『振戦、無動、筋固縮、姿勢反射障害はパーキンソン病の四大症候といわれそれぞれ互いに独立な障害と考えられている。したがってこのうちいくつの症候があればパーキンソンニズムといってよいかが問題になる。この点にははっきりした定義がないが、上記四つの症候のうち、いずれか二つがあればパーキンソンニズムといってよい症状である。パーキンソンニズムのなかで、特発性パーキンソンニズム、すなわちパーキンソン病が大多数を占める。特発性以外のものは症候性パーキンソンニズムであり、病因には多種のものがある。またパーキンソン病以外の変性疾患においてパーキンソンニズムを呈するものは、連合性パーキンソンニズムとよばれている。』
1. 症候性パーキンソンニズム
1) 脳血管障害性パーキンソンニズム
線条体や淡蒼球などに血管障害性病変が起こり、その病変の大きさとは無関係に、のちにパーキンソンニズムを呈してくる高齢者が多く、臨床的に脳血管障害性パーキンソンニズムとよばれている。60~70歳以後の発症が多く、振戦は少ない。L-dopaの効果は不良である。
2) 薬物性パーキンソンニズム
1950年代頃から、精神病の治療として、レセルピン、クロプロマジン、ハロペリドールなどが相次いで登場したが、比較的早い頃から、これらの薬物投与中の患者に複雑かつ多様な錐体路症状が生じることが知られていた。その頻度は向精神薬投与患者の40~50%とされ、かなりな率に上がる。さらにその中の約1/2はパーキンソンニズムを呈するものであり、これを薬物性パーキンソンニズムとよぶ。通常投薬開始後数週間から数ヶ月して発症してくることが多いが、これには個人差が大きく、早い人では1~2週間後に発症することもある。頻度は低いが降圧薬としてレセルピンを投与されている高血圧患者にも発症することがあり、注意を要する。完成した臨床症状はいわゆるパーキンソン病と本質的に変わるところがないが、異常発汗など自律神経症状が比較的強いこと、ときに眼球回転発作をみること、などの特徴ということができる。とくに眼球回転発作は脳炎後パーキンソンニズムとこの薬物性錐体外路障害以外ではほとんど認めないことから、その診断的価値が高い。治療は、原因となっている向精神薬を減量ないしは中止することが原則であるが、原疾患から考えてそれが容易でない場合もある。同様効果をもつ他の薬物に変更も減量を困難な場合には例えばtrihexyphenidyl 6~10mg/日程度から漸増療法を試みる。なおこの薬物性パーキンソンニズムは通常の薬物中毒の場合とことなり、理由は不明ながら原因薬物の投与を継続していても1~2ヶ月のうちに自然に軽快する場合がある。抗パーキンソン病薬の併用を中止してもパーキンソンニズムが再発してくるものは約1/4しかないとする統計もある。したがって、抗パーキンソン病薬の併用はおおよそ1ヶ月を目途に減量または中止して経過をみることが勧められている
3) 脳炎後パーキンソンニズム
1915年から数年にわたって欧州に発し世界中に広がったvon Economo嗜眠性脳炎に罹患後、その後遺症として生じたものが脳炎後パーキンソンニズムである。臨床症状はいわゆるパーキンソン病と本質的には区別できないが、パーキンソン病に比して自律神経症状、例えば発刊過多、流涎過多、瞳孔異常の頻度やその程度が高い。また、有痛性の眼球回転発作は、脳炎後パーキンソンに特徴的である。病理学的には、パーキンソン病と同様に黒質のメラニン含有細胞の脱落・変性を認めるが、その程度は通常きわめて高度である。しかし、顕微鏡的にはパーキンソン病と異なり、Alzheimer原線維変化が黒質、脳幹神経核、視床下部などに著明に出現している。
このような脳炎後パーキンソンニズムは1930年以降脳炎が自然消滅したのに並行して新たな発症は激減し、消失した。しかし、日本脳炎など他の脳炎後にもvon Economo脳炎のそれに比して程度はきわめて軽く、自律神経症状や振戦などは少ないが、パーキンソンニズムを呈する症例があることが認められている。
2.連合性パーキンソンニズム
1) オリーブ橋小脳萎縮症
