飛行機を見て流れ星だと思った少年が、指を差してお母さんに尋ねるの。
「ママ、あれは何なの?」
だけどママは少年の質問に対して、
「飛行機よ」
と答える。
大人になるってこういう事なんだな。
少年には飛行機が流星に見えた。
でもママにとっては昼下がりの町を通るものなど飛行機でしかあり得ないのだ。
味のないスピードのままビルからビルへと消えてしまった飛行機。
少年は思った。どうして飛行機だと言い切れるの?もしかしたら、流れ星かも知れないじゃないか。
説明が欲しかった。偉い教授や専門家から論破されるようなものではなく、もっと単純にママがなぜそれを飛行機と思ったのかという説明を。
でもママからは、何も返ってこない。終いに少年はママに手を取られ家へと連れていかれてしまった。
こうして少年が流星を見た瞬間は斯くも通り過ぎてしまって。そして少年はその時に覚えた疑問や感情さえも忘れてしまった。
おそらく彼が次にまた流星のような飛行物体を昼下がりの街で見かけても、流れ星だとは思わないだろう。なぜなら、少年はもう大人になってしまったから。あの頃と違って、目に見える世界が変わってしまったから。
僕らは、大人になってしまったんだ。
輝きを失った、大人に。
昨日から二日間、僕は大学の同級生や後輩と会ってきた。
そこで感じたことは「大人になってしまった」という気持ち。
昨日会ったみんなは、あの日あの時出会いともに過ごしたなかまとはまるでかけ離れたような、そんな全く知らない人たちのようにさえ思えた。
歳月人を待たず、という言葉がある
あれはきっと昔の仲間だけじゃなくて、
昔の自分にも当てはまるのでは無いか。
僕が忘れられたのは、
みんなと距離が離れてしまったから、ではない。
僕が忘れられたのは、
僕が僕のことを忘れてしまったから。
かつての友達や後輩とは、
どんな事を話していたっけ?
どんな事を夢見ていたっけ?
どんな事に興味を持ち、研究をし、明日の自分に向かって希望を抱いていたっけ?
全部、忘れてしまった。
もう二度と会えない物に溢れていた、あの青春時代。
飛行機を見れば、僕の中の少年はTシャツで走っただろう。
快晴にシャトルが打ち上がれば、釘付けになっただろう。
夢という名の流れ星を見上げれば、それをみんなと一緒に見ていたくて。笑っていたくて。
何もない毎日でも、その時の空気や気温、匂い、心拍数、音、声、その他あらゆる感覚を全身に受けていた。
あの時の僕、君、みんな。
もう、どこにも居ない。忘れてしまった。
かいた汗も渇いてしまった。
過ぎて行く。時はいつも、過ぎて行く。
様々な記憶が色褪せていき、それでもその記憶を頼りにしながら、
僕はそっと大人になる。なっていくよ。