄色のペンキが殆ど剥げ、鈍い錆が全体に浮かんだ、金属の集合体。公園の入口にある、アーチタイプの車止め。それは今、私を乗せて上空を浮いていた。なんてことはない、ただの車止めのくせに。

 そもそも、私はビルの屋上にいたのだ。それがこうして今、車止めと共に雲のすれすれを飛んでいる。理由は単純にして理解不能、車止めが上空から私に飛びかかり、羽交い絞めにして空高く舞い上がったのだ。有体に言えば拉致というやつだろう。当然私は抵抗した訳だが、コレは一動の気配も見せず、悠々と東京タワーの遥か上まで私を連れ去った。さすがにそうなると、私も抵抗する気を失い、なすがまま、されるがまま、無為に時を過ごすしかなかった。

 車止めは私が抵抗しないと見るや、拘束を解き、自らの背に私を乗せた。そしてそのまま、プカプカと浮いていた。私にはコレの考えが理解できなかったが、別段理解したくもなかった。往々にして、人生などそんなものだ。そう考えれば、理解せずとも諦念はついた。

 紫紺の色の空が、その色を濃くしてゆく。いつの間にやら現界していた月が、黙して私を見つめている。私はその中に、確かに夕焼けの残滓を見た。雲が頬を撫ぜ、身震いするような風が私の呼吸となる。すっかり一人ぼっちになってしまった。最早これからどうしようもあるまい。私は背を宙に預ける。すると器用にも、車止めは身体の一部を曲げ、簡易的なベッドにしてくれた。親切心に感謝しつつ、これではまるでゼピュロスとクローリスの関係だな、と嗤った。私に帰るすべがない以上、コレに従うしかないのだ。これからどうなるなど、私は気にも留めなかった。ここまで人智を超えた出来事が起きたのだから、この先など分かるべくもないだろう。軋む音を立てる割に硬いベッドの中、私は昏々としていた。

 

 次に目覚めたとき、私は月の中にいた。やはり考えるだけ無駄だったなと息を吐いた。そして当然のごとく、車止めは私の傍にいた。月の中は意外と広く、ともすれば車一台は余裕で入れそうである。壁は藍に薄く輝き、明かりがなくとも全容を見渡すには十分であった。いくつか外に張り出したところがあり、そこから遠く地上にあるビル群を確かめることができた。そして、人類の営みを眺めている私の中を、白い雲が通り抜けてゆく。存外低いところに月はあるものだ、とも思った。

 私は、西洋科学にかぶれてしまった私に、世界の真実が優しく語りかけているのだと理解した。我々が、いかに矮小で物質的な存在であるかを、月は黙然に示していた。私はその訓戒を素直に受け止めることにした。

 ふと、誰かの声がしたと思った。周囲を見回すが、人が存在している空間はどこにもなかった。かといって、車止めが言語を解している訳でもなさそうだった。車止めは、私が歩き回る後ろを、ペタペタと付き従うだけだった。

 まあた、声がした。今度はどこから聞こえてきたのか、はっきりと知ることができた。その声は、内なる私の声であった。

「私に何の用だ」

「私が生まれるわ」

 彼女は両肩をさすった。

「私は私だ、お前も私だ。生まれるも何も、もうここにいるじゃないか」

「私がいないから、あなたがいるわ」

「私とお前に境界があるのか」

「ないからいないのよ」

 彼女は消えていた。

 私は一人その場に茫然としていた。いつの間にか、私の背には車止めがいた。

「お前もいたな」

 私が車止めをさすると、彼女も私の中へ融けていった。そっと私は目を閉じた。そして開くと、私は翡翠に輝いていた。

「私はお前だものな」

 優しく体を抱くと、柔らかな感触が返ってきた。もう私に中身は存在していなかった。脆弱な外殻と、波打つ液体だけが、私の個であった。次第に、私が曖昧になってゆく。その中に、微かな産声を聞いた気がした。

 

 月が破れると、そこには一人の女性がいた。彼女はその場に佇むと、身を一度限界まで伸ばした。その指先から、エメラルドの雫が地へ滴り落ちた。それから、彼女は空の彼方へ消えていった。

