今回もまた『新幹線公安官』ネタである。

 

今月12月10日、どちらも作曲家・渡辺岳夫の音楽による『新幹線公安官』と時代劇『騎馬奉行』をカップリングさせた『新幹線公安官 / 騎馬奉行 オリジナル・サウンドトラック』が発売された。

 

 

どちらの作品ともサントラ音源は初の商品化であるので、ファンならばその価値は高い。幼少の頃より『新幹線公安官』に思い入れがある自分も早速購入してみた次第。

 

いまから30年以上前の1990年代前半、メジャーなものからマイナーなタイトルのものまで往年のテレビドラマのサントラを復刻するブームがあったことを思い出す。VAPのMUSIC FILEシリーズが火を付けて、他社も追随したものである。1990年代前半といえば、同期して『太陽にほえろ!』をはじめとして往年のテレビドラマも続々とソフト化され始めた時で、MUSIC FILEシリーズと相乗効果をもたらした。

 

 

前回の記事で触れたように、YouTubeの東映シアターオンラインにて『新幹線公安官』が週一回の更新で配信中。この『新幹線公安官 / 騎馬奉行 オリジナル・サウンドトラック』と好い相乗効果が生まれることだろう。

 

12月17日更新の第9話は新克利がゲスト主演

1977年10月11日放送だから撮影はその一か月くらい前かな

で、この頃の新克利といえば同年12月に劇場公開の東宝特撮映画『惑星大戦争』に出演

その撮影直前だったから、まんまあの怪演をしたときのボサボサ角刈りを拝めるのだ

 

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さて、サントラ盤なるものは二つに分類されるかと思う。

 

ひとつは当初からリスリング用にも販売されるもの。もうひとつは本作『新幹線公安官/ 騎馬奉行 オリジナル・サウンドトラック』のように劇伴として実用した音源の素材を後から販売用に仕立て直したもの。だから、当時のテレビ用スピーカーに合わせたのか、音域はハイ・ミドル・ローのうちでハイが強めである。正直申せばリスニング用途で聴くと耳が疲れる…。

 

一方で、たとえば、『新幹線公安官』本放送時前年の1976年に放送された『火曜日のあいつ』のオリジナル・サウンドトラック『ブルファイト』は当初から販売用で出たものなので、その点は聴きやすいつくりとなっているし、収録曲やその構成もバラエティ溢れるものともなっている。

 

 

1976年4月、「火曜日のあいつ」と、その時代 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry

 

2009年にそのサントラを担当したバンド、ザ・ラストショウのオリジナルアルバムが二作品復刻された際、双方に振り分けられるかたちでボーナストラックとして初CD化がなされたものだが、その収録アルバムは早々に廃盤となってプレミア価格が付いてしまっている。しかし、音楽配信サイトではボーナストラックとしてではなく、独立した一枚のアルバムとして販売中である。以前は音質が低レベルなAAC-FC / 320kbpsしかなかったのだが、近年ではCDと同じ音質のロスレスで、FLAC 44.1khz / 16bitのものが追加されていて、どちらも2,000円以下で入手出来るからオススメしておきたい。

 

 

 

ちなみに、『火曜日のあいつ』のオリジナル・サウンドトラック『ブルファイト』は二種類あって、この配信もされている日本コロムビア盤のアルバム&そこからシングルカットされたもの(および主演の小野寺昭が歌唱するED主題歌「燃えてるあいつ」)と制作プロである東宝テレビ部の関連会社・東宝レコードから二曲入りのシングルのみ発売されたものが存在する。

 

 

そちらは、2004年発売のオムニバス盤『あけろ!ケイサツだッ!!-アクションドラマ MUSIC FILE-』にA/B面とも収録されている。A面「ブルファイト」は日本コロムビア盤とは別バージョンで、B面「燃えてるあいつ」はインストゥルメンタル・バージョンで被らないのがGood!、残念ながら配信はされていなく、既に廃盤ともなっているが、オークションやフリマサイトで頻繁に出品されているから入手しやすい。

 

 

 

【だん吉・なお美のおまけコーナー】

 

今回の記事でネタとしている『新幹線公安官 / 騎馬奉行 オリジナル・サウンドトラック』の『騎馬奉行』について触れてみたい。

 

 

フジテレビ系にて1979年10月2日~1980年3月25日まで放送されていたアクション時代劇。放送されていたのが火曜10時枠だから制作局は準キー局の関西テレビで、制作プロは東映なのだけれども、時代劇だからといって京都の太秦にある東映京都撮影所の東映京都・テレビプロダクションではないのが特筆すべき点。じつはなんと!東京の大泉にある東映東京撮影所の東映テレビ・プロダクションが手掛けているのだ。