1900年にDejerineとThomasが1剖検例とともに報告した。40~50歳代に小脳性運動失調で発病する脊髄小脳変性症の一型である。臨床的には錐体外路症状や自律神経症状をともなうことが多い。病理学的には、小脳皮質全層の変性、中小脳脚の萎縮などのほか、線条体黒質変性とシャイ・ドレーガー症候群同様の黒質変性や脊髄病変を伴う。
2) 線条体黒質変性症
1961~1964年のAdamsらにより疾患単位として報告された。臨床的には50~60歳代に発症するパーキンソン病あるいはパーキンソンニズムと診断される。病理的にはパーキンソン病におけると同様の黒質メラニン含有細胞の著明な脱落・変性とともに、パーキンソン病では消してみることのない線条体の著しい萎縮、神経細胞変性、褐色色素沈着を呈する特異的な病態である。臨床的に通常のパーキンソン病と比べると、振戦を欠く症例、錐体路徴候を呈する症例、両下肢から発症する症例、自律神経症状、とくに膀胱直腸障害を呈する症例が多い、レボドパの効果がないかあっても一過性である、などの違いがあるが臨床症状のみからパーキンソン病とがく然と区別できるものではない。
臨床的に本症例が疑われ、剖検で確認されるものが多いが、ほとんどの症例でオリーブ橋小脳萎縮症の病変と同時に存在する。その場合MRIなど脳画像にて橋および小脳の明らかな萎縮が認められることが多く、臨床的に本症の存在を強く疑うことができる。しかしこの場合も小脳症状を認めることはむしろ例外的である。
3) シャイ・ドレーガー症候群
1960年にシャイとドレーガーにより起立性低血圧、尿屎失禁、発汗減少、陰萎、瞳孔異常など自律神経症候にて発症し、それに比較的軽度のパーキンソンニズム、小脳性運動失調などが加わった成人の進行性変性疾患として報告されたものである。剖検にて、自律神経症状の責任病巣として脊髄中間外側核お神経細胞の変性・脱落を指摘した点は高く評価されるが、ほとんどすべての症例がオリーブ橋小脳萎縮病変あるいは線条体黒質変性病変を有していることがわかった。
自律神経症候が初発ないし比較的初期から発現し、しかも前景に立つ場合に限って臨床的にMSAの中のシャイ・ドレーガー症候群とよぶ。
4) 進行性核上性麻痺
1963年、Richardsonの臨床観察とOlsezwski、Steeleの病理観察により、一疾患単位として確立した50~70歳代発症の特異な進行性変性疾患である。臨床的には、体感を中心とする無動や筋固縮があり、振戦はまれではあるがパーキンソンニズムを呈する。しかしながら、本症はむしろ核上性眼球運動障害、とくに垂直方向の眼球運動制限、頸の過後屈を呈する体幹ジストニーにより特徴づけられる。そのほかには偽性球麻痺、痴呆なども存在する。通常は散発例である。
このような完成した病像を見た場合にはパーキンソン病と明らかに鑑別できるが、病初期には、単に転びやすい、視力が低下した、忘れっぽいなどの局在不定の症状が2~3年続くことが多く、その時期での診断は困難である。病理学的には、中脳から橋にかけての被蓋部の強い萎縮が特徴的であり、生前脳X線CTにて確認できることも少なくない。さらに小脳歯状核、黒質に肉眼的にも明らかな変性がある。顕微鏡てきには、視床下部、淡蒼球、黒質、小脳歯状核、上丘、中脳水道周囲灰白質などの脳幹の神経細胞体内に神経原線維変化を広汎に認めることが特徴である。
◎パーキンソン病の臨床像
1) 振戦(tremor)
パーキンソン病でみられる振戦は、患者が休息した状態で出現するのが特徴である。主動筋と拮抗筋が交代性に収縮する不随意律運動であり、随意運動によって抑制されることから安静時振戦とよばれる。振戦の振戦数は4~7ヘルツと比較的遅く、甲状腺機能亢進症などにみられる8~10ヘルツの、早くかつ振幅の小さいものとことなり粗大である。部位は四肢、口唇、舌、下顎などにみられるが上肢の遠位部に最も頻度が高い。
典型的なものは母指と示指を擦り合わせるようにみえ、丸薬を丸める動作と名づけられている。医師の前では精神的緊張のため増強することが多いので見逃すことは少ない症状であるが、軽微な場合は暗算負荷や対側肢の運動負荷を行って確認する必要がある。初期には一側の上肢または下肢に安静時振戦がみられるのが大部分であるが、病状が進行すれば口唇、舌などに及ぶこともある。また振戦が強いと、安静時のみならず動作時にも振戦(姿勢振戦)が出現し、随意運動を障害することも少なくない。発症後早期から頭部振戦が顕著で他の症状がみられない場合は、本態性振戦や老人性振戦のことが多い。