  1,伝説の英雄
「なあ、知ってるか」
「なんだ」
「昔、宇宙人の侵略からたった一人で地球を救ったやつがいたらしい」
「その話、最近じゃあ聞きすぎて飽きちまったよ」
「だがな、この話には続きがあるんだよ」
「嘘はよく大きくなるもんな」
「それがよ、その地球を救った英雄は生き延びていて、しかもこの戦いにも参加しているんだとよ」
「そんな訳無いだろ」
「いいや、確かにいるんだと。大規模な作戦に参加した偵察のやつが鼻息荒く言ってたんだ。『ストーム1だ!ストーム1が戦っている!俺は見たぞ!』ってな」
「あいつ、英雄に憧れてたもんな、どうせ見間違いだろう」
「その可能性もあるけどよ、でも、あいつが言っていたその『ストーム1』ってやつの特徴がまさしく伝説の英雄なんだよ」
「そんなもの、でっち上げに決まってるさ」
「見た目こそ普通の隊員と同じだが、ライサンダーZという四挺しか作られなかったスナイパーライフルを持ち、なんでもマザーシップのジェノサイド砲を研究して造られたジェノサイドガンとかいうロケットランチャーを背負って戦場を駆け回っていたらしい」
「まさしくエースってやつだな」
「それでよ、偵察のやつがそれを使って敵を一方的にやっつけた隊員を見たらしい」
「まさかな」
「でもよ、不思議なのはその作戦に参加した前線の奴ら、皆生きて帰ってきてないんだ」
「あの作戦は地獄絵図でも生ぬるいなんて別の偵察のが言ってたからな、生きて帰ってくる方が不思議だ」
「偵察のやつ曰く、敵の数が減って、作戦が終了する直前、爆発音が聞こえたそうだ。そいつは負傷して後方にいたから無事だったらしいが」
「プラズマ砲持ちのロボットでも出たんだろ」
「そうだろうな、ん、お話の時間は終わりみたいだな」
「前方に敵の反応あり、そりゃあ地下の、それも敵巨大生物の本拠地に行けば敵の一つや二つ、生えてくるさ」
「そういえば俺たちの作戦ってなんだったか、忘れちまったよ」
「何言ってんだ……俺たちは今回巣穴に先行し敵と交戦、主力部隊の到着を待つ……俺たちは捨て駒ってことさ」
「そんな暗いこと言うなよ、それに主力部隊だって俺たちと距離はそう離れちゃいないんだ」
「実際そうなんだから仕方ないだろ」
「まあいいさ、主力部隊が来るまで、敵さんにちょっかいかけますかい」
「死ぬなら外が良かった」
「まったくだ」
≪こちら先行したレンジャー8、戦闘を開始する≫
≪了解、一分後に主力部隊が到着する。それまで持ちこたえろ≫
「蟻さん、こちら、火の出る方へ!」
「敵一、撃破」
「うぉぉぉぉおおおおお!!!!!!」
「被弾した!」
「ぐぅ!」
「アーマー破損、もう持たない!」
「大丈夫か!?」
「クソ、こんな所で……なんだ、足音が聞こえる」
「主力部隊か!よし!後退するぞ!」
「いや待て……主力部隊にしては足音が少ない――一人。一人しかいないぞ!?」
「そんな馬鹿な!敵はいなかったはずだぞ!?ぐぁっ!」
「まさか奇襲に遭ったのか……」
≪こちらレンジャー8、主力部隊、何があった!?≫
≪……≫
≪こちらレンジャー8!主力部隊、応答してくれ!一体何があったんだ!?≫
≪……≫
「クソッ!」
「足音が近い……もうすぐ一人来る、そいつに話を聞こう」
「ああ、そうしよう――生き残るぞ!」
「あいよ!」
タッタッタッタッ……
「来たか!おい、何が起きたんだ!通信に何故返答しなかった!」
「……」
「おい、返事をしないか!」
「……」
「おい!」
「まさか、こいつ……いや、間違いない……」
「……」
「おい!聞こえないのか!」
「こいつは……『ストーム1』だ」
「なんと!?」
「間違いない、あのスナイパーライフル、あれこそライサンダーZだ……しかも、かなり使いこまれている、しかも、背中にあるのは……」
「――ジェノサイドガン――、か  はは、ははは、奇跡だな」
「助かった、ストーム1。これより私たちはあなたの指揮下に入ります」
「……」
「ストーム1がいれば百人力だ!よし、生き残れるぞ!」
「……」
「なんだ、さっきから、ストーム1が不動直立だぞ」
「……」
「しっかりしてくれ!ストーム1!」
「まさか、な。ははははは、あはははははははは」
「……」
「何をしているんだ、ストーム1、何故後退しているんだ、何故ライサンダーを背中に戻すんだ、何をしようっていうんだ!!!」
「ははははははははははははははははは、もう駄目だ、お終いだぁ、はははははは、あははははははははははははは」
「やめろ、ジェノサイドガンを握るな、やめろ、ジェノサイドガンを向けるな、やめろ、やめてくれ、しにたくない、しにたくない、やめてくれ、やめてくれ、やめt」

