マイ・フェイバリッド・ムービーは何か?と問われれば、1990年の『ウルトラQザ・ムービー 星の伝説』であろう。

 

この作品の概要をかいつまんで説明すると、監督・実相寺昭雄、脚本・佐々木守の初期ウルトラシリーズのコンビ、そして製作は円谷プロから枝分かれした円谷映像で、いわゆる“本家”のほうではないのだけど、スタッフは初期ウルトラシリーズで固められていた。すでに当時は映画にどんどんCGが入ってきていた時代で、それを売り物にした特撮やSF作品は邦画洋画問わずにいっぱいあったけど、この作品はオープニングタイトル部分で“無駄”に使っただけで、あとは伝統的な円谷特撮が展開する。

 

内容のほうは、バブル景気に沸いていたり、吉野ヶ里遺跡からいままでの古代史観が覆されるものがいろいろ発見されたりした古代史ブームの頃で、それを反映させたものとなっている。あらすじは、テレビ局が古代史の特別番組を制作中、その中心的な役割のテレビ局員がロケ中に行方不明になったことから、最近続く遺跡での不可解な連続殺人事件に巻き込まれているのではないかと危惧した同僚らが足跡を辿って捜そうとするも、怪獣は出るわ、宇宙人と遭遇するわで、阻まれて困難極める。どうにか行方不明のテレビ局員捜し出せたものの、彼は現代生活とはかけ離れた、古来から伝わる「常世」を信じる人々の一員になっていた。古代史に一石投じるエポックを見つけたことにもなったが、捜索していた同僚らは彼の決意と「常世」を信じる人々の清廉さと儀式の荘厳さに心打たれ、すべて心の内に仕舞い込んで、そっとしておくことにした。が、世にも珍しい「常世」信仰の存在は、金の亡者たちに漏れてしまったことから・・・。

 

この作品、どちらかと言えば、脚本の佐々木守の想いを監督の実相寺昭雄が受け止めたような作品であろう。それは作品のテーマがカッコ書きにした「常世」になっていることから来ている。

 

「作家は同じテーマで廻す」と言われる。たとえば、『特捜最前線』でおなじみの脚本家、長坂秀佳は「父と息子の葛藤」である。佐々木守の場合は、「体制に虐げられた人たちの業」である。そこにまたライフワークとも言うべき浦島伝説と合わせ、「常世」信仰を編み出した。さらには、この作品『ウルトラQザ・ムービー 星の伝説』は、かつて佐々木守が全話の脚本担当した昼ドラ(!)のリメイクなのである。

 

1976年に東海テレビ-日本現代企画の制作によりフジテレビ系で放送された、その『三日月情話』のことを知ったのは、この作品に触れてから。愛したとか愛してないとか、「貴方は私の愛を踏みにじった」とかのクサい展開がてんこ盛りの主婦相手の昼ドラで、どうやったら「出雲族が騎馬民族に滅ぼされて、残った人たちは常世の国へ行った」なんて台詞が出るのか!?と長年信じられなかったが、2002年にようやく拝見出来た際、この疑問は氷解する。

「まんまだ・・・」

 

昼ドラの“縦軸”とは、男女の情愛とか情念とかである。いわゆるそれがドロドロの展開を生むのだが、このドラマの場合はそれが“横軸”で、浦島伝説、出雲族、騎馬民族征服王朝説、そして「常世」が“縦軸”となってしまっている。

娯楽表現の倫理的基準として置かれる常識的見地よりも作家性が先行する芸術的見地にたとえ踏み込んでも理解と評価が示される映画ならまだしも、これをテレビドラマで、それも昼ドラという決まり切ったペーソスがある枠で何故作られたのか未だ疑問ではあるが、本来縦軸になるはずの横軸に置かれた男女の情愛や情念をきっちりと書ききっているのは、佐々木守のなせる技。そして、とにもかくにも全三十五話すべて佐々木守が脚本を書き、佐々木と懇意の日本現代企画で作ったこの作品は、たしかに異質ながらドラマとしては一級品であることには間違いなかった。

 

話をリメイクされた『ウルトラQザ・ムービー 星の伝説』に戻そう。たしかに、この作品も素晴らしい。主演の柴俊夫が「試写観た後、しばらく立ち上がれないほどの衝撃受けた」とあって、自分も公開時おそらく同様な衝撃受けた。ただ、ただ・・・、あえて言わせてもらうとすれば・・・、ウルトラシリーズと言うのは、怪獣とか人間とは異形の宇宙人が出てきてナンボである。

 

前年末に5年ぶりに制作されて公開された東宝映画『ゴジラ vs ビオランテ』に対してのウルトラシリーズとして“本家”の制作でもなく、また『ウルトラQ』を掲げているだけに防衛チームやウルトラマンが出ないのは承知のところではあるが・・・。一応は怪獣は出ているものの、その怪獣はあくまでも添え物で、怪獣が出てくるのはなんと上映開始から一時間も後のことである。映画は全編通して、一般人には理解出来ない劇中の台詞の応酬で展開する。上映中、小さい子が「ママァ~、怪獣まだぁ~?」と飽きた声で叫んでいたのが印象に残った。


 

追伸。

この作品はマイ・フェイバリッド・ムービーだけに思い入れがたっぷりあるので、今回「その1」として、違った角度から続編を書きたいかと思う。
 

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