地元の氏神さまに詣でることにした。地の力は強く身を護る力になるという。
何度か訪れたことがあるが、いつも人がいない神社も新年早々ということもあり、社務所も開き先に参る人がいた。
神聖な場所での他人同士のすれ違いは、黙礼がせめてであって何かことばを交わす気にはならない。先に参る人、妙齢の女性だったが黙礼を交わしたところ、はらりとストールが落ちたのだった。
神聖な場所で話しかけてくる人は怖い。心が弱っているから、何か後ろめたいことがあるから、清めたいことがあるから来るわけであって、口を開き素の自分を見せたが最後、バッと絡み取られる気がするからだ。
「落ちましたよ」。
最低限のことばでその女性に伝えた。彼女はふり返りストールを拾うと、よかったぁと呟きぼくを見てこういったのだ。
「ありがとう!たぶん、あなたに言われなかったら気がつかなかったです」。
境内に声が響いた。
「よかったですね」。ぼくは答える。
「あなた、いい人ね。あなた、絶対いいことがある。少なくとも今日一日。元気で、健康で」
頷くと彼女は通る声で続ける。
「あなた、本当にいいことがあるから。ありがとう」。
本殿に祈り、社務所でお札を買い求めた。既に彼女は去り、ぼくはひとり、境内にいた。
少し前、神社に響いた通った声を反芻した。いいこと、あるかな。