≪レンジャー8!何があった!報告しろ!レンジャー8!レンジャー8!!!≫



  2,根本的誤解
「じゃんけんしようぜ」
「いいよ」
「よし、せーの、最初は」
「グー」
バキョァ ボキボキィ
「……なんで……殴った……」
「そういうゲームでしょ、これ」
「我が生涯に、たくさんの悔いあり……」
「またつまらぬものを、殴ってしまった」
「あんたら何やってんの」



  3,助手くんの苦悩
「先生、どうされましたか」
「先日の奇妙な事件についてまとめていてね、現場の感想を聞きたいのだよ」
「患者さんの意識が消えた事件ですね、結局原因は悟君のようでしたが」
「まったく、彼はエスパーか何かなのかい?夢の世界に患者全員を幽閉するなんて」
「私に聞かれても困ります」
「それもそうだ」
「私たち看護師は大変でしたね。なんと言っても皆突然脳死になってしまいましたから。一人一人確認して、それで……」
「起きたときはどうだったんだい」
「もうびっくりなんてもんではないです。脳死判定をしていたらいきなり目がカッって開きましたし、驚きで壁に頭をぶつけてしまって、逆に私が夢の世界へ」
「なんというか、気の毒だな、患者さんも、君も」
「起きたらベッドに寝ていて、しかも時間は十時間経っていて……」
「十時間?だとしたら君は何故私に連絡を……」
「え?なんですそれ」
「君が私の部屋に来て、「先生!大変です!患者が――患者さんが!」と。」
「知りませんよ、そんなこと」
「だとしたら君は……」
「なんですか先生」
「興味深い、一回頭を壁にぶつけて、気を失ってくれないかな」
「はい!?」
「学会モノだぞ、これは……!」
「先生、一体何を……」
「ああ、ああ、なんと素晴らしきかな、この世界は!」
「先生!?ちょっと、怖いです、私、仕事が残ってますので、それでは、失礼します!」
「行こうじゃないか、奇跡を見るために!」
「ヒィィィイ!」



  4,友好的生物
 涙が止まっていると気づくには、かなりの時間がかかった。心の中で渦巻く感情が、ついに一応の決着をつけた。
「もう、大丈夫だ」
誰に確認するわけでもなく、一人呟く。もう、大丈夫だ……俺は今に戻ってくることができた……あいつの、健二のおかげで。いつもヘラヘラ笑っているのに、心の奥では俺よりも苦しんでいた。自分のためではなく、俺のために。そう思うとまた涙が出てきたが、それを拭って空を見上げる。ちっぽけな俺が、愛していた空。大きな、大きな空を。どこまでも受け入れてくれる深い深い黒。そこには、かつて俺が嫌っていた“黒”は無かった。そこにあったのは、ただの、黒だった。
 気がつけば、健二が行ってしまってから大分時間が経った。もう健二は熟睡している頃だろう……。俺もなんだか眠くなってきた。仕方ない、寝よう。そう思って、ドアの方を振り向く。眠気眼を擦って、ドアまでやっとの思いで歩く。そして、ドアノブを引けば、
「ハロー!“黒”ちゃんだよ!」
俺はドアを閉めた。




※※※気が向いたときに設定の追加・変更が行われています。また、現時点で肝心のアルバトロスは資料を貸出しているため書くことができません。※※※
※※※この記事にはストーリー中に出てくる機体の設定がネタバレしております。どうしても読みたい方のみ反転してお読みください。※※※


       フソウ型超弩級航空戦艦「フソウ」
全長 275m 全幅 213m
武装 200口径400mmレールガン 1基 3門
   デコイ砲        1基 6門
   85mm三連装機関砲   28基84門
   五連装対艦船用ミサイル 2基10門
   艦載可能数         30機

