God Bless YOU. | 38度線の北側でのできごと

38度線の北側でのできごと

38度線の北側の国でのお話を書きます

  元の氏神さまに詣でることにした。地の力は強く身を護る力になるという。

 何度か訪れたことがあるが、いつも人がいない神社も新年早々ということもあり、社務所も開き先に参る人がいた。

 神聖な場所での他人同士のすれ違いは、黙礼がせめてであって何かことばを交わす気にはならない。先に参る人、妙齢の女性だったが黙礼を交わしたところ、はらりとストールが落ちたのだった。

 

 神聖な場所で話しかけてくる人は怖い。心が弱っているから、何か後ろめたいことがあるから、清めたいことがあるから来るわけであって、口を開き素の自分を見せたが最後、バッと絡み取られる気がするからだ。

 

「落ちましたよ」。

 

 最低限のことばでその女性に伝えた。彼女はふり返りストールを拾うと、よかったぁと呟きぼくを見てこういったのだ。

 

「ありがとう!たぶん、あなたに言われなかったら気がつかなかったです」。

 

 境内に声が響いた。

「よかったですね」。ぼくは答える。

 

「あなた、いい人ね。あなた、絶対いいことがある。少なくとも今日一日。元気で、健康で」

 

 頷くと彼女は通る声で続ける。

 

「あなた、本当にいいことがあるから。ありがとう」。

 

 本殿に祈り、社務所でお札を買い求めた。既に彼女は去り、ぼくはひとり、境内にいた。

 

 少し前、神社に響いた通った声を反芻した。いいこと、あるかな。