東映がYouTube上で運営している公式チャンネルのひとつ、TOEI Xstream theaterでは、東映が制作した懐かしの連続アクションドラマを週一回更新で配信していて、先週からは1976年4月から9月に掛けてNET(現在のテレビ朝日)系で放送された『ベルサイユのトラック姐ちゃん』全19話を開始。今週分は第2話なのだが、第1話は最終更新(最終回の配信)まで観られる。

 

 

 

『ベルサイユのトラック姐ちゃん』なるタイトル、1976年の放送当時大ブームだった宝塚歌劇『ベルサイユのばら』と同じ東映の劇場用映画「トラック野郎」シリーズに肖ったものである。『日本沈没』、『華麗なる一族』、『犬神家の一族』など、当時は劇場用映画が当たるとすぐにテレビドラマへと転化される慣わしがあって、同じ東映のものだからノリノリで企画が進んだのかと思いきや、実情はまるで違う。当時のテレビ情報誌によると、劇場用映画のスタッフは困惑してて、「いまヒットしているドル箱シリーズなのに、テレビでヘンなイメージを視聴者に与えて、足を引っ張ってほしくない」とネガティブなコメントまで出している。まさに“仁義なき戦い”、これぞ東映“三角マーク”の義理欠く、恥欠く、人情欠くを地で行く世界となっており、そういった面では当時の東映らしいといえば東映らしいところになる。

 

それでなんでまあ、こんなあからさまなタイトルのものをやったかと言えば、その答えは放送時間帯にある。金曜9時に放送されていたもので、裏番組にはTBSで大映テレビ制作による宇津井健主演、その娘役が山口百恵の連続ドラマ『赤い運命』が放送されていた。前番組も宇津井健と山口百恵が父娘役を演じている赤いシリーズの『赤い疑惑』であり、その前は松竹の制作による田宮二郎主演『白い滑走路』という同様の傾向を持つミステリー&サスペンスドラマであった。とにかくTBSが強かった時間帯だったのである。この一年前、NETは1975年4月より東映との制作で、その東映アクション映画のエッセンスを注ぎ込んだ千葉真一主演アクションドラマ『ザ・ゴリラ7』、『燃える捜査網』、『大非常線』と手を変え品を変えて立て続けに持ってくるも到底叶わなく、さらには1975年秋改編から日本テレビで倉本聰脚本・萩原健一主演の連続ドラマ『前略、おふくろ様』があったりと、金曜9時におけるNETの番組は、当時の酷な状況、民放4位、ふり向けば東京12チャンネルをそのまま表していた。

 

赤い運命|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

それで、0.1%でも多く視聴率を獲りたい表れとして、巷で流行っているものをそのままタイトルに入れての『ベルサイユのトラック姐ちゃん』と来たのである。設定もタイトル通りにストレートで、宝塚歌劇『ベルサイユのばら』に引っ掛けて、女性店員ばかりのベルサイユ花店が遭遇した事件の悪人たちに、“御意見無用”、“天下御免”とばかりに配達用のデコトラを駆ってのアクションドラマとなった次第。

 

どこを切り取ってもとことん安易な番組なのだが、放送をするNETは大切にしていた。前番組『大非常線』最終回が3月26日だから、改編期特番がほとんどなかった当時だと後番組たる『ベルサイユのトラック姐ちゃん』は本来ならば次週の4月2日からそのまま始まるものだが、なんと三週もどうでもいい特番(4月23日は『神秘アニマルセックス』…様々な動物による性交のドキュメンタリー)で埋めて4月30日から始めている。もちろん理由は、改編期の最終回&新番組ラッシュを避けたかったからで、日本テレビは4月9日に『前略おふくろ様』が最終回で翌週4月16日より引き続き下町人情ものの料理人ドラマ『あがり一丁!』を開始し、本命のTBS『赤い疑惑』は4月16日に最終回で翌週4月23日より『赤い運命』を開始、ついでにフジテレビは映画枠の「ゴールデン洋画劇場」で4月16日と4月23日は戦争映画の大作『戦場にかける橋』を前後編に分けて放送していた。そういうのが落ち着いたところで出せば、毎週観てくれるだろうという魂胆だったのか、後だしじゃんけんのように改編期が終わった後で出してきたのだ。編成的にはあまりにも消極的な姿勢なのだが、それでもちゃんと初回はゲストに力を入れていて、当時人気やその存在感がうなぎのぼりであった水谷豊をゲスト主演に迎えている(なお、本作主演の浜木綿子とは前月まで、同じ東映制作の時代劇『影同心II』にレギュラーどうしで共演していた仲)。他にも芦屋雁之助やら、チョイ役で川地民夫やこの作品の音楽を担当している小林亜星も出す、とにかく出せる人は出す物量作戦を投じている。

 

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しかしながら、やはり赤いシリーズの壁は厚かった。前番組『赤い疑惑』からゴールデンコンビの三浦友和が欠けていたものの、その『赤い疑惑』の白血病を越える設定を繰り出してきたのだからたまらない。本当は検事の父を持つエリート家庭の娘なのに運命のいたずらで正反対な殺人犯の父を持つ底辺家庭の娘へと出生の証明が入れ替わってしまった少女とその二人の父親たちの葛藤劇というもので、まさにこれぞ!大映テレビの王道みたいなハナシなのである。『前略おふくろ様』の二番煎じや千葉真一のいない東映アクションドラマなんて屁でもなく話題と視聴率を独占した。後番組もさらに赤いシリーズで、宇津井健が離れて山口百恵がトップクレジットを飾る、名実ともに主演作の『赤い衝撃』となっていく。

 

そんな状況下では“女性版トラック野郎”がシリーズ化されるわけはなく、たんなる時代の仇花と化して半年後に消えていったのも致し方ない。1990年代半ばに、『映画秘宝』が懐かしのテレビドラマにも映画的要素が入っているのを見出していたなかで、まさにそのお眼鏡に適う作品のひとつとして紹介されだすようになる前は認知度なんてなかった。自分も概要はそのときに知ったくらいで、それまでは新聞のラテ欄で、住んでいる地域では受信出来ないU局のところに「再」ベルサイユのトラックとか「再」ベルサイユの姐ちゃんなどとも文字数の制約から中途半端な略称で記されてあるのを見て「なんじゃ、こりゃ?」と思っていたものである。

 

私事ながら、1976年は三歳になる頃だから物心も付いてきたのも相まって、同じ1976年春改編期にやはりトラック野郎シリーズへ便乗して始まった連続ドラマ『火曜日のあいつ』(TBS-東宝、1976年4月20日~9月28日まで)のほうはすごく覚えている。その理由というのは『太陽にほえろ!』出演中の小野寺昭主演による同じフィルム撮りドラマだったことから、『火曜日のあいつ』を観ては「今日のデンカは拳銃撃たないの?」、『太陽にほえろ!』を観ては「今日のデンカはトラックに乗らないの?」などと混乱していたのだ。ちなみに、『太陽にほえろ!』でもトラック野郎シリーズに便乗した、その名も「トラック刑事」なるサブタイトルを掲げた回(1978年2月24日放送)があって、雪が積もる青森まで大型トラックを走らせてロケしてきたロードムービー仕立てになっている。