 この艦は、地球保護軍による地球統一計画完了後に地球保護軍が各地域に一隻戦艦を造らせるという計画によりエリアF(エリアFは日本を指す)で造られた航空戦艦である。そのフォルムは旧式の戦艦の両脇に航空母艦の格納庫を取り付けたような形をしており、艦橋の後ろには着艦用の滑走路が艦の艦首に対し垂直に取り付けられている。しかしなんといってもフソウの特徴はさまざまな部分から飛び出したレーダー装置である。かつて機関砲を多数設置しハリネズミとも言われた「ヤマト」とはまた別ベクトルの姿でこそあれど、艦のあちこちから伸びるレーダー装置は、やはりハリネズミと呼ぶに相応しい姿である。戦闘時はこのレーダー装置を活用し、敵を超長距離から発見し、この艦はジャミングにより姿を隠し、レールガンにより敵を一方的に射撃する……まさしく悪魔のような艦である。レーダーで敵機を確認できる距離は最大5000km、ジャミングもおよそ最大4000kmであり、普段は消費電力の都合上そこまで巨大な範囲をサーチすることはないが、それでも1000kmもの距離をレーダーでサーチしている。そのため、指令室には広域レーダーマップと狭域レーダーマップの二種類が設置されている。
 その他にもはっきり言ってこんなゲテモノを航空戦艦と呼んでいいのか微妙な部分がある。それはデコイ砲である。デコイ砲はこの艦を守る第二の防壁と言ってもいい物で、これにより近距離戦闘での旗艦損傷率は大幅に減少するとされている。その仕組みは、砲台から高エネルギーを濃縮させたバルーン弾を発射。内部に搭載された簡易CPUによってバルーンを展開、それ以降は砲台から指令や重力制御による移動などが行われ、必要があれば爆破される。これを周囲に何個も配置することによって、旗艦への攻撃の集中を阻止し、また艦隊と思わせることで戦闘を躊躇させる効果がある。ここまで聞けばいいこと尽くめだが、そのデコイ砲が配置されている位置が問題なのである。それは、艦の中心から伸びる艦橋の中心部である。確かに、一番カバーできる範囲が広いのは艦橋の付近だ。しかし、何故艦橋という艦の外見的な要につけてしまったのか……。元々地球保護軍の計画では造らせた艦はどちらかというと戦闘ではなく象徴としての役割が強く、デザインが最も大切な部分であった。各エリアはそれに沿った戦艦を造っていたが、エリアFのみ実戦を意識したデザインとなってしまった。しかし、皮肉にもこの象徴としての「フソウ」は地球保護軍に刃向かう人類抵抗軍の象徴となってしまった。
 飛行にはメインエンジンで推力を得るほかに中心部にある重力制御装置による重力制御が使われている。これにより不可能と思われていた戦艦の飛行を地球で初めて成功させた。地球保護軍の支配下に置かれてもなお、このようなことが可能なエリアFに、改めて恐怖と希望を感じる。この重力制御は艦載機の発艦・着艦にも使われており、これによって短い距離での発艦・着艦を可能としている。
 この艦は「ゼータ」と「フソウ」、どちらかが名前になる予定だった。本来は「ゼータ」となる予定だったが、現場及び一部の将兵が名前を「フソウ」にしろ、とボイコットを決行。一か月に渡り艦の製造、そして軍の支配が停滞し、やむを得ず「フソウ」に決定した。このボイコットに参加した将兵が後の人類抵抗軍を設立し、地球保護軍と戦争を起こした。そもそも、何故「フソウ」なのかと言えば、地球保護軍の支配下に置かれる前のエリアFは「ニホン」と呼ばれていたが、地球憲法によって支配直前の国名は使用禁止となった。よって、かつての「ニホン」とされた「フソウ」という名が付けられたのだった。奇妙なことだが、かつての「ニホン」の戦艦、「扶桑」とは、航空戦艦、艦橋の形が独特であることが共通しており、更には航空戦艦にはせずレールガンを4基増設する予定もあったという。
「なんだ、こんな所に居たのか。もう一時過ぎだ。もう冬なんだし、さっさと布団に入って寝といたほうが身体のためだぜ?今日は新月なんだし、さあさあ寝た寝た!」
 俺が家のバルコニーで考え事をしている時に、健二が声をかけてきた。話を聞く限り、時間はすでに一時を回っているらしい。確かこのバルコニーに出てきたのはまだ9時頃だった筈だ。考え事をしていているとどうしても時間を忘れてしまうな……。とにかく、健二のことを無視するわけにもいかないし、他愛のない会話を済ませ、さっさと考え事に戻るとする。
「もうそんな時間か」
「ああ、そうさ。しかし寒いなあ。お前、明日風邪ひくんじゃないのか?絶対ひくな、この俺が言うんだから間違いないね」
「そんな寒いんなら勝手に自分の部屋で寝てろ。俺はまだ寝るつもりはない」
「寂しいこと言うなよー一緒に寝ようよー!」
面倒くさいな、まったく。こんなことになるなら無視した方が良かったか?
「ほら、無視しとけばよかったとか考えるな!俺はこれでもお前の身体のこと心配し――」
ああもう、無視だ無視。考え事に戻ろう……。
「ちょっと、聞いてr」
テーブルの上のハリセンを健二に叩きつけた。