2) 筋固縮(rigidity)
パーキンソンニズムの診断をする場合必須の神経徴候とされ、受動運動時の全般的な筋肉抵抗の増強でもって検出される。通常、手関節、肘関節または頸部を他動的に動かして判定する。本症の固縮は可塑性があり、受動運動字の筋の抵抗は一様で、鉛管を曲げるような抵抗のため鉛管現象とよばれる。しばしばガクガクとした断続的な抵抗を認め、歯車現象とよばれ、振戦のある部位にみられることが多い。
また、筋固縮は四肢、頸部にみられるが、通常屈筋群と回内筋群に優位なため、頸は前屈し肘関節や膝関節は屈曲し、母指は内転位のような特異な姿勢をとりやすい。頸部の筋固縮はパーキンソン病に必発であり、仰臥位で頸部の力を抜かせ、他動的に頭を持ち上げ抵抗を調べてから急に離すとゆっくり落下する。また手関節や肘関節で検査する場合、特に病初期やすでにL-DOPA等の抗パーキンソン病剤が入っていて筋固縮が軽微なときは、反対側の交互反復運動などを命ずると顕在化することが多い。
3) 無動(akinesia)、寡動(bradykinesia)
あらゆる動作の開始、遂行が遅く、かつ乏しいのが本症の特徴であり主に緩徐さを表現する用語として寡動、運動量の減少に対しては無動が用いられるが、両者は密接に関連しており区別することが困難なため、まとめて無動と記載されることが多い。表情筋の無動と筋固縮によって生じる仮面様顔貌や共同運動の障害による歩行時の腕振り現象などは安静時振戦と共に本症診断のホールマークとされる。L-DOPA導入以前は、筋固縮お無動の区別が必ずしも明確ではなかったが、L-DOPAによって筋固縮が完全に除去された患者にも無動がみられることから、独立した症候として認識されている。
また、無動の部分症状としてすくみ現象がある。すくみ足は、歩行の開始または歩行中に足底があたかも床面にへばりついたようになって歩けなくなる症状を指す。しかし、足前に横線が引いてある、またげる程度の障害物があると容易に踏み出すことができる。また、号令をかけたりする聴覚刺激によってもすくみが回避されることもあり、このような現象は奇異運動とよばれる。すくみ現象は歩行のみならず会話や上肢の変換運動時にもみられ、すくみ言語、すくみ手と名づけられている。
4) 姿勢反射障害
本症の姿勢反射障害は臨床的に、姿勢保持障害、平衡障害、立ち直り反応障害、共同並びに連合運動障害、歩行・走行障害、に区別される。姿勢反射障害は無動の反映にすぎないという考え方と、独立した症候であるという説があり、後者に基づいて振戦、筋固縮、無動の三大徴候に加えて、パーキンソンニズムの四大徴候とする考え方もある。しかし、L-DOPAに抵抗性のすくみ現象に対してL-threo-DOPSを用いた治験で、L-DOPS有効例ではすくみ現象、無動、姿勢反射障害に同程度に有効であったことより、無動と密接に関連した症候の可能性も残されている。
また、平衡障害や立ち直り反射障害は早期ではあまり見られない症候であるが、病期が進むにつれ顕著となりL-DOPA治療で改善しがたい症候である。姿勢保持障害のために頭部・体幹は前屈し、肩・腕は内転、前屈し、下肢でも股関節・膝関節が屈曲するようになる。屈曲型を示すものが大多数であるが、まれに伸展になり、わずかな外力によっても立ち直り反射障害や平衡障害のために押された方向へ突進する突進現象が生じてしまい、倒れてしまう。歩行開始時はすくみ足のために第一歩が踏み出せないが、その後いったん歩行を始めると前傾・前屈姿勢で小刻み歩行となり、ちょうどブレーキの故障した車のように速足となって、急に止まることができない加速歩行を示す。
5) 会話・講語障害
音量は減少し、抑揚が乏しく単調となる。リズム感の低下により歌が下手になったり、電話での会話が聞き取りにくいなどで、本症と気づかれることもある。どもったり,早口でしゃべったりして聞き取られにくくなる。これは、言語におけるすくみ現象や加速現象によるとされている。通常は病期の進展に伴って頻度が増加し、発症10年以上では8割の患者で出現する。同居の配偶者が老人性難聴であったりすると、意思の疎通が悪く療養生活に支障となることがある。
