今日は「扁桃周囲膿瘍」という病気についてお話ししたいと思います。

外来を行っていると、ときどき、緊急性の高い病気に遭遇します。緊急性があるわけですから、迅速に適切な方針を立て、説明しなければなりません。そんなとき、患者さんの理解力によっては、短時間では納得を得られず、頭を悩ませることがあります。

本日取り上げる「扁桃周囲膿瘍」もその一つ。そもそもそんな名前を聞いたことがありますか??

耳鼻科では当たり前の疾患ではありますが、切開や点滴などを要することもある極めて緊急性の高い病気です。

なぜ、切開を行うのかといえば、病巣に生じた膿を抗生剤を服用するだけでは治せないからです。

切開をするとなれば、痛み刺激にて血圧低下などのいわゆる「ショック」を起こすリスクもあるし、通常、万一に備えて静脈路を確保してから取り組むべき処置になります。そこで、入院して治療するというのが、最も理想的な治療法となるわけです。

では、切開や穿刺のような処置をせずに、そのままにしているとどうなるか?

それは、膿汁が重力に従い、下方に行き、呼吸する部分にむくみを生じてしまい、窒息の危険性が生じることになります。

診察時にすでにそこまで進行している方もいますが、いわば死に至る危険性もある病気なのに、本人は「入院」や「切開」や「窒息」などの言葉もまだ何のことだか理解していないことが多く、具合の悪い状態のときに、この病気の重さを説明し、理解してもらうのは一苦労なわけです。

しかし、扁桃炎なのか、扁桃周囲膿瘍なのかは、患者さん本人は分かるのでしょうか?やはり、診察をしない限り確かなことは分かりませんが、唯一、「口が2横指開くのか、開かないのか」をチェックするのをお勧めします。扁桃周囲には咀嚼筋があり、この筋肉に炎症が波及すれば、「口が開けられない」症状が出現します。

よって、口が開けられない・・・扁桃周囲膿瘍  

     口が開けられる・・・扁桃炎 

すなわち、開口障害という症状の有無は極めて重要なポイントになります。

単なる扁桃炎と思ったら大間違い。もちろん、適切な治療を施しても、残念ながら扁桃周囲膿瘍に進展することはあるので、扁桃炎は一応気が抜けない病気ではあります。

扁桃周囲膿瘍については、外来では同意が得られれば、穿刺排膿まで当院で行うこととしています。穿刺排膿で改善するパターンは、当院で治療完結しますが、改善困難例については、入院先を紹介となります。