 俺は新月が嫌いだ。正確に言うと、新月の日の黒くベタ塗りされた空が嫌いだ。どこまでも沈んでいくような深い深い黒。あの黒を見ていると、三ヶ月前の事を思い出してしまう。忘れたくても忘れられない――俺から全てを奪って、跡形もなく消えた“黒”と、あの空白の一時間を。
 あの時は確か――午前二時ぐらいだったか、そのぐらいの時間帯だった。三か月前のその日も新月で、空はやはり黒一色でベタ塗りされていた。当時はマンションに住んでいて、俺の部屋はベランダと繋がっていたから、空がよく見えた。ベランダと俺の部屋を隔てる窓ガラスの向こうには、周りにあるアパートやら、一軒家やらが見えたが、それよりも目につくのは空。まるでこの世界の代表であるかのように堂々としていたものだ。そして、俺はそれを眺めることがとても好きだった。それはもう時間なんて忘れてしまうほどに。一回ずっと空を眺めていて休日を潰し、挙句ぶっ倒れて病院で点滴を受けたこともあった――朝起きて空が綺麗だな、なんて思っていたらいつの間にか月が綺麗だな、に変わっていたような記憶がある。……おっと、話が逸れた。
 とにかく、あの日も自分の部屋から空を眺めていたが、時間はもう二時過ぎ、丑三つ時だ。さすがに朝には学校がある訳だし、寝なくてはいかんと思って、胡坐を解いて立とうとしたときに、“黒”はいた。
 “黒”は……なんて言えばいいのだろうか。とにかく、黒いんだ。純粋な――黒。黒一色である空の中でも、特にその“黒”は目立っていた。白い紙に赤い丸が描いてあるかのような違和感。例えるならば、ウサギの中に一匹ライオンが混じっているような違和感。実際、空にぽっかりと丸い穴が空いていたようだった。違和感を隠そうともしない“黒”に、目が離せなくなってしまった俺は、じっと“黒”を眺めていた。だけど、一分ぐらいたってからだ、違和感の塊である“黒”から、どす黒い、殺気立ったような――いや、あれは明確な殺気だった。“黒”は、殺気のこもった明確な違和感を発した。そして“黒”はどんどん大きく、どんどんこっちへ――こっちへと近づいてきたんだ……。
 俺は最初見間違いかと思った。時間を見るために一瞬目を離した後、もう一回窓の外を見れば、“黒”がさっきよりもはるかに大きくなっていた。もう、窓から見える空の黒より、“黒”の比率のほうが高くなっていたほどだった。めちゃくちゃな大きさまで成長した“黒”は、まだまだ大きくなっていく。ぼぅっと眺めていても、すぐにわかるぐらいの勢いで“黒”が成長を続けていったあの光景を忘れられる人なんて、とてもいるとは思えない。
 “黒”に魅了されたのか、それとも殺気にやられてしまったのか、俺はぼぅっと“黒”を眺めていた。だが、妙なガリガリという音がして、現実に戻されてしまった。マンションなのにネズミが出たのか?なんて悠長な気持ちで考えていたが、上、しかも今自分が見ている空の方向からしたんだ。ずっと鳴っているもんだから、なんだなんだと思って音のする場所を見たら、マンションの屋根が、「喰われて」いた。しかも、“黒”に。そして“黒”も目の前……窓ガラスとベランダを挟んだすぐ傍にいた。試しに窓を開けて手頃な物を投げてみたが――それも喰われていた。そしてとうとう、窓ガラスがパリンという音を出し、“黒”に吸い込まれていった。本能が今更になって“黒”は危険だ、逃げるべきだとアラートを鳴らす。だが、遅すぎた、何もかも。
 リビングで寝ている親が気になって、俺はドアを殴る勢いで開き、廊下を隔てたリビングに向かった。
「父さん!母さん!起きて!“黒”が来る!逃げよう!早く!」
返事はない。目を凝らしてみても、夜目が利かないせいか、リビングがよく見えない。もう一度声をかける。
「父さん!母さん!まだ起きないの!?返事して!」
返事はない。気持ちが焦る。ガリガリという音がすぐそばから聞こえる。時間がない!そう思って、大声で叫んだ。
「父さん!母さ、ッ――――――――!!!!!!」
すぐ傍にあった机がガリガリと音を立てて喰われた。……違う、夜目が利かないんじゃない。夜目が利かないなんてそんな生ぬるいものじゃない……“黒”だ――目の前にいるのは“黒”だ――!
「うわああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
 夢中になって駆けだしたらしい。あの時、気がつけばマンションの外にいた。どうして“黒”の違和感だとか、殺意に気付かなかったのだろう。分かるはずなのに、俺は親が心配で何も見えていなかった。どうしてこうなってしまったのか……後悔だけは今もなお積もっていく。“黒”に対して、俺はあまりにも無知で、愚かで、無力だった……。救いを求めて空を見上げたが、月はない。新月。その空の黒でさえ“黒”に見えて、慌てて目を逸らした。そして俺がついさっきまで住んでいたマンションは、半分以上を“黒”に喰われ、バリバリと大きな音を響かせている。俺はその光景をただ、見ていることしかできなかった。
 その後、“黒”はマンションと、その下の土を喰らい尽くしてそのままどんどん収縮して消えた。今もマンションがあった所には大きな穴があいている。深夜だったこともあって、マンションに住んでいた8割の人たちが“黒”に喰われた。俺は親戚もいなかったから、孤児院に送られるはずだったが、健二の家には何度も行ったし、健二の両親とも面識があったので、健二の親が快く俺を引き取ってくれた。健二の親は成功した実業家で、俺を引き取るぐらい何ともないそうだ。今でも感謝してもし尽くせない。

