2014年8月のブログより
今、私は「話す力」(草野仁著)という本を読んでいます。
昨日買って、もう読破しました。
興味深いことが書かれていて引きつけられました。
本の中で草野さんは、プロゴルファーの石川遼くんの “人の気持ちを動かすスピーチ” の素晴らしさについて書いています。
私も遼くんのスピーチには感動した者の一人です。
17歳で初めてツアーで優勝(出場選手のほとんどがプロの中で)したときのスピーチはほんとに感動的でした。
優勝インタビューで自分の勝利を喜ぶことよりも、一緒に回ってくれたキャディの人に感謝の気持ちを述べていたからです。
それもインタビューを受けている途中で呼び寄せていたのです。
そのキャディーの人はもちろん、周りのギャラリーもプロの選手たちもたくんの人たちが感動で涙を流していました。
それは、遼くんの心遣いの美しさに胸を打たれたのです。
まだ高校生なのに、優勝の余韻だけに浸っていても誰も文句は言わないのに・・・・
そしてあの有名な 「ハニカミ王子」 と言われるようになったのです。
彼の言動はつくったものではありませんでした。
遼くんは、コースを回っている時に途中で入るトイレで手を洗った後、鏡や洗面台に飛び散った水滴を綺麗に拭いてから出てくるそうです。
そのマナーの良さを見た人が、他の人に伝える、そしてまたファンが増えていく・・・・
当たり前のことが当たり前に出来る
そんなことで感心するなんておかしいと思われるかもしれません。
しかし当たり前のことがちゃんと出来ている大人が少ないのです。
そして大人のマネをする子どもたちもマナーが悪くなります。
遼君は、その当たり前のことが自然に出来ていると思うのです。
日頃の何気ない行為も言動も心の中のものが外に現われます。
言葉にももちろん現われるのです。
それが素晴らしい心を打つスピーチになる
スポーツも表現力が大切です。
特にプロはただ成績を上げることだけではなく、その競技の魅力、楽しさ、面白さ、奥の深さを伝えなければならない
魅力を伝えるには伝える人が魅力的でなければならない
爽やかでなければ伝わらないのです。
“話す力” は 爽やかで魅力的であってこそ、初めて活かされるのです。
2008年11月にプロゴルファーの青木功さんが紫綬褒章を受章され、受章をお祝いするパーティが開かれたときのことです。
私も参加しましたが、世界のAOKI と呼ばれる青木さんだけあって、スポーツ界のみならず、政界、経済界、芸能界などから多数のゲストが参加する盛大なパーティーでした。
パーティの途中で、若手ゴルファーを代表して石川遼選手、宮里藍選手が青木さんに花束を贈呈しました。
そのとき、二人から青木さんにお祝いの言葉も贈ったのですが、どちらも堂々としており、さすがだと感心しました。
特に、石川遼君は当時まだ17歳。 プロとして初めてのツアー優勝、しかも史上最年少優勝を成し遂げた直後で、 「天才ゴルファー」 としてまさに飛ぶ鳥を落とす勢いの時期でした。
彼はまったく物怖じせず、落ち着いた様子で、こんなことを話したのです。
「・・・・・青木功さん、このたびは紫綬褒章受章、おめでとうございます。
青木さんとは、日本オープンの際に一緒に回らせていただきましたが、そのとき
「風の重さ」 について、少しだけ話をさせていただきました。
もし機会がありましたら、『風の重さ』 について、もっともっと深く伺いたいと思っています。
これからも青木さんの近くにいて、勉強させてください。・・・・・」
17歳らしい、若々しく謙虚なメッセージでしたが、同時に10代とは思えないものでもありました。
非常に短い言葉の中に青木さんとの個人的なエピソードが入っています。
それも 「風の重さ」 という印象的な言葉で、多くの聴衆をハッと引きつけたのです。
ゴルフは風の影響を受けやすいスポーツです。
風が強い、弱いだけでなく、湿度や乾燥の度合いも影響します。
特に湿っぽい風は重く感じ、ボールの飛び方も微妙に違ってきます。
しかし熟練したプロゴルファーにしかわからない感覚かもしれません。
プロゴルフ界を背負ってきた超ベテランゴルファーと、次代を担う若いゴルファーの間でそんな会話があったのかと、ゴルフ通をうならせたのです。
会場は、 「さすが遼くん、やるねぇ」 と賛嘆の空気に包まれました。
どうやらそのメッセージはその場で頼まれたもののようですが、彼は試合後の記者会見でも疲れを見せず、常にわかりやすく正確に、何より真摯に答えようとする姿勢を忘れません。
どう話せば相手に伝わるかを、普段からきちんと考えているように思います。
考えてみますと、プロのスポーツ選手というものは、マスコミの報道を通じて、ファンにそのスポーツの魅力を感じてもらうことも大事な仕事です。
石川選手の活躍を見て 「ゴルフをやりたい」 と思う人が増えたように、そのスポーツの 「伝道師」でもあるわけです。
マスコミで伝えられる選手の言動も、そのことに大きく影響します。
若いのにそのことをよくわかっていて誠実な態度を崩さない彼は、まさに 「日本の宝」ではないかと、私は常々思っているのです。
ともあれ、ごく短い言葉の中に具体的なエピソードを入れるだけでなく、印象的な言葉を使うことで、聞く人をハッと引きつけた。そんな心憎いメッセージだったのです。
「