◎パーキンソン病の臨床像


1) 振戦(tremor)

パーキンソン病でみられる振戦は、患者が休息した状態で出現するのが特徴である。主動筋と拮抗筋が交代性に収縮する不随意律運動であり、随意運動によって抑制されることから安静時振戦とよばれる。振戦の振戦数は4~7ヘルツと比較的遅く、甲状腺機能亢進症などにみられる8~10ヘルツの、早くかつ振幅の小さいものとことなり粗大である。部位は四肢、口唇、舌、下顎などにみられるが上肢の遠位部に最も頻度が高い。
典型的なものは母指と示指を擦り合わせるようにみえ、丸薬を丸める動作と名づけられている。医師の前では精神的緊張のため増強することが多いので見逃すことは少ない症状であるが、軽微な場合は暗算負荷や対側肢の運動負荷を行って確認する必要がある。初期には一側の上肢または下肢に安静時振戦がみられるのが大部分であるが、病状が進行すれば口唇、舌などに及ぶこともある。また振戦が強いと、安静時のみならず動作時にも振戦(姿勢振戦)が出現し、随意運動を障害することも少なくない。発症後早期から頭部振戦が顕著で他の症状がみられない場合は、本態性振戦や老人性振戦のことが多い。


2) 筋固縮(rigidity)
 
パーキンソンニズムの診断をする場合必須の神経徴候とされ、受動運動時の全般的な筋肉抵抗の増強でもって検出される。通常、手関節、肘関節または頸部を他動的に動かして判定する。本症の固縮は可塑性があり、受動運動字の筋の抵抗は一様で、鉛管を曲げるような抵抗のため鉛管現象とよばれる。しばしばガクガクとした断続的な抵抗を認め、歯車現象とよばれ、振戦のある部位にみられることが多い。
 また、筋固縮は四肢、頸部にみられるが、通常屈筋群回内筋群に優位なため、頸は前屈し肘関節や膝関節は屈曲し、母指は内転位のような特異な姿勢をとりやすい。頸部の筋固縮はパーキンソン病に必発であり、仰臥位で頸部の力を抜かせ、他動的に頭を持ち上げ抵抗を調べてから急に離すとゆっくり落下する。また手関節や肘関節で検査する場合、特に病初期やすでにL-DOPA等の抗パーキンソン病剤が入っていて筋固縮が軽微なときは、反対側の交互反復運動などを命ずると顕在化することが多い。


3) 無動(akinesia)、寡動(bradykinesia)
 
あらゆる動作の開始、遂行が遅く、かつ乏しいのが本症の特徴であり主に緩徐さを表現する用語として寡動、運動量の減少に対しては無動が用いられるが、両者は密接に関連しており区別することが困難なため、まとめて無動と記載されることが多い。表情筋の無動と筋固縮によって生じる仮面様顔貌や共同運動の障害による歩行時の腕振り現象などは安静時振戦と共に本症診断のホールマークとされる。L-DOPA導入以前は、筋固縮お無動の区別が必ずしも明確ではなかったが、L-DOPAによって筋固縮が完全に除去された患者にも無動がみられることから、独立した症候として認識されている。
 また、無動の部分症状としてすくみ現象がある。すくみ足は、歩行の開始または歩行中に足底があたかも床面にへばりついたようになって歩けなくなる症状を指す。しかし、足前に横線が引いてある、またげる程度の障害物があると容易に踏み出すことができる。また、号令をかけたりする聴覚刺激によってもすくみが回避されることもあり、このような現象は奇異運動とよばれる。すくみ現象は歩行のみならず会話や上肢の変換運動時にもみられ、すくみ言語、すくみ手と名づけられている。


4) 姿勢反射障害
 
本症の姿勢反射障害は臨床的に、姿勢保持障害平衡障害立ち直り反応障害共同並びに連合運動障害歩行・走行障害、に区別される。姿勢反射障害は無動の反映にすぎないという考え方と、独立した症候であるという説があり、後者に基づいて振戦、筋固縮、無動の三大徴候に加えて、パーキンソンニズムの四大徴候とする考え方もある。しかし、L-DOPAに抵抗性のすくみ現象に対してL-threo-DOPSを用いた治験で、L-DOPS有効例ではすくみ現象、無動、姿勢反射障害に同程度に有効であったことより、無動と密接に関連した症候の可能性も残されている。
 また、平衡障害や立ち直り反射障害は早期ではあまり見られない症候であるが、病期が進むにつれ顕著となりL-DOPA治療で改善しがたい症候である。姿勢保持障害のために頭部・体幹は前屈し、肩・腕は内転、前屈し、下肢でも股関節・膝関節が屈曲するようになる。屈曲型を示すものが大多数であるが、まれに伸展になり、わずかな外力によっても立ち直り反射障害や平衡障害のために押された方向へ突進する突進現象が生じてしまい、倒れてしまう。歩行開始時はすくみ足のために第一歩が踏み出せないが、その後いったん歩行を始めると前傾・前屈姿勢で小刻み歩行となり、ちょうどブレーキの故障した車のように速足となって、急に止まることができない加速歩行を示す。


5) 会話・講語障害
 
音量は減少し、抑揚が乏しく単調となる。リズム感の低下により歌が下手になったり、電話での会話が聞き取りにくいなどで、本症と気づかれることもある。どもったり,早口でしゃべったりして聞き取られにくくなる。これは、言語におけるすくみ現象や加速現象によるとされている。通常は病期の進展に伴って頻度が増加し、発症10年以上では8割の患者で出現する。同居の配偶者が老人性難聴であったりすると、意思の疎通が悪く療養生活に支障となることがある。


6) 書字障害

振戦による字の乱れと、文字が最初は普通の大きさに書けるのに無動と筋固縮のために次第に小さくなる現象がみられ、小字症とよばれる。


7) 自律神経障害

流涎:唾液分泌過多によるより、むしろ唾液の自動的な嚥下運動の減少により流涎がみられる。したがって正確には自律神経障害ではない。

便秘:消化管平滑筋の運動障害と抗パーキンソン剤の副作用により便秘を生ずる。

脂顔:皮脂腺の分泌亢進により、脂顔、ふけが多くなる。

多汗:頭、顔、頸部の発汗が亢進する。また腋窩、手掌、足底などアポクリン腺の発汗亢進がみられる。

起立性低血圧:中枢性の血圧調整障害がみられ、血圧は変動し起立性低血圧をきたす。またL-DOPAやドーパミンアゴニストにより低血圧を生じやすい。

四肢循環障害:外界の温度がさがると主に四肢(特に下肢先端部)の循環障害をきたし、冷感や時にはしびれ感を訴える。特に運動症状に左右差の明らかな患者は、通常、筋固縮や無道の著しい側で、より循環障害も著しい。

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