「ぐぅ……勝一、いきなりハリセン叩きつけてくるんじゃないよ、痛かったじゃないか!」
「空気を読まないお前が悪い」
「そんなこと言わないでくれよぉ。俺だってお前のためを思って言ってやったんd」
今度はハリセンを横からくれてやった。脇腹にめり込んで、健二は倒れた。さすがにこれで懲りただろう。
「俺は何度でも蘇ってやるぞ……お前を倒して世界を救うm」
少し可哀そうだったが健二の左肘と胸元を握って背負い投げをした。木でできたバルコニーにバンッという音が響く。
「……大丈夫か?」
少し待ってみたが、ピクリともしない。畳でやらなかったのがマズかったか?
「おーい、おーい」
揺さぶっても反応がない。これは本格的にマズいんじゃないのか……。とりあえず心臓の音を聞くために健二の胸元に頭を近付ける。
「ああ、もう、畜生。おーい、返事しろー、健二ー」
バチン、と心地よい音が身体に響く。そして背中からヒリヒリとした痛みが発生する。それに、背中に何かが乗っている……健二の顔を見れば、ニヤリと笑っている。やられたか……。
「この野郎、やりやがったな?」
「背負い投げのお返しだぜ、勝一ぃぃぃいいい!!!」
うるさいんだなぁ、こいつ。それはそれでこいつのいいところなんだが、時間と場所をわきまえないのがな。もう真夜中だってのに。
「はいはい、俺がやりすぎましたよ、スミマセンスミマセン」
「はい、は一回って習わなかったのかい?後平謝りだけじゃ許さんぞー絶対に許さんぞー」
「謝っただけでも十分だと思うが……これでお互い様だろ?」
「俺なんかしたー?お前が落ち込んでたから元気を出してあげようと思っただけなんだけどー」
「それがいけないんだ。後、俺は別に落ち込んではいないからな、考え事をしていただけだ」
「嘘つけーどう見ても落ち込んでたよー!」
……深夜までこんな調子が持つ健二はすごいと思う。夜って気分が落ち込むものじゃないのか?
まあいいさ、今日はこいつの意見に乗ってあげよう。さっき思いっきり背負い投げしちまったからな。
 そう思ってバルコニーから室内へ入ろうと歩き始めたとき、腕をグッと掴まれた。少し力を入れて強引に歩こうとしたが、どうにも力が強くて抜けだせない。
「……なんだよ、寝ようと思ってたのに」
「まだ、あのときの事、考えてるんだな」
「悪いか?」
「悪い。そりゃーもうご飯がお預けになった人の前でおいしそうにご飯を食べるぐらい悪い」
意味がわからん。健二の例えは長年一緒にいる俺でさえまったく理解できない。しかし悪いと言いたいことは解ったので気にせず話を続ける。
「で、それと今お前が腕を掴んでいることに一体何の関係があるんだよ」
「……いや、話を聞いてほしくてな」
振り返れば、真剣な顔をした健二がジッと俺を見ている。こんな顔をするなんてそうそうないから、真面目な話をしようとしているのだろう。
「話ってなんだよ」
「過去はもう振り返るなって話だよ」
……過去を振り返って何が悪いんだ。俺のせいで起きた惨劇を、悔んで何が悪いんだ。そう言いたかったが、黙って話を聞く。
「家も、親も、何もかも失って辛いかもしれない。だけど、過去に囚われてたってなんもいいことはないぜ。実際、あの日以来、お前は変わっちまった」