6) 書字障害
振戦による字の乱れと、文字が最初は普通の大きさに書けるのに無動と筋固縮のために次第に小さくなる現象がみられ、小字症とよばれる。
7) 自律神経障害
流涎:唾液分泌過多によるより、むしろ唾液の自動的な嚥下運動の減少により流涎がみられる。したがって正確には自律神経障害ではない。
便秘:消化管平滑筋の運動障害と抗パーキンソン剤の副作用により便秘を生ずる。
脂顔:皮脂腺の分泌亢進により、脂顔、ふけが多くなる。
多汗:頭、顔、頸部の発汗が亢進する。また腋窩、手掌、足底などアポクリン腺の発汗亢進がみられる。
起立性低血圧:中枢性の血圧調整障害がみられ、血圧は変動し起立性低血圧をきたす。またL-DOPAやドーパミンアゴニストにより低血圧を生じやすい。
四肢循環障害:外界の温度がさがると主に四肢(特に下肢先端部)の循環障害をきたし、冷感や時にはしびれ感を訴える。特に運動症状に左右差の明らかな患者は、通常、筋固縮や無道の著しい側で、より循環障害も著しい。
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1) 振戦(tremor)
パーキンソン病でみられる振戦は、患者が休息した状態で出現するのが特徴である。主動筋と拮抗筋が交代性に収縮する不随意律運動であり、随意運動によって抑制されることから安静時振戦とよばれる。振戦の振戦数は4~7ヘルツと比較的遅く、甲状腺機能亢進症などにみられる8~10ヘルツの、早くかつ振幅の小さいものとことなり粗大である。部位は四肢、口唇、舌、下顎などにみられるが上肢の遠位部に最も頻度が高い。
典型的なものは母指と示指を擦り合わせるようにみえ、丸薬を丸める動作と名づけられている。医師の前では精神的緊張のため増強することが多いので見逃すことは少ない症状であるが、軽微な場合は暗算負荷や対側肢の運動負荷を行って確認する必要がある。初期には一側の上肢または下肢に安静時振戦がみられるのが大部分であるが、病状が進行すれば口唇、舌などに及ぶこともある。また振戦が強いと、安静時のみならず動作時にも振戦(姿勢振戦)が出現し、随意運動を障害することも少なくない。発症後早期から頭部振戦が顕著で他の症状がみられない場合は、本態性振戦や老人性振戦のことが多い。
2) 筋固縮(rigidity)
パーキンソンニズムの診断をする場合必須の神経徴候とされ、受動運動時の全般的な筋肉抵抗の増強でもって検出される。通常、手関節、肘関節または頸部を他動的に動かして判定する。本症の固縮は可塑性があり、受動運動字の筋の抵抗は一様で、鉛管を曲げるような抵抗のため鉛管現象とよばれる。しばしばガクガクとした断続的な抵抗を認め、歯車現象とよばれ、振戦のある部位にみられることが多い。
また、筋固縮は四肢、頸部にみられるが、通常屈筋群と回内筋群に優位なため、頸は前屈し肘関節や膝関節は屈曲し、母指は内転位のような特異な姿勢をとりやすい。頸部の筋固縮はパーキンソン病に必発であり、仰臥位で頸部の力を抜かせ、他動的に頭を持ち上げ抵抗を調べてから急に離すとゆっくり落下する。また手関節や肘関節で検査する場合、特に病初期やすでにL-DOPA等の抗パーキンソン病剤が入っていて筋固縮が軽微なときは、反対側の交互反復運動などを命ずると顕在化することが多い。
3) 無動(akinesia)、寡動(bradykinesia)
あらゆる動作の開始、遂行が遅く、かつ乏しいのが本症の特徴であり主に緩徐さを表現する用語として寡動、運動量の減少に対しては無動が用いられるが、両者は密接に関連しており区別することが困難なため、まとめて無動と記載されることが多い。表情筋の無動と筋固縮によって生じる仮面様顔貌や共同運動の障害による歩行時の腕振り現象などは安静時振戦と共に本症診断のホールマークとされる。L-DOPA導入以前は、筋固縮お無動の区別が必ずしも明確ではなかったが、L-DOPAによって筋固縮が完全に除去された患者にも無動がみられることから、独立した症候として認識されている。