 

現在、東映東京撮影所に隣接するプラッツ大泉というショッピングモールは、かつて東映東京撮影所のオープンセットがあったところで、(その当時における)現代の街並みとともに江戸時代の街並みもあったのだけど、1970年代後半に入ると老朽化および使用頻度が低くなったことから取り壊して閉鎖されることが決定し、1980年3月に跡地利用の再開発計画がまとまり、三年後の1983年にプラッツ大泉がオープンした経緯がある。1980年3月放送終了の『騎馬奉行』はそのオープンセットを使った最後の時代劇番組となった。東映時代劇YouTubeでは第1話・第2話が据置配信されていて容易に観ることが出来、エンディングのスタッフ・クレジットを観ると、東映京都撮影所で撮られた作品のそれでは見受けられないスタッフ名や会社名が並んでいるが判る。

 

 

それから、本作が放送中の1980年1月1日は火曜日で、現代のテレビ番組事情では考えられないことだが、その日も通常放送されている。ただし、サブタイトルからして「初春大当たり千両くじ」と正月ネタで、『男はつらいよ!』みたくコント仕立ての初夢場面があったり、賑やかしのゲストで漫才ブーム突入直前のツービートが出演しているなど、前時間帯の7時から10時までやっていたフジテレビ系元日恒例『新春スターかくし芸大会』のお屠蘇気分を受け継いだものともなった。

 

ただ、そのツービートの出演場面は漫才調ながらも“らしさ”が足りなく、ビートたけし特有の毒舌の効いたボケやアドリブが奮ってない。漫才ブームの旗手となり、以降もバラエティは言うに及ばず、ドラマにおいてもテレビの人気者として跋扈するビートたけしにとって、撮影時点では最も場違いな仕事だったことから、ただただスタッフの指示なり、台本に従っただけのようなものであった。

 

東映オンデマンドでは『新幹線公安官』とともに『騎馬奉行』も全話配信

現在、YouTubeの東映シアターオンラインにて週一回の更新で『新幹線公安官』を配信している。

 

『新幹線公安官』については、当ブログで幾度となく取り上げているのだけど、あらためて紹介していこう。

 

「新幹線公安官」第1・2話 YouTube東映公式で無料配信開始 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry

 

(続)「新幹線公安官」~「鉄道公安官」、ついでに「大空港」と、その時代 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry

 

1970年代後半の刑事ドラマがブームだったなか、厳密には刑事でも警察官でもないが、国鉄(現・JR)内で類似の職務となる鉄道公安官、それも新幹線に特化した(架空の役職)新幹線公安官の活躍を描いたサスペンスアクションドラマとして、テレビ朝日にて1977年8月から10月まで全11話の第1シリーズが放送された後、半年後の1978年4月から9月まで同タイトルの第2シリーズが放送されたものである。

 

ブーム変革期となった1977年春改編期の刑事ドラマ | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry

 

現在配信中のものは、第1シリーズの第6話。水曜日の21時に更新されるから、12月3日の21時まで観られる。

 

正直申せば、『新幹線公安官』は回によって、そのハナシの面白さに当たりハズレがあるんだけれど、現在配信中のその第6話は当たりも当たり!の面白さだから是非ともオススメしたいと思った次第。

 

 

大阪の刑務所を脱獄した囚人が捕まったものの、新幹線での護送中に護送担当刑事の拳銃が奪われた挙げ句、子どもの乗客が人質に取られるという緊迫した事態が発生。必死の説得による人質交換で身代わりの人質となった、西郷輝彦演じる主人公の新幹線公安官の久我とともに緊急停車した新横浜駅で降車し、果てしない逃亡劇が始まった。人気(ひとけ)のないところに出て囚人が油断した隙に久我は格闘へと持ち込んで手錠をようやく掛けることに成功し、自らにもその手錠を掛けて囚人の身動きを封じたつもりだったのだが、拳銃まで奪還することは叶わなかったから、囚人の言いなりとなって一緒に逃亡せざるを得なくなってしまう。囚人が刑務所を脱獄したのも、危険を冒してまで再度逃亡を図るのもワケがあり、久我は囚人の切ない吐露で、他の新幹線公安官たちも逃亡先と目的を探っていく過程でその哀しいワケを知るといったハナシ。