健二がバルコニーの柵に寄りかかる。てっきり話が続くもんだと思っていたが、健二はそれっきり黙ってしまった。俺も何か言えと言いたいのだろう。
「変わるのが人ってもんだろ」
「変わっちゃいけないこともあるんだよ、お前は純粋な水から泥の混じった水溶液に変わっちまった」
「周りの環境が変われば、誰だって変わるさ」
「だからっていつまでも一人で考え続けるのは良くないと思うんだよ」
「あんなこと、考える以外に何ができるってんだ」
「まあ、そうだな……」
健二は、俯いたまま何も言えなくなってしまった。話がしたいって自分で言っておきながら、黙っちまうのはどうなんだ。とにかく、話を続けてみる。
「過去に囚われてる、とお前は言うがそんなことはない。現に俺は今も変わらず学校へ行き友達と遊び日々を楽しみながら生きている。それのどこが囚われているんだ?」
「……」
「二ヶ月前の俺に言うならまだわかる。だが、何故今それを言う?もう俺は今を生きてる」
「……」
「何か言ったらどうなんだ」
「……」
相変わらず、健二は俯いたままだ。このままここにいても何も進展がない。俺は改めて室内に戻ろうと、健二に背を向け、歩き出そうとする。そのとき、健二が一言呟いた。
「悲しいな」
「もう悲しみは消え去ったさ」
「違う、お前がそうやって虚勢を張っているのが悲しいんだよ」
「虚勢だと?」
「そうやって、自分に嘘をついてるんだ、いつまでも、いつまでも、いつまでも」
「嘘はついてない、いつも、俺は正直に生きてる」
「それが、それが嘘なんだよ、勝一」
「――!」
心にナイフが突き立てられた。俺自身さえ意識していなかった自己防衛の盾が、音もなく崩れ去っていく。
「俺はもう過去は過去だ、今を生きてるんだって言っていても、周りから見ればバレバレなんだよ。自分はもう大丈夫だって言い張って、裏じゃあいつまでも一人ウジウジやってる。それじゃあいつまでも変わらないんだよ」
健二が一歩、一歩こっちへ近づいてくる。俺は木偶の坊のように動けない。そのまま、健二に胸倉を掴まれた。
「……いい加減、いい加減一人で悩んでんじゃねぇよ!」
「……なんでだよ」
「根本的な解決にはならねぇんだよ!そんな風に生きてちゃ!」
「お前にこの苦しみが!悲しみが!解るって言うのかよ!!!」
俺は思いのままに叫んだ。叫び声は周りの空気を伝わり、空気にかき消されていった。無言のベールが、辺りを包んでゆく。やがて、健二は手を離し、俺に顔を近づけて一言零した。
「解るよ」
「解る訳がないんだよ!お前には!こんな家に生まれたお前には!」
「解るんだよッ!俺だって!ヤツに!“黒”に!全部奪われたからな!!!」
「え」
嘘だ……健二はこの家の生まれだった筈だ……じゃあこの家は……あいつの両親は一体誰なんだ……?
「俺だって!悔しかったんだよ!悲しかったんだよ!でも!乗り越えてきたんだ!だというのに!お前はいつまでもそうやって!」
「健二……?」
殺気立った健二の眼に、思わず俺はすくんでしまう。いつもしょうもない冗談を言って場を和ます健二とはとても思えない姿は、まるで復讐をせんとす鬼神のようにも見えた。
「とにかく!とにかくだ!一人で苦しんでんじゃねぇよ!苦しんだったら、俺に、言ってくれよ、なあ、勝一……?」
 それから、ずっと無言の間が続いた。