また、無動の部分症状としてすくみ現象がある。すくみ足は、歩行の開始または歩行中に足底があたかも床面にへばりついたようになって歩けなくなる症状を指す。しかし、足前に横線が引いてある、またげる程度の障害物があると容易に踏み出すことができる。また、号令をかけたりする聴覚刺激によってもすくみが回避されることもあり、このような現象は奇異運動とよばれる。すくみ現象は歩行のみならず会話や上肢の変換運動時にもみられ、すくみ言語、すくみ手と名づけられている。
4) 姿勢反射障害
本症の姿勢反射障害は臨床的に、姿勢保持障害、平衡障害、立ち直り反応障害、共同並びに連合運動障害、歩行・走行障害、に区別される。姿勢反射障害は無動の反映にすぎないという考え方と、独立した症候であるという説があり、後者に基づいて振戦、筋固縮、無動の三大徴候に加えて、パーキンソンニズムの四大徴候とする考え方もある。しかし、L-DOPAに抵抗性のすくみ現象に対してL-threo-DOPSを用いた治験で、L-DOPS有効例ではすくみ現象、無動、姿勢反射障害に同程度に有効であったことより、無動と密接に関連した症候の可能性も残されている。
また、平衡障害や立ち直り反射障害は早期ではあまり見られない症候であるが、病期が進むにつれ顕著となりL-DOPA治療で改善しがたい症候である。姿勢保持障害のために頭部・体幹は前屈し、肩・腕は内転、前屈し、下肢でも股関節・膝関節が屈曲するようになる。屈曲型を示すものが大多数であるが、まれに伸展になり、わずかな外力によっても立ち直り反射障害や平衡障害のために押された方向へ突進する突進現象が生じてしまい、倒れてしまう。歩行開始時はすくみ足のために第一歩が踏み出せないが、その後いったん歩行を始めると前傾・前屈姿勢で小刻み歩行となり、ちょうどブレーキの故障した車のように速足となって、急に止まることができない加速歩行を示す。
5) 会話・講語障害
音量は減少し、抑揚が乏しく単調となる。リズム感の低下により歌が下手になったり、電話での会話が聞き取りにくいなどで、本症と気づかれることもある。どもったり,早口でしゃべったりして聞き取られにくくなる。これは、言語におけるすくみ現象や加速現象によるとされている。通常は病期の進展に伴って頻度が増加し、発症10年以上では8割の患者で出現する。同居の配偶者が老人性難聴であったりすると、意思の疎通が悪く療養生活に支障となることがある。
6) 書字障害
振戦による字の乱れと、文字が最初は普通の大きさに書けるのに無動と筋固縮のために次第に小さくなる現象がみられ、小字症とよばれる。
7) 自律神経障害
流涎:唾液分泌過多によるより、むしろ唾液の自動的な嚥下運動の減少により流涎がみられる。したがって正確には自律神経障害ではない。
便秘:消化管平滑筋の運動障害と抗パーキンソン剤の副作用により便秘を生ずる。
脂顔:皮脂腺の分泌亢進により、脂顔、ふけが多くなる。
多汗:頭、顔、頸部の発汗が亢進する。また腋窩、手掌、足底などアポクリン腺の発汗亢進がみられる。
起立性低血圧:中枢性の血圧調整障害がみられ、血圧は変動し起立性低血圧をきたす。またL-DOPAやドーパミンアゴニストにより低血圧を生じやすい。
四肢循環障害:外界の温度がさがると主に四肢(特に下肢先端部)の循環障害をきたし、冷感や時にはしびれ感を訴える。特に運動症状に左右差の明らかな患者は、通常、筋固縮や無道の著しい側で、より循環障害も著しい。
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「異常歩行」
①船乗り歩行:両側の歩隔を広くして歩く。骨盤や肩が上下に大きく動揺する歩行であり、腰椎の前弯が強い時にも起こる。
②スイング歩行:中殿筋の収縮をわざと妨げることによって、骨盤を左右に大きく降下させ、臀部を大きく振る。いわゆるムーンウォーク歩行。
③行進歩行:ゆっくりとした行列で行進するように、歩行率は低く、歩行周期時間の長い延長である。短脚支持期が長く、遊脚側の足底は地面の近くを通る。この歩行では、完全なバランスが保たれていることが必要である。
④気取り歩行:踵接地の代わりに、足底全体で接地する。歩幅は短く、足早に歩く。
