YouTubeで展開している東映シアターオンラインでは、1976年放送の千葉真一主演アクション刑事ドラマ『大非常線』を先週から公開。週一回毎週水曜日の更新で、説明欄によると第1話のみ最終更新まで観られることとなっている。

 

大非常線 第01話[公式] - YouTube

 

大非常線 第02話[公式] - YouTube

 

この『大非常線』、本放送時の後番組は、昨年に当ブログでも紹介した『ベルサイユのトラック姐ちゃん』。

 

「ベルサイユのトラック姐ちゃん」、YouTubeで配信開始。 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

その記事でも概要を記したのだが、改めて示すと、後のテレビ朝日となるNETで金曜9時から放送されていたもので、TBSの裏番組が松竹の制作による田宮二郎主演の連続ドラマ「白いシリーズ」と大映テレビの制作によるドル箱路線の連続ドラマ「赤いシリーズ」だったため、他局は苦戦を強いられていた時間帯となっていた。NETはその裏に、千葉真一を主演に据えて、氏が主演している東映アクション映画のエッセンスを注ぎ込んだ一話完結のアクションドラマで、三作品・一年間にもわたって手を変え品を変えて対抗するも歯が立たなかった次第である。

 

というわけで、今回の記事はその変遷を追っていきたい。

 

1975年4月からの『ザ・ゴリラ7』は、前年にやはりNET-東映の制作で放送した千葉真一主演『ザ・ボディガード』(1974年4月~9月、木曜10時の放送)の設定をスピンオフさせたもの。『ザ・ボディガード』がその道の凄腕たちが集まった護衛専門会社が営利とはいえ弱者の味方となる浪花節の物語ならば、『ザ・ゴリラ7』は人道に悖ること以外、金になることならなんでもやる、とくに悪党の上前を撥ねることが得意なアウトロー集団を描いたピカレスクロマンとなった。作風も明るくポップなもので、制作局と制作プロも違うのだが、後の『俺たちは天使だ!』や『プロハンター』に通じるものがあるから、それらの作品が好きな方にはオススメしたい。

 

【うちの本棚】第百十六回 ザ・ゴリラ7/園田光慶(原作・江連卓、曽田博久、流 和也、新井光) | おたくま経済新聞 (otakuma.net)

 

半年間2クール分・全26話、1975年秋の改編期を機に終了して10月10日から『燃える捜査網』へと衣替えしたのだけれども、NETの編成は致命的なミスを犯した。TBSもこの秋改編期で「白いシリーズ」から「赤いシリーズ」へと衣替えをしていて、『燃える捜査網』よりも一週早く10月3日から『赤い疑惑』をスタートさせている。

 

赤い疑惑|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

 

おなじみ宇津井健と山口百恵の父娘、そして百恵の相手役にテレビドラマでは初共演となる三浦友和、キャスティングからして「赤いシリーズ」最高傑作だったのだから歯が立たなかったのは仕方ないにしても、綿々と続く連続ドラマなので、第1話は視聴者を毎週この時間のこのチャンネルに釘付けさせるような数々の伏線も張り巡らす展開となるから、それを早く解きたいと渇望する第2話の裏でスタートさせる一話完結のアクションドラマなんて注目の浴びようがない。出鼻をくじかれた『燃える捜査網』は2クール分の予定だったところ、半分ほどの1クール・全14話に短縮されてしまう。

 

 

そして、春の改編期までの敗戦処理となったのが、千葉真一のほか、志穂美悦子、谷隼人らも続投して1976年1月から始まった全10話の『大非常線』。前作『燃える捜査網』は、普段は所轄警察署の各部署で働いている制服警察官たちが、じつは警視庁上層部の特命で難事件を秘密裏に担当する「特別秘密捜査班」を組んでいる凄腕刑事たちという設定で、時代劇『大江戸捜査網』の昼行燈な表稼業に対する精鋭な裏稼業みたいなところを狙ったんだろうが、どうにもそれが上手く作用しなかったことから、『大非常線』は裏表をナシにして、警視庁捜査課に属する特殊セクション「デンジャー」の活躍を描くという、前作の活かしきれなかった設定部分を取り払った。ここまで設定をシンプルにすると、もはや『Gメン’75』の亜流と言わざるを得ない。同じ東映の制作でもプロデューサー以下、脚本家、監督ら主要スタッフは全然違うから、始祖である『キイハンター』に出ていた千葉真一と谷隼人がいても、その域に到達していないのは推して知るべし。

 

 

谷隼人は『キイハンター』→『アイフル大作戦』→『バーディー大作戦』と近藤照男プロデューサーが手掛けていたTBS土曜9時のアクションドラマにずっと出ていて、『バーディー大作戦』を制作元で自ら打ち切りにして1975年5月から始めた『Gメン’75』にも誘われたところ、「そろそろアクションドラマは控えたい」と遠慮したのにも拘わらず、舌の根の乾かぬ内のその年10月から始まった『燃える捜査網』に出てしまったばかりか、続く『Gメン’75』の亜流まで…、いったいなにを遠慮したかったのか?、ネクタイの柄ひとつで出演予定レギュラー俳優をクビにする独善的な近藤プロデューサーの支配からか(笑)。まあ幸か不幸か、どちらもヒットしなかったから、アクションドラマ俳優としてはそのイメージを上塗りされることなく、この70年代後半からはホームドラマやシリアスなドラマへと積極的に進出し、二枚目なのにトボけたキャラから冷酷な悪役まで演技の幅を広げていくことに成功している。

 

なお、ここに紹介してきた千葉真一主演アクションドラマは、数年前に東映チャンネルでの久方ぶりな放送に合わせて順次ソフト化もなされていたのだが、最終作である『大非常線』はどういうわけかソフト化が叶わなかった。本放送時と同様に力尽きたのか…?