明日は最近なにかと話題になった京都の夏の風物詩、五山送り火。自分の大好きなアクションドラマ『京都マル秘指令 ザ新選組』はそれを題材にしたエピソード回がある。今回はそれを紹介したい。

まず、タイトルからしてぶっ飛んでる。「娘を人間大文字焼きにするぞ!」。タイトルにある“大文字焼き”、作品を制作していた大阪の朝日放送と松竹(京都映画撮影所)は、もちろん“大文字焼き”が通称(それも京都内ではあまり使われないし、むしろ嫌われる呼称)で、五山送り火のほうが正しい呼び名だと百も承知しているだろうが、全国放送のテレビにおいての一般的な呼び名としてこちらのほうが通りがよいから付けたのだろう。第2話の「脅迫②ナンバー1芸者の強姦裏ビデオを作るぞ!」の“芸者”も京都では芸妓と呼ばれているが、同じ理由から来ていると推測される。


それでは、あらすじ。


京都マフィアは、大学入試の裏口産業を行うべく、京洛大学の医学部長であり、大学の入学試験委員長や医師国家試験委員長も務める草薙幸二郎に目を付けた。しかし、堅物で通っている人物であって色仕掛けや金で堕ちそうにない。そこで、幸二郎の一番大切な物を標的にする・・・。

春の宵、京都マフィアの予告通りに幸二郎の目の前でその季節に存在しない大文字焼きが一瞬浮かび上がった。そして、幸二郎を呼び出し、大の字の格好したマネキン人形を燃え上がらせる。入試問題のコピーを渡さないと、一人娘の山本みどりをそれと同じように人間大文字焼きにすると脅す。愕然とし、パニックになる幸二郎にほくそ笑む京都マフィア。

一方、京洛大学の入試問題が狙われているとの情報がもたらされたザ新選組は京本政樹と横山ノックが医学部志願の三浪ドラ息子とその成金の父親にふんして幸二郎に接近。幸二郎は脅迫からの現実逃避で酔いつぶれて正気を失っていて、ほとんど情報を引き出せなかったが、“人間大文字”というキーワードだけは聞き出した。古谷一行も春の宵の怪現象と噂になっていた大文字焼きの場所に調べに行くと爆薬が発火したばかりの痕跡を見つける。


ザ新選組は幸二郎の言動から娘のみどりも人間大文字に関係しているんではないかと尾行してみると、日米の学者パーティーで着る和服に合わせる特注の帯を織っている工房を訪れていた。そこにはみどりの幼なじみであった友直子が働いていて、彼女のためにその帯を織っている。友は表面的には仲が良いふりをしていたものの、お嬢様のみどりに対して家柄や家庭環境で嫉妬を感じていて、そこを京都マフィアにつけ込まれ、帯に特殊な爆薬を仕掛けることに荷担してしまう。


古谷は友が京都マフィアの誘惑にそそのかされると知ると彼女を説得。その人間大文字焼きという恐ろしき陰謀の全容を知る。しかし、時既に遅し。入試問題の作成日は日米の学者パーティーの日で、苦渋の決断の末、幸二郎はその良心を貫いて京都マフィアの要求は突っぱねることにしたのだが、パーティー会場入りしているみどりの和服の帯にすで爆薬が仕掛けられていたのだ。幸二郎は観念して入試問題のコピーを差し出すしかなかった。

その絶体絶命のピンチに、ザ新選組が現れ、受け渡しの場所に待ち構えて京都マフィアを一網打尽。寸でのところで、幸二郎は救われた。そして、みどりに仕掛けられた爆薬の起爆装置を担当する京都マフィアの一員も退治して一件落着する。しかし、友はみどりへの良心の呵責から警察に自首。彼女を説得した古谷は、彼女の不幸な事情も察してその悪事を胸の内にしまっていただけに、ひとり複雑な思いが残ってしまったまま、ほろ苦いエンディングを迎える。


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毎回、古都京都の文化財を狙う京都マフィアとの攻防を繰り広げるザ新選組。京都マフィアの狙う古都京都の文化財とは、神社仏閣や仏像など有形物だけではなく、祇園の芸妓や修学旅行の女子高生だったり、今回の京都にある大学の入試問題まで京都にかこつけられるものならばなんでもあって幅広い。


1984年2月から5月まで放送されていて、この回の放送日は3月23日と大学入試の結果やそれに関する事件など悲喜交々が話題になる頃で、同じ朝日放送-松竹京都撮影所の制作である「必殺」シリーズでもお得意の時事ネタを絡ませてきた。また、『ザ新選組』は突拍子もない設定がウリで、本来ならばこの八月に行われる五山送り火(通称・大文字焼き)が春に起こってしまう怪現象と、ゲスト出演の美人女優・山本みどりがそれに因んだ(笑)人間大文字焼きにされるかもしれないというエログロな設定で視聴者の興味を惹きつける。


メインゲストに草薙幸二郎、医学部長の箱入り娘に時代劇でも現代劇でも清楚な役柄が似合う山本みどり、そのみどりと幼なじみの役の友直子が対照的にいかにも庶民的な顔立ちで、境遇が違うために嫉妬深くなって裏で密かにみどりを恨んでいる演技がこれまたいい。


『ザ新選組』の主役、古谷一行は京都の国立大学医学部の元・講師という設定で、それを利用して知古の幸二郎に直接面会して事情を探るシーンがある。幸二郎は第一話で古谷が大学を追われた経緯を知っていたり、娘のみどりもまた古谷と知古であり、独身のみどりが医学部時代はモテた古谷にほのかな憧れを寄せていた演出もあったりと、毎回一話完結のドラマながら初期設定を効果的に使っている。


また、この回は本家の新選組局長・近藤勇役に相当する横山ノックが京都マフィアに襲われて左肩をケガしたり、沖田総司役に相当する京本政樹が黒猫を見たために瀕死の重傷を負うなど、新選組の逸話をここぞとばかり出してきているのも見所。『ザ新選組』は奇想天外なトンデモドラマと見られがちではあるが(まあ実際そうなのだが・・・)、こういう細かい設定や演出は大事にしているのが、さすがは京都映画撮影所の作品といったところである。


細かい設定はほかにもあり、山本みどりが友直子に自分が行けないウィリー・ネルソンの日本公演のチケットをあげるシーンがある。ウィリー・ネルソンはアメリカの人気カントリー歌手で、この回が放送された前月(おそらく撮影はこの頃だろう)には実際来日公演をしていて、それも初来日だけに話題となっていた。


さて、最後にロケ場所を幾つか紹介。横山ノックと京本政樹が京都マフィアに襲われてケガをして入院する病院は、京都映画撮影所近くに実在する河端病院と太秦病院(職員への定期検診をやっていたり、出入りの役者らのかかりつけだったのかなあ)。彼らを襲った京都マフィアの捜索に、昼間の閑散としている飲み屋街の木屋町付近。日米の学者パーティーが行われる会場は、円山公園にある長楽館で、そしてザ新選組と京都マフィアの対決が行われるのも円山公園にある坂本龍馬と中岡慎太郎の銅像をバックにしてロケを敢行。ちなみに、当時のエクラン演技集団のエース(と勝手に思っている)、東悦次さんは今回それら3箇所に台詞無しの端役で出演している。