久々の更新である。

 

今年のスカパー!における昔のドラマ、二十年近くぶりとか十年以上ぶりにリピートされる作品が溢れている一方で、未ソフト化&スカパー!初となる、いわゆる蔵出し作品が極端に少ない。しかし、その少ないなかで光るものがあった。

 

それは、チャンネル銀河で7月に初放送、翌8月にリピートした単発の2時間ドラマで、西村京太郎原作『寝台特急「ゆうづる」の女』。1989年4月7日(金)にフジテレビの2時間ドラマ枠「男と女のミステリー」枠で本放送されたものである。

 

西村京太郎サスペンス 寝台特急「ゆうづる」の女 │ チャンネル銀河 (ch-ginga.jp)

 

残念ながら今月9月と来月10月はリピート放送の案内が載っておらず、すぐには観られないんだが、きっと近いうちにリピートするはずだと思うのでその魅力をここに紹介したい。

 

まずこの作品、本放送時からして珍品なのである。

 

西村京太郎原作の2時間ドラマ、十津川警部シリーズといえば、テレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠で東映制作による「西村京太郎トラベルミステリー」が知られるところ。おなじみ愛川欽也が亀井刑事で三橋達也が十津川警部を演じていた1989年当時、そのシリーズは十一年目を迎えていて実績を伸ばしていた。もう一方の長として知られる、TBSが月曜9時からやっていた2時間ドラマ枠で続いたテレパック制作・渡瀬恒彦主演によるものは1992年からの放送だし、その前に同じTBSで「ザ・サスペンス」枠においてやった大映テレビ制作ものはどれもが1980年代前半のものだから、とにもかくにも、当時はテレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠でやるものが決定版となっていた。

 

そういったなか、1980年代後半の一時期、フジテレビでも十津川警部シリーズを散発的に作っては放送していた(だから、誰も覚えちゃいない)。一作目は1986年7月に若者向けの2時間ドラマ枠「木曜ドラマストリート」にて、当時25歳だった堤大二郎演じる十津川班の若手・西本刑事を主人公としてフィーチャーした『展望車殺人事件』を大映テレビの制作で作って放送。ただ、原作である西村京太郎の推理小説は、背伸びした小学生や中学生くらいが、娯楽小説としては「大人の世界」のものに触れるきっかけとなるし、映像化されたものもそこが魅力なのに、「大人の世界」をわざわざ「若者の世界」に落としたことから、本末転倒な出来になってしまったのが残念である。

 

展望車殺人事件|映画・チャンネルNECO (necoweb.com)

今月9月10日放送

 

そこから半年後の翌1987年1月には「土曜ワイド劇場」と同じ視聴者層を狙った2時間ドラマ枠「金曜・女のドラマスペシャル」にて、小野寺昭が主人公・十津川警部を演じた『寝台特急「はやぶさ」の女』を作って放送。制作プロダクションは、当時フジテレビが手掛ける劇場用映画の実製作も多かったニュー・センチュリー・プロデューサーズによるもの。日活がルーツなだけに、監督は西村昭五郎で、脚本は木村智美、かつて共ににっかつロマンポルノを手掛けていた者を配している。

 

そして、三作目となるのが今回紹介する『寝台特急「ゆうづる」の女』。主役である十津川警部は前回から引き続き小野寺昭なのだが、制作プロダクションは変更されて東宝テレビ部が請け負っている。

 

そこに注目されたい!

 

監督・高瀬昌弘、脚本・金子裕なのである。

 

そう、東宝テレビ部が日本テレビにて長年手掛けていた『太陽にほえろ!』でおなじみの面々が主要スタッフに参加していているのだ。

 

前回にあたる『寝台特急「はやぶさ」の女』は、“独身貴族”の十津川警部が寝台特急「はやぶさ」のなかで起きた最初の事件に偶然巻き込まれたことから、その被害者であり、それから起きる連続事件のカギを握る妙齢の美女と知り合い、刑事と事件の重要人物という立場を越えた危ない恋の駆け引きをしていく展開で魅せてる(川谷拓三演じる心配性の亀井刑事が一々ハラハラドキドキヤキモキする描写がコメディシーケンスで味ともなっている)。この当時、2時間ドラマは、素人探偵、温泉観光地などのお約束ごとが蔓延り出していたが、ニュー・センチュリー・プロデューサーズの制作だけに、それとは一線を画す、まさに映画的なつくりであった。

 

一方で、次作となるこの『寝台特急「ゆうづる」の女』は、言うなれば刑事ドラマ的な展開。最初の事件、そして加害者・被害者とも、十津川警部、亀井刑事、班内の刑事たち誰もが関わっておらず、寝台特急「ゆうづる」車内で起きた最初の殺人事件が終着駅・青森駅で判明したものの、「被害者が都民だから警視庁管内での捜査が必要」と上層部からの捜査司令で動く筋立て。

 

制作プロダクション、そして監督・脚本家の違いから、同じ小野寺昭演じる十津川警部も言葉遣いから違うキャラ設定の変更で、前回のように加害者・被害者らに深入りすることはせず、たんたんと事件を追っていく。

 

記録によれば、高瀬昌弘監督は二年前の『太陽にほえろ!PART2』(1987年2月終了)を最後に刑事ドラマから離れたものの、脚本を担当した金子裕のほうは後番組の『ジャングル』&『NEWジャングル』、そして当時1989年4月改編期から始まる『ハロー!グッバイ』にも参加するなどまだまだ刑事ドラマづいていた。

 

全12話で駆け抜けた「太陽にほえろ! PART2」 | 茶屋町弥五郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

トレンディドラマに走った刑事ドラマ「ハロー!グッバイ」 | 茶屋町弥五郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

リアル志向の『ジャングル』で得たノウハウなのか、聞き込みのシーンで相手に対面する際は警察手帳の表紙だけではなく内側にある顔写真と身分が記載されてあるページも見せたり、捜査一課の刑事部屋に逃亡中の重要参考人の方から電話が掛かって来た際は、逆探知をする手順で、電話を繋いだ交換台へ単に「逆探知!」とだけではなく、内線番号も言う描写などこの時代にしてはかなりリアルなものが見られる。

 

刑事ドラマの終焉 その1 『ジャングル』の失敗 | 茶屋町弥五郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

それから、端役で、『太陽にほえろ!』にはおなじみのゲスト俳優である高岡一郎(1980年代当時の芸名で、現在は谷本一の芸名で活動)が出ていたりと、マニア心をくすぐるところがいっぱいなのも付け加えておこう。

 

スカパー!では数年前から『展望車殺人事件』を時折やっており、二年前には『寝台特急「はやぶさ」の女』を久方ぶりにやっていて、自分はこの時が初見であった。そして蔵出しとなる今回の『寝台特急「ゆうづる」の女』。1980年代後半に放送した、フジテレビによる十津川警部シリーズは、そんなに求めて観てみたかったものではなかったが、こうして近年になって放送順通りで観る機会を得た。とくに小野寺昭演じる二作目と三作目は、定番である「土曜ワイド劇場」のほうとは違う魅力があって、どちらもなかなか良かった。