より良い職場づくりのために(1) | 38度線の北側でのできごと

38度線の北側でのできごと

38度線の北側の国でのお話を書きます

 電話をかけてくる時に役職を名乗る奴にろくな奴はいない。これは桜の木の下に死体が埋まっているのと同様、世の中の定理である。

 

「課長の田中ですが」「部長の佐藤ですが」なんて名乗って電話するって、誰に習ったんだ?こういう奴は本当にダメだ。オレは部長なんだから気を利かせろ。一から二まで手に手をとって教えろとまぁ無茶をいうのだ。

 

 ところで都内にある会社には、某朝日新聞社の元記者が集まる会社があり、そこにいる会社の社員たちは「元朝日新聞の山田ですですが」などと名乗り電話するというのだ。

 

 さすがサンゴにKYって彫るだけの会社である。

 

 我々は断固たる対抗措置を練ることにした。こちらも役職を名乗ろうではないかというのだ。

 

 新宿西口から東口にまで歩き、さらに新宿三丁目まで歩いてみれば、たくさんのホストクラブのホストたちの宣伝トラックが走る。

 

 職業:イケメンなんてとんでもないコピーの店もあったりする。職業:イケメン。なんだよこれ。許せねえよ。職業:著述業(とIT技術者)との圧倒的な差は何だ。怒りがわく。

 

 怒りに震えながらトラックを見ると、謎の役職が並ぶ。代表代行。課長補佐などなど。その役職は果たしてその店の中でナンバーいくつなのか。えらいのかそうじゃないのかが全然わからない。

 

 このあいまいさがいいのだ。そのほか活発な意見交換が行われ先のホスト方式、自民党方式、横文字方式、牛角方式、反社会組織方式が提議された。

 

 自民党方式。幹事長、代表代行、顧問、名誉顧問…。この権力構造のあいまいさがよい。

「課長の山田だが」「はい!幹事長のFです!」。うーん、実にばかばかしくてよいぞ。

 

 次の横文字方式は「チームリーダー」「スーパーバイザー」「マネージャー」。うん。何が何だかよくわからなくていいぞ。なお前の職場では蔑称として無冠でえらそうにしている奴を「キャプテン」と呼んでいた。別にキャプテン手当もないし、何か特典があるわけではない。ただ、キャプテン。ちばあきおの世界だな。

 

 そして牛角方式。全員あだ名で名乗る。「はい!福ちゃんです!」。いいぞいいぞ。だけど福ちゃんってかわいい顔してるような同僚はいないぞ。みんなおっさんおばちゃんだぞ。

 

 ところで読者のみなさんは牛角の店員の名札を見たことがあるか。みんな「ゆっきー おススメ:ハラミ」などという札をつけている。一見ふざけて見えるがどうしてどうして。この娘が粗相をやらかしたとして「おいこらゆっきー!てめえふざけやがってバカやろ!」とは怒りにくい。そしてもうひとつはストーカー対策も兼ねている。「山田花子」なんてバカ正直に本名の名札をつけていると、最近はSNSで検索されてストーカーされてしまうのだ。ふざけているようで、社員を守っている二重の盾なのである。

 

 最後の反社会集団方式。組長がトップだというのはわかるとして、二次団体の組長、直参の組長となるとどっちが偉いか。直参の舎弟と二次団体の組長は?若頭はどうなる?おっと待て、相談役なんてのもいたぞ。何を相談するのだ?堅気にはわからない。

 

 これはウケが良かった。電話対応している女性職員に、役職を名乗るバカはよくつっかかるのだが、女性職員が苦慮して右手を挙げたら、聞こえるように「姐さん!姐さん!どうしたんですかい?」と周りが騒ぎ介入する。肩書を名乗った直後「Fの兄貴!課長の山田の野郎から電話ですぜ!」と保留せず電話を繋ぐ。もちろん電話はワンコールでとる。そして「池袋組!」(所在地+組)としか名乗らない。あと、広島弁利用を推奨し積極的に研修する。

 

 これはいいなと盛り上がったのだが、これをやると全員解雇の憂き目に合うので泣く泣く見送った。

 

 バカな話だって。何を言うかである。「課長の山田」などというちっぽけな権力を振り回し威張り散らす胥吏どもにこちらもテキトーであいまいな役職を名乗ることで、年齢を重ねて課長ということしか誇りがない奴の人生の薄っぺらさとそのバカバカしさを散々に思い知らせることが目的である。

 

 我々は相手が課長だろうが部長だろうが都知事だろうが、やるべき仕事をやるべき範囲でしかやらない。忖度しない。範囲内では全力は尽くすが、権力には屈しない。

 

 より良い職場づくりのために、先週はずっとこんなことを考えていた。察しのいい読者はわかっただろう。

 

 暇なんだわ…。