 

刑事と犯人が手錠で繋がれたまま、それも犯人のほうが優位な状況で逃亡劇を繰り広げていくといった設定は刑事ドラマの定番。めくるめくようにサスペンスアクションのハードなシーンが目白押しで飽きさせない。出演者もカラダを張った演技をしていて、手錠で繋がれたどうしの囚人と言いなりにならざるを得ない新幹線公安官は、厳重警戒な非常線を突破するため、夜の多摩川を泳いで渡る場面まであるのだから、夏場の撮影とはいえ、当時ならではの無茶ぶりに驚愕してしまう。

 

さて、その囚人役を演じたのは、『ウルトラセブン』(制作:TBS-円谷プロ)の主人公、モロボシ・ダン役で知られる森次晃嗣。『ウルトラセブン』が1967年10月放送開始で、この『新幹線公安官』第6話は1977年9月の放送だからちょうど十年の歳月が経っていた。

 

 

ネタにもなっていることだが、昭和の特撮ドラマで主人公を演じた俳優はその後に悪役俳優へと転向している方が多い。ウルトラマン・シリーズの方たちも御多分に漏れず。ただ、各々に特徴を持った悪役を得意としていて印象深いものとなっている。『帰ってきたウルトラマン』の団時朗はその容姿端麗さから“自惚れているワル”で、『ウルトラマンA』の高峰圭二は年齢相応の貫禄が付いてないことから誰か他の一枚上手なワルに担がれている“小悪党のワル”といった具合に。

 

そして、『ウルトラセブン』の森次晃嗣はこの『新幹線公安官』第6話のように、仕方ない事情で悪の道に入ってしまった“ワケありのワル”を演じる場合が多い。逆に、『ウルトラマン』の黒部進はそれ以前から悪役もこなしていたから年季が違ってて、誰がどう見ても悪役(笑)の、ステレオタイプの悪役ばかり、差し詰め“ワケなしのワル”を演じる場合が多かった。

 

 

森次晃嗣は1981年から大川橋蔵主演の時代劇『銭形平次』(制作:フジテレビ-東映)に岡っ引きの平次が仕える同心役でレギュラー出演している。もちろん、役柄は悪役ではなくて正義の味方。で、その出演時期に、なんと黒部進が“ワケなしのワル”の悪役でゲスト出演した回があるのだ。

 

東映オンデマンドで「銭形平次」の特撮回を観る | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry

 

少し前に当ブログで『銭形平次』の特撮回を東映オンデマンドで観られることを紹介した際、その特撮回の第713話「大江戸大地震」とともに紹介した坂上二郎ゲスト主演回の第792話「人情渡り鳥」に。しかし、共演場面はナシ。うーん、残念。ウルトラ兄弟同士で捕るもの・捕られるものにしてしまうからスタッフが気を使ったのかな…。

 

 

【だん吉・なお美のおまけコーナー】

『新幹線公安官』は二年前の1975年に公開された東映映画『新幹線大爆破』のときに造られた新幹線車内のセットが他の作品でも流用出来ると判断が下されて取り壊されずに固定セットで残されていたことから、それありきで制作されたのは知られているところ。しかしながら、惜しいことが一点あるのだ。『新幹線大爆破』はグリーン車の車内セットが造られなかったことから、金持ちや社用族の阿鼻叫喚は公衆電話の取り合い場面で済ませてしまった。

 

当初、前番組『ジグザグブルース』の視聴率不振による打ち切りの代替番組として残り1クールを消化するために急遽制作された『新幹線公安官』は、俳優とスタッフらが前番組からそのままスライド登板 & 前述した通りに新幹線車内セットは元から撮影所にあるものを流用。それが思わぬ好評を受けて、満を持しての第2シリーズとなったのだけれども、新幹線車内のセットにグリーン車が拡充されることはなかった。だから、金持ちやVIP待遇のキャラでも常に普通席へ座っているのだ(笑)。

 

エピソード22(第2シリーズ第11話)の「略奪の死角」は

新幹線で博多に向かう世界的な権威の博士を

新幹線公安官たちが一丸となって護衛する回なのだが

“警備上の理由”によって普通席となった

 

犯罪の陰に女あり、お金持ちもあり。ケチらずにグリーン車のセットを造っていれば、新幹線限定の犯罪を扱うという制約された世界観の脚本にもっと拡がりが出たかもしれなかったと思う。

東映チャンネルで放送されていた『スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説』が終了して後番組に本放送時と同じく『スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇』が始まった。