「さっきはわりーな、勝一。感情的になっちまったぜ」
「いや、お前の気に触るような事を言って悪かった。謝るのは俺の方だ」
「ホーントよ、あーだこーだ説教しときながら結局俺も同じようなもんなんだよなー同じ穴のメジナってか?」
「狢だろ」
「そうだな!ハハハハハ!」
健二はさっきまでの姿が嘘のように無邪気に笑う。どうしてもさっき言っていたことが気になってしまうが、口には出さず、健二の方から話し始めるのを待つことにした。
「なあ、今何時だろうな」
「さあ?分かったらそいつはエスパーに違いないな!」
「「ハハハハハハ!」」
「エスパーって便利だろうな」
「だよねー未来予知とか出来て便利だろうね」
「未来予知かぁ」
未来予知ができたら……あんな事は起きなかったのかもしれない。エスパーなんているわけがないが、もし俺にその力があったのなら、そう考えてしまう。
「未来予知……あったらいいねぇ……」
健二が一人呟く。その声は微かに震えていた。
「……今まで黙ってて悪かったけど、俺も、“黒”に襲われたことがあるんだ」
“黒”、その単語を聞くだけでも身震いしてしまいそうだったが、グッと堪えて話を聞いた。
「俺、じいちゃんと隣町の教会で暮らしてたんだ。両親はもういなかったし、神父だったじいちゃんの所で毎日平和に暮らしてた。だけど……」
「“黒”が来たんだな」
「ああ。“黒”は教会とそのそばにあったじいちゃん家を飲み込んだ。まだそのときは小さかったけれど、あのときの恐怖はよく覚えてて……そしてこの憎しみも……」
静かに、しかし怒りの籠った声で健二はそう言った。俯いている顔から何かが落ちているのが見えて、よく見てみれば、大玉の涙が鉄球のように落ちていっている。
「だけど、じいちゃんは言ったんだ、Shining ray、決して神は人を見捨てないからと。だから、俺はその言葉を胸に、今こうやって生きているんだ。神が人を見捨てないなら、自分が自分を見捨てちゃ駄目だって」
Shining ray。意味として言えば「光り輝く」とか「輝く光」とかそういう意味だけれど、その奥に秘められた、「希望」。その希望という言葉は、今の俺にも深く染み込んでいくような気がした。
「……お前が俺と同じ目に合ったとき、俺はお前を助けなきゃ、救わなきゃって思ったんだ。俺にもその経験があるからって。だけど、お前と、俺じゃあ細かい一片一片が違って。……力になれなくってごめんな」
「いいんだ、いいんだ……ありがとう、健二」
なんだろう、この目から頬を伝ってゆく涙は。何故だろう、この止まることを知らない涙は。どこまでも、どこまでも、どこまでも……涙が零れていく。
「おいおい、泣かれちゃあ困るぜ……俺は元気出してもらいたいだけなんだけどなぁ」
頭をポリポリと掻く健二の姿が滲んで見えない。
「元気は、出たから、俺も、頑張るから、だから、だから、ありがとう、本当に、ありがとう、健二……」
「苦手だよこーいうの……まあ、落ち着いたら寝るんだよ?風邪ひかれたら困るからな」
そういうと、スタスタとドアを向かっていく。俺は振り返らずに、涙が止まるまでひたすら待った。

 涙が止まっていると気づくには、かなりの時間がかかった。心の中で渦巻く感情が、ついに一応の決着をつけた。
「もう、大丈夫だ」
誰に確認するわけでもなく、一人呟く。もう、大丈夫だ……俺は今に戻ってくることができた……あいつの、健二のおかげで。いつもヘラヘラ笑っているのに、心の奥では俺よりも苦しんでいた。自分のためではなく、俺のために。そう思うとまた涙が出てきたが、それを拭って空を見上げる。ちっぽけな俺が、愛していた空。大きな、大きな空を。どこまでも受け入れてくれる深い深い黒。そこには、かつて俺が嫌っていた“黒”は無かった。そこにあったのは、ただの、黒だった。
 気がつけば、健二が行ってしまってから大分時間が経った。もう健二は熟睡している頃だろう……。俺もなんだか眠くなってきた。仕方ない、寝よう。そう思って、ドアの方を振り向く。眠気眼を擦って、ドアまでやっとの思いで歩く。そして、ドアノブを引けば、そこに“黒”がいた。










end