⑤前かがみ歩行:肩をすぼめ、腰を過伸展して、膝を屈曲させた姿勢となり、短い歩幅でゆっくりと歩く。
⑥疲労歩行:前かがみ歩行に似ているが、股と膝を屈曲し、重心を低くして歩く。足の運びはゆっくりとして、同時定着時期が低下している。
「異常歩行の観察」
【一般的な所見】
①運動の左右対称性
②運動の滑らか
③腕の振り
④身体の上下運動
【特殊所見】
①頭部の位置
②肩の位置
③骨盤の傾き
④股関節の屈伸、内外転、内外旋
⑤足関節の動き
⑥膝関節の安定性、屈伸の程度
⑦踵接地、立脚中期、爪先離地における足の状態
「中枢神経疾患による異常歩行」
①痙性歩行:歩行時に患側上肢の振りがなく、下肢を外転して踏み出し、足の運動軌跡は、円弧上になる(草刈り歩行)。患側の立脚相は短縮し、健側は延長する。また、立脚中期には、患側が反張膝になりやすい。
②パーキンソン歩行:前屈姿勢で、歩幅が短く、足底を地面に擦るような小刻み歩行である。腕の振りは消失する。静止立位から1歩目の振り出しも困難であり、両側が地面に貼りついたかのようになる(すくみ現象)。メトロノームによる聴覚的なリズム、横断歩行や階段のような視覚的なシズムがあると、すくみ現象は消失して、普通に歩ける。また、前傾姿勢で歩き始めると、次第に歩幅が狭くなり、足の運びも速くなる。
③運動失調性歩行:運動失調は病変部位によって、脊髄性、小脳性、前庭性に分けられ、それぞれが特徴的な異常歩行パターンを呈する。小脳性運動失調では、患者は身体の動揺が大きく、歩幅を広くした不安定な歩容を呈する歩行は遅い。脊髄性運動失調では、深部感覚障害のため、患者は下肢の肢位や運動の情報を利用できない。視覚に頼って足元を見つめ、遊脚相には足を高く上げ、踵接地に続いて足底を地面に叩きつけるようにして立脚相に移行する。
①船乗り歩行:両側の歩隔を広くして歩く。骨盤や肩が上下に大きく動揺する歩行であり、腰椎の前弯が強い時にも起こる。
②スイング歩行:中殿筋の収縮をわざと妨げることによって、骨盤を左右に大きく降下させ、臀部を大きく振る。いわゆるムーンウォーク歩行。
③行進歩行:ゆっくりとした行列で行進するように、歩行率は低く、歩行周期時間の長い延長である。短脚支持期が長く、遊脚側の足底は地面の近くを通る。この歩行では、完全なバランスが保たれていることが必要である。
④気取り歩行:踵接地の代わりに、足底全体で接地する。歩幅は短く、足早に歩く。
⑤前かがみ歩行:肩をすぼめ、腰を過伸展して、膝を屈曲させた姿勢となり、短い歩幅でゆっくりと歩く。
⑥疲労歩行:前かがみ歩行に似ているが、股と膝を屈曲し、重心を低くして歩く。足の運びはゆっくりとして、同時定着時期が低下している。
「異常歩行の観察」
【一般的な所見】
①運動の左右対称性
②運動の滑らか
③腕の振り
④身体の上下運動
【特殊所見】
①頭部の位置
②肩の位置
③骨盤の傾き
④股関節の屈伸、内外転、内外旋
⑤足関節の動き
⑥膝関節の安定性、屈伸の程度
⑦踵接地、立脚中期、爪先離地における足の状態
「中枢神経疾患による異常歩行」
①痙性歩行:歩行時に患側上肢の振りがなく、下肢を外転して踏み出し、足の運動軌跡は、円弧上になる(草刈り歩行)。患側の立脚相は短縮し、健側は延長する。また、立脚中期には、患側が反張膝になりやすい。
②パーキンソン歩行:前屈姿勢で、歩幅が短く、足底を地面に擦るような小刻み歩行である。腕の振りは消失する。静止立位から1歩目の振り出しも困難であり、両側が地面に貼りついたかのようになる(すくみ現象)。メトロノームによる聴覚的なリズム、横断歩行や階段のような視覚的なシズムがあると、すくみ現象は消失して、普通に歩ける。また、前傾姿勢で歩き始めると、次第に歩幅が狭くなり、足の運びも速くなる。
③運動失調性歩行:運動失調は病変部位によって、脊髄性、小脳性、前庭性に分けられ、それぞれが特徴的な異常歩行パターンを呈する。小脳性運動失調では、患者は身体の動揺が大きく、歩幅を広くした不安定な歩容を呈する歩行は遅い。脊髄性運動失調では、深部感覚障害のため、患者は下肢の肢位や運動の情報を利用できない。視覚に頼って足元を見つめ、遊脚相には足を高く上げ、踵接地に続いて足底を地面に叩きつけるようにして立脚相に移行する。