 

 

今回は同じシリーズ作品ながら、『スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説』(以下、『Ⅱ』と略)と『スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇』(以下、『Ⅲ』と略)の実は“相容れぬ関係”について語っていきたい。まずは『Ⅱ』のことから諸々を。

 

半年間放送のシリーズ一作目、斉藤由貴主演『スケバン刑事』(以下、『無印』と略)を受け継いだ後番組、南野陽子の主演による『Ⅱ』も当初は半年間放送の予定だったが、それは“とりあえず”のことで、当初より高視聴率と話題性があったから早々に一年間の放送へと延長される。

 

 

今回、東映チャンネルでの放送を久々に通しで観て、いやはやなんとも疲れた。初見だった本放送時と同じ感想だ。最初の半年分は一話完結が中心であったのだけれども、後半に入るとクリフハンガー方式で連綿として続いていく、それも毎回ハードな展開なのが…。さらにオカルトチックな設定も入ってきて、主演の南野陽子が当時を振り返って「何と闘っているのか判らない」と偽りない心情を吐露しているように視聴者もなんだかよくわからないものを見せられていた。それでも、視聴者は着いていき、後半は前半に比べて視聴率が若干落ちていたものの、最終回は有終の美を飾って19.1%と番組史上最高の視聴率で締めくくった。

 

本放送時に観ていた自分は最後まで熱中して観たことからその達成感でいっぱいだった。後番組にシリーズ続編『Ⅲ』が用意されていたのだけれども、もう『Ⅱ』のようには熱中してみることはないだろうと悟る。前作『無印』から観てきてこの『Ⅱ』でハマった視聴者の多くはそうだっただろう。

 

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『Ⅱ』最終回から間を置かずに翌週から早速開始する『Ⅲ』、制作側は主役となる三代目サキにいままでとは違った個性を入れることにして、スクラップ&ビルドを施すことにする。

 

斉藤由貴とも南野陽子ともまったく違う浅香唯。唯一の共通点は、およそスケバン=不良には見えない風貌と個性であった。しかし、そのことが好材料となる。九州出身の浅香唯はオーディションで選ばれた際に、それまでネガティブな事柄だった言葉の訛りが選考スタッフにウケたことで主演を勝ち取った。

 

 

演じる『スケバン刑事Ⅲ』の主人公・風間唯も浅香唯のそれに合わせて、生まれも育ちも九州の田舎出身で、スケバンというよりは、たんなるガキ大将。それがスケバン刑事=特命刑事を取り仕切る暗闇機関の総責任者・暗闇指令によって上京させられる設定となった。で、上京先で生まれてこの方初めて会った、中村由真演じる次姉といつも姉妹喧嘩をするというのが最初期に繰り返される展開だ。

 

そういうので姉妹の絆が深くなっていくのを描きたいのはいまにして思えば判るのだが、スタイリッシュだった『無印』や『Ⅱ』と比べてなんたるさま…。『Ⅱ』は生死不明となった初代・麻宮サキの替わりを選び出す設定を第1話で取り入れたり、第3話では麻宮サキを名乗る二代目に対して初代と違うことを詮索する描写もあったりした。本作『Ⅲ』は『Ⅱ』の設定を引きずった描写は出てこない。暗闇指令の部下で二代目サキの相棒的存在だった、蟹江敬三演じる西脇も姿を消した。

 

シリーズ作品ながら『Ⅱ』以前とはまったく違った物語にすることでリセットがなされたのだ。

 

期待値が高かった『Ⅲ』は初回視聴率に20.3%を獲るも次回以降は急落して無印の『Ⅰ』や『Ⅱ』の平均視聴率と同じ10%台前半となっていったことから、『Ⅱ』から『Ⅲ』に衣替えしてシリーズの熱狂度は増していたものの、視聴者のパイは拡大しなかった。しかしながら、視聴者の入れ替えは上手く行えた。

 

いまでこそシリーズ全体で一括りに語られる「スケバン刑事」シリーズではあるのだけど、正直申せば、本放送時はシリーズごとに各々のファンがいて、ファンとなったもの以外は興味はさほどなかったかと思う。以前の当ブログ記事で示したように、この「スケバン刑事」シリーズは『太陽にほえろ!』番組初期の新米刑事編ごとに相当する。番組開始前から有名だった斉藤由貴=GSのスター・萩原健一演じるマカロニ、番組出演を機に有名になった南野陽子=文学座研修生で無名の松田優作演じるジーパン。そして後を追いかける浅香唯もまた=同じく無名だった勝野洋演じるテキサス、と。

