「・・・そう、無理やり、されちゃったの・・・。それが過去の私。黙ってて御免なさい」裕美は俯いたままブルブル震えだした。そんなバカな・・・。裕美は処女だとばっかり思ってた。
・・・今時処女とか非処女とかって言葉自体に何の重みもないことは分かってるつもりだった。でも、裕美が処女じゃなかったってことは、俺には限りなく重いショッキングな話だった。俺の酔いは完全に醒めた。
いや、でも、裕美の話し方からすると、無理やり犯されたってような言い方だ。そりゃそうだ、あいつのこと嫌ってたもんな。確認しておきたかった。
「・・・そいつに無理やり・・・されちゃったの?」
「うん・・・。抵抗しても駄目だった・・・。怖くて怖くて死にたいくらいだった」裕美は震えながら泣いていた。俺は屈んで裕美のそばに行き、そっと肩に手を触れ、裕美の顔を覗きこんだ。
「言いたくもないこと話してくれて有難う。正直に話してくれてホントに有難う。このことは誰にも言っちゃダメだ。俺たち二人だけの秘密にしよう。忘れろって言っても出来ないことだけど、今日のこと俺は忘れる。俺たちには俺たちだけの未来がある。その未来のために一緒に進んでいこう」ハンカチを取り出して、裕美の濡れた顔を拭いた。そのままハンカチを渡し、
「アリガト。・・・でも私のこと嫌いになったよ・・・ね?」裕美が眩しそうに俺の顔見つめて言った。
「ますます好きになった。どうしようもない位に。あの正月の2日、しょっちゅう俺にくっついてきたことも何となく分かってきた。寂しくて寂しくてどうしようもない毎日送ってたんやね。これから俺が裕美にどうしてあげられるか、今の俺には分かんないけど、これまで以上に裕美のことずっと見守るって約束する。裕美のことずっと好きだから。これは本心」
「鮫君!」裕美は抱きついてきた。俺も抱き返した。
「絶対離さない」そう言ってキスした。堪らなく熱かった。正直で嘘のつけない俺たちの関係は、誰にも負けないだけのものだと思う。
俺は大声で『神様、裕美と巡り合わせてくれて有難う!俺、これから裕美のこと一生見ていく!何があっても絶対彼女から離れない!』って叫びたかった。
こんな可憐な女の子がどん底の過去を背負ってたなんて、俺には想像もつかないことだった。阿川とかいう奴のことはもう触れないでおこう。これまで以上に一緒にいよう、じゃないといつあの女が出てくるかもしれない。あいつに会ったとしてもとことん無視していこう。裕美をあいつから守るには俺が片時も裕美のそばから離れないことだと思った。
「裕美」しばらく抱き合っていたが、一呼吸おいてから裕美の肩に手を回して裕美の顔じっと見つめながら話した。
「ん?」
「笑ってみて」
「笑うの?」
(続く)