「おにいに出てもらうの?でもそれはちょっと。・・・裕美さんって案外冷たい人なのかな?」
「・・・やっぱりこんなこと言ったらそう見られるのかな。でも違うよ。・・・甘えてるの。言い方おかしいかもしれないけど」
「そうなんだ。でも裕美さんみたいな人から出て行けって言われるとおにいスッゴク落胆するだろうな」
「彼なら大丈夫。しょっちゅうじゃないけどお願いしたらいつもしてくれるし。でも、志奈子ちゃんも私を特別視してるのね。『私みたいなの』ってどこにでもいるような女の子だけどな」そう言った裕美さんを私は凝視した。
「・・・」何も返せなかった。それだけ見つめられると苦しくなるよ・・・。
裕美さんは不思議そうな顔して、「どうかしたの?顔に何かついてる?」
「ううん、全然。・・・でも裕美さんてどう見ても綺麗だなって。お父さんお母さんどっちに似てるんだろ?」
「え、そんなこと彼からも訊かれたことないね。うーん、やっぱり父に似てると思う。でも、性格は母だね。私仕事の経験はもちろんないけど人を押しのけてのし上がっていくような性格じゃないしね」
「その話もっと聞きたい!部屋戻っておにいに絶対分からないようなコミック探してもらう。それで二人っきりになれるし」
「え、うん。でも彼志奈子ちゃんの言うこと聞いてくれるかな。私から言ってみようか?」
「大丈夫。おにいは私にも甘いんだから」結構長くいたように思えたが15分ほどしか経ってなかった。戻ると案の定おにいはピグやってた。ネットオタクなところは高校時代と変わらない。見てるだけでゾッとしてくる。こんなのやって何が楽しいんだろ?
「遅かったな。何してたの?」相変わらずのマイペースなおにい。
「ん、ちょっと二人で話してたの。おにい、お願いがあるの。ネットもしたいんだけどそれ以上にマンガ読みたいの。探してきてくれない?」
「お前が探しに行けよ。俺まだピグ途中やもん」
「すぐ分かるマンガだからお願い。私立ちっぱなしで疲れたんだ。ね、いいでしょ!」
「んー、分かった、分かったよ。何てマンガ?」
「岩館真理子の『遠い星をかぞえて』『森子物語』『乙女坂戦争』『おいしい関係』とか岩館作品なら何でも」
「岩館真理子なんて知らんわ。誰それ?」
「もしなかったら・・・そんときは別の人のでいい」
「って誰?」
「紡木たく、多田かおる、亜川裕、大和和紀、大島弓子、一条ゆかり・・・」
「もういいって。岩館真理子があればそれ持ってくる。なかったら適当に持ってくる」
「適当じゃダメ。私が言ったの持ってこないとダメだかんね」
「分かったよ。・・・じゃ裕美も一緒に行こう。俺だけじゃ分からない」
「ゴメン。私も疲れちゃった。もう少ししてならいいけど」
「ちぇ、つれないな。ハイハイ、一人で行ってきますよ」とノソノソしながら出て行った。
「やった~!二人になれたね」と言ったものの裕美さんまで笑うなんてね・・・。ちょっとおかしいって思った。
(続く)