多くの人は年をとると頭の回転が鈍ったり,物忘れが激しくなったりするのだが,そうならない人が一定数いる.

 

他の業界のことはようわからんのでぼくの業界(研究者)に限った話になるけれども,一般的な会社勤めの人とは異なり,なぜか年々頭がよくなる年寄り(以下,ジジイと呼ぶ)がいる.

このジジイたち,「常に今が全盛期,昨日より今日の方が賢い,明日の俺はもっと強い」みたいな週間少年ジャンプ的な思考で生きていて学生(特に博士課程)からすると非常に厄介である.

というのも,血気盛んな学生ならば一度は「このジジイ,けちょんけちょんにしてやんよ」と思っているのだが,何しても勝てない.下手したら,どころではなく下手せずとも,自分の成長速度よりもジジイのそれの方が速いまである.

 

・・・もれなく自分の恩師もそうであり,自分は何度となく完膚なきまでに叩きのめされた.

 

実験:現役のぼくよりも,多少ブランクはあれど40年選手のジジイの方が巧い.いま振り返れば自分は十分に上手かったのだが,それ以上に,巧かった.相手が悪い.

 

論理の組み上げ:40年選手のジジイに勝てるわけがない.指導される立場だし,これは仕方ない.

 

英語論文を書くスピード:フラットに見てぼくは十分に速かった.修士2年の時点でfull paperでも2日で書けていた.が,ボスは人外だった.チェックを頼むと1時間で返ってくる.むかつくからこっちもすぐ返そうとしたことがある.15時に出す→16時に返却→18時に出す(ここでボスが帰る)→19時半に返却→20時半に出す(ここでぼくが帰る)→22時に返却→24時に出す(ここでぼくが寝る).そのときぼくはこう思った「出して寝るのは気持ちいいなぁ!」と.翌朝,ラボに来たら,25時に返却されていた.ぼくは血走った目をして,添削ファイルをダウンロードした.相手が悪かった.

 

根本的な体力:比べたことはないけど,勝てるとかいう感情がすでに驕り.

 

博士号審査の一番キツい最終盤のころは「殴ったら勝てんじゃね?」と思っている自分もいた.でもよく考えてみてほしい.20代半ばが還暦過ぎのジジイに殴らないと勝てないのは異常だ.インターネットとかいうクソツールがなければ,論文のやりとりでこんな敗北感を覚えることもなかったのに,と感じたことは一度や二度ではない.

 

・・・みたいな話を同業者とすると,冒頭の「年寄りに飛び道具を持たせてはいけない」論になる.

そのときは2次元NMRの解析をジジイにやらせると手に負えない,現役世代が殺される,という話だった気がする.

要は,(いま風に言うと)地頭が良い人に良い武器を与えてはならない,ということ.ほぼシモ・ヘイヘである.

最近はスペクトル解析用ソフトウェアにバンド分離が当たり前のように入るようになったけれども,歴戦のジジイたちにはそういうものは不要である.頭の中に入っている膨大な経験値をもとに,適切に初期値を設定して,自分で分離するからである.

世の中は便利になってきてはいるけれども,アナログもデジタルも,酸いも甘いも噛み分けて来たジジイどもには便利さの向上など欠片も恩恵に値しないのかもしれない.あいつら(失礼),見た瞬間に,こっちが数日かけて出した結論にたどりつくからな.

 

 

というわけで,

年寄りに 飛び道具を 持たせてはいけない