 

1985年11月7日(木)、「スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説」第1話が放送された夜 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry

そのなかで松田優作演じるジーパン編が特異な人気を持つのと同じく南野陽子演じる『Ⅱ』もまた特異な人気を持つ。それに囚われたくないテキサス編は長期展望で『太陽にほえろ!』を今後も進めたいがため、あえてそれまでをリセットしたように、浅香唯演じる『Ⅲ』もリセットしていった。ジーパンに熱狂したファンはテキサス編以降離れたように、『Ⅱ』に熱狂したファンは離れた。テキサスはテキサスで、浅香唯演じる『Ⅲ』は浅香唯演じる『Ⅲ』で新たな人気を確立していったのだ。

たしかに、『無印』→『Ⅱ』→『Ⅲ』はシリーズを追うごとに最高視聴率や話題性が高くなっていったが、各主演は前任者を凌駕していったかは別問題であり、そうではない。

 

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本作『Ⅲ』は『無印』と『Ⅱ』を一年半やってきたノウハウが蓄積されており、リセットはされたものの、良い部分は踏襲されていく。最初期の主題歌はレギュラー出演者であり、当時人気絶頂期のおニャン子クラブを卒業したばかりの福永恵規「ハートのIgunition」。同じおニャン子クラブのメンバーだった、『Ⅱ』に出演及び最初期の主題歌を担当した吉沢秋絵のときと同様に、番組開始前から『夕やけニャンニャン』内で連日歌唱し、卒業後の10月に入ってもVTR出演映像ながらそれが流れて事前の宣伝に一役買っていた。主演の浅香唯、同格で出演の大西結花は前年に歌手デビューをしていたものの、ヒットがない状態で、世間的には「誰それ?」のいわゆるB級アイドル扱いだったから、この戦略は功を奏す。

 

オリコン・シングルチャートで初登場第2位

しかし、おニャン子クラブ関連曲は1986年春先から同チャートで

すべて初登場第1位を獲っていたのにその記録が途切れてしまった…

おニャン子クラブの人気が下り坂に入ったことを象徴する曲ともなる

 

ただ、スタッフはあくまでも浅香唯、大西結花、そして芸能界デビュー間もなく、まだ歌手デビューもこれからという中村由真ら三人組の風間三姉妹を番組ともどもブレイクさせたく、初回放送時は風間三姉妹より知名度があった福永恵規を呼び水程度にしか扱わなかった。主題歌「ハートのIgunition」は1986年内最後の放送となった第8話までで、福永恵規は1987年春改編期で途中降板するに至った。

 

むかし、何かのインタビュー記事で福永恵規は『Ⅲ』出演に対して、それがわかっていながらも不満だったと述べていたのを読んだことがある。同時期の「月曜ドラマランド」では何作も主演をこなしていただけに、レギュラーと云えども端役に近い扱いだったことは、ナンノとともに福永恵規のファンだった自分も不満を覚えたものだ。

 

ワタクシ所有の

当時の露店で売られていたチープな非公認グッズ(笑)

これもまた想い出の品だから宝物である

 

それを他所に『Ⅲ』は上り調子でウケていく。やはり本作も当初は“とりあえず”となる半年間の放送予定だったが、早々に一年間・計4クールの放送に敷かれ直して、1987年の年明け~春改編期までとなる2クール目は1クール目を超す高い視聴率を獲っていく。また、その2クール目から採用される、いよいよ浅香唯が歌唱する主題歌「STAR」も目論見通りにヒットして、売れてなければ出られないTBS『ザ・ベストテン』や日本テレビ『歌のトップテン』にもランキングして出演するなど名実ともにトップアイドルの仲間入りを果たした。

 

一方、『Ⅲ』が始まって、番組視聴を離脱したり、空虚なかんじでその後番組を観ていた『Ⅱ』と南野陽子のファンは思いがけないプレゼントを贈られる。

 

それが1987年2月公開の劇場用映画、南野陽子主演『スケバン刑事』である。『Ⅱ』の後日談として設定されて、南野陽子演じる二代目サキが再びスケバン刑事に復活するのである。

 

 

『Ⅱ』最終回のサブタイトルは、「少女鉄仮面伝説 ・完 さらば二代目サキ」。内容の方もサブタイトル通りに、二代目サキは自分の宿命に決着を付けたことからスケバン刑事の役目も終えて物語が完結した。“完”とか“さらば”が付いていて、内容もそれに相応しかったからファンは受け入れていたのに、『宇宙戦艦ヤマト』もびっくりするくらいの復活を果たす(笑)。

