そろそろ年末へと差し掛かろうというときにビッグニュースが飛び込んできた。来年2024年2月、おなじみのベストフィールドから1976年放送のテレビドラマ『火曜日のあいつ』が全話収録のDVDボックスとしてリリースされるとのこと。

 

火曜日のあいつ コレクターズDVD <HDリマスター版> 【昭和の名作ライブラリー 第128 集 ベストフィールド創立20周年記念企画 第11弾】 | TCエンタテインメント株式会社 (tc-ent.co.jp)

 

『火曜日のあいつ』とは1976年4月から9月までTBSで放送されていた東宝テレビ部制作の一話完結型連続ドラマで、その放送が火曜日にやっていたから『火曜日のあいつ』と至極単純なネーミングである。内容も単純そのもので、当時流行っていた東映映画「トラック野郎」シリーズにあやかった“東宝版トラック野郎”。

 

「ベルサイユのトラック姐ちゃん」、YouTubeで配信開始。 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

同じ1976年春改編期、東映も連続テレビドラマ版のトラック野郎を作って放送していた

こちらはスカパーでの再放送、ネット配信とともに既にソフト化もなされている

 

個人経営の小さな運送店が舞台で、社長兼運転手だった父親が亡くなり、その娘(由美かおる)は、ローンがまだ残っている大型トラックを売り払ってもう店をたたもうかという矢先にふたりの若者(石橋正次と小野寺昭)が現れて、娘は二代目社長、そして彼らが運転手となり、つぶれかけた運送店を切り盛りしていくという話。店の経営が日々綱渡りだから無茶な仕事も引き受ければ、本家東映の「トラック野郎」シリーズみたく商売そっちのけで義理人情、いや東宝の青春ドラマだから友情だな、うん、それを優先させて無理を通せば道理が通ると言わんばかりに、毎回終盤になるとトラックが危険な山道を近道で通って崖崩れに合ったりとピンチを迎える。ここが本作の売りで、ミニチュア特撮で見せていく。その特撮を担当したのは、円谷プロダクションの初期技術スタッフたちが1970年代に興していた制作プロの日本現代企画である。

 

日本現代企画は自社で制作した作品のほか、その特撮の腕を買われて東宝関連の下請けも幾つかしており、映画『華麗なる一族』の高炉爆発シーンや、東宝映像の制作によるテレビドラマ版『日本沈没』(TBS、1974年10月~1975年3月)の特撮パートを手掛けている。ただ、同じ東宝でも東宝テレビ部と東宝映像は別セクションで、だから『日本沈没』からの縁ではなく、本作のTBS側プロデューサー・樋口祐三が円谷プロダクションと知古で、かつてプロデューサーとして関わり、監督と脚本まで自ら手掛けた『ウルトラマン』(1966年7月~1967年4月)で先述した日本現代企画の面々と一緒にやっていたことから来るものである。

 

ウルトラマンをつくった男たち 星の林に月の舟|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

1989年制作および放送

樋口祐三がオフィス・ヘンミ時代に手掛けたドラマで、氏が企画の言い出しっぺであったという

 

日本現代企画は『火曜日のあいつ』放送翌年の1977年に会社を解散してしまうのだが、その後もスタッフたちはテレビドラマで活躍して、1978年にはかの『西遊記』(日本テレビ-国際放映)の特撮パートを担当していく。現在、時代劇専門チャンネルでは4Kデジタルリマスター版が放送中だから、『火曜日のあいつ』での仕事ぶりをなんとなしにではあるが掴めることだろう。

 

西遊記<4Kデジタルリマスター版>|365日時代劇だけを放送する唯一のチャンネル時代劇専門チャンネル (jidaigeki.com)

 

関東では放送翌年にTBSで再放送し、そして1984年のテレビ東京にて平日朝9時の再放送ドラマ枠でやったのが少なくとも関東地方における地上波放送としては最後(『火曜日のあいつ』で画像検索すると左上に時刻表示がある画像のはこの再放送枠のものから取ってきている)。スカパー!などの専門チャンネルでは自分が加入する前の1995年にだかファミリー劇場で放送したと記録が残っている。以後、再放送もされず、ソフト化もなされなかったことから幻の作品といわれてきた。

 

しかし、私事ながら思い入れの強い作品で、物心がついた当時三歳のときにやっていた本放送を家族で観ていたのだ。7時台まではアニメ番組なんかが占めていたから自分が好きなものを観られるチャンネル権があり、その後の8時からは母親や祖母にチャンネル権が移って当時毎日なにかしらやっていた時代劇の番組を観る慣わしとなっていたのだけれども、なぜか火曜日は裏番組の日本テレビ『伝七捕物帳』(制作・ユニオン映画)を観てなくて、8時台に時代劇がなかった金曜日の『太陽にほえろ!』(日本テレビ-東宝テレビ部)とともにこの『火曜日のあいつ』も観ることが出来たのである。いま振り返ると、ミニカー好き、それもトラックのが大好きだった自分への配慮だったかもしれない。しかし、三歳児なんてまだ世の中のことが判らないし、どちらにも小野寺昭が出ていたことから、『太陽にほえろ!』を観ては「今日の殿下はトラックに乗らないの?」、『火曜日のあいつ』を観ては「今日の殿下は拳銃を撃たないの?」と混同していた想い出が残っている。

 

 

【新刊委託同人】太陽愚連隊 太陽にほえろ!大全集7 | まんだらけ Mandarake

 

昔のドラマを趣向するようになって、子供の頃にお気に入りだったものをもう一度観てみたい!と願うようになる。2018年にスカパー!で初オンエアとそれに連動して初ソフト化を果たした『新幹線公安官』(テレビ朝日-東映)とともに『火曜日のあいつ』は是が非でも観てみたいドラマナンバー1だったのだが、近年そういう手法で続々と世に再び出ている東映作品とは違って、こちらは東宝作品だから現在のスカパー!で放送されるのは難しいし、だからソフト化なんて夢のまた夢…、いつまで経っても幻の作品のままだと半ば諦めていたところ、今月11月になって主演の小野寺昭がX(旧Twitter)で作品の画像を交えて突如語りだし、「これはなにかあるのかな…?」と思った矢先のソフト化発表と相成った。

 

 

今年からベストフィールドは難しいといわれる東宝テレビ部のソフト化にも取り組み、吉沢京子がアイドル女優全盛時代に主演した青春ドラマ『レモンの天使』(制作局・フジテレビ)より始まり、その非道徳さから制作して三年間お蔵入りにされた丹波哲郎主演のホラー作品『ジキルとハイド』(制作局・フジテレビ)、そして若大将こと加山雄三が不遇な時代に視聴率番外地だった東京12チャンネルで主演した『高校教師』(2023年1月リリース予定)と、メジャーどころではない知る人ぞ知るカルト作品を立て続けに出してきている。ここは「どこの誰に需要があるのか?」というようなカルト作品を出し続けていて、重箱の隅をつつくワタクシでも摩訶不思議な会社なのだが、いままでで一番刺さるものをとうとう出してきたのだから、これはもう買うしかないのだ!

 

泣かせるあいつ コレクターズDVD 【昭和の名作ライブラリー 第129集】 | TCエンタテインメント株式会社 (tc-ent.co.jp)

 

最後に蛇足を。『泣かせるあいつ』(日本テレビ-松竹)なる作品もベストフィールドから2024年2月に同時発売される。こちらも『火曜日のあいつ』と同じく1976年春改編期から半年間放送されたもので、主演・田中邦衛の役どころは移動ラーメン屋を独りで切り盛りしている気ままな三十路男。劇中車としてそれ用に改造されたワンボックスが出てくる。『火曜日のあいつ』の12t車、『ベルサイユのトラック姐ちゃん』の配達用デコトラとともに、1976年春改編期開始のドラマは劇中車が熱かった!