 

『Ⅲ』が盛り上がっている2クール目に公開された『Ⅱ』後日談映画『スケバン刑事』もアイドル主演映画として異様なまでの盛り上がりを見せた。前売り券は飛ぶように売れ、各種媒体は撮影レポートの段階からこぞって取り上げて行く。公開初日はどこも満席状態であったという。三作連続してヒットを続けている「スケバン刑事」シリーズのブランド力、そして主演の南野陽子がトップ中のトップアイドルであったからに他ならない。

 

 

東映は映画『スケバン刑事』にファンサービスを取り入れ、『Ⅱ』の主要レギュラー陣だけでなく、二代目サキと共闘してきたセミレギュラーのキャラを演じた者らも招き、さらに『Ⅲ』の主演・浅香唯演じる三代目サキも招いた。ただ、それだけは結果的に余計なものとなってしまった。今回の記事タイトルに掲げた“相容れぬ関係”をますます広げたに過ぎなかったのだ。映画『スケバン刑事』は南野陽子のためにある作品で、東映が“夢の共演”と銘打った二代目と三代目の共演は名ばかりとなり、三代目の役どころは脇役に留まったことが、『Ⅲ』の熱狂的なファンからブーイングが起こってしまう。

 

先述した通り、本放送時からの視聴者においては、「スケバン刑事」シリーズすべてが好きだという者は少ない。主演が違ってくるシリーズごとのファンに分かれている。この時期、「スケバン刑事」シリーズはテレビ番組と劇場用映画版で最大の盛り上がりを見せていたのだけど、同時に“二つ”の「スケバン刑事」シリーズが存在していくことになってしまい、まだ半年以上も放送期間が残っている『Ⅲ』は揺らいでいく。

 

『Ⅲ』は1987年春改編期からの3クール目は序盤こそ高視聴率を引き続いて稼いでいったが、夏場に差し掛かる頃になると落ちているのが顕著となり、開始以来初となる一桁もマークしてしまう。展開もSFとオカルト色を強めた難解なものとなっていき、視聴者離れが起こる。同じ一年間の放送期間が設定された前作『Ⅱ』と比べてあきらかに早すぎる潮時が訪れてしまった。

 

ところが、コアな視聴者、つまりは『Ⅲ』の熱狂的なファンが番組を支えて行くかたちとなる。さらに視聴率が下がっていった4クール目の9月に発売された浅香唯の主題歌「虹のDreamer」が自身初のオリコン・シングルチャート第1位を記録したのだ。歴代の「スケバン刑事」シリーズ主題歌において、先の劇場用映画『スケバン刑事』主題歌である南野陽子「楽園のDoor」を除けば、純粋に番組主題歌としては、初代の斉藤由貴も二代目の南野陽子も成し得なかった快挙である。

 

 

その後続の主題歌、浅香唯、大西結花、中村由真の三人が劇中の風間三姉妹名義で出した「Remember」も同チャートで第1位を記録。番組内ユニットではあったが、制作局であるフジテレビ内の番組に出演して歌唱するだけでなく、他局のTBS『ザ・ベストテン』や日本テレビ『歌のトップテン』へもランキングされると出演して話題を振りまいた。すでにその頃は番組が終了してしまった段階なのだが、視聴率よりもファンの熱気を重視したフジテレビと東映は、1988年2月公開で『Ⅲ』後日談の劇場用映画『スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲』の制作を決定していて、その間の話題性を繋ぎ止めることとなってプラスに働く。

 

 

『無印』と『Ⅱ』の成功を受けて始まった『Ⅲ』ではあるが、それを凌駕しての右肩あがりに人気があった作品では決してなかった。混沌とした歴史を歩んでいたのだ。しかし、その締めくくりとなった『スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲』は、劇場用映画としては前作の『スケバン刑事』における余計な要素の轍を踏まなかった。公開時はまだ南野陽子>浅香唯の人気ではあったが、その助けを入れずに風間三姉妹だけをフィーチャリングして『Ⅲ』のファンが安堵して観られるものとなって大団円で結んだ。

 

 

「少女コマンドーIZUMI」がYouTubeで無料配信 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry

後番組は『スケバン刑事IV』をタイトルに掲げられなかった悲劇の作品

しかし、自分は『Ⅱ』以来に熱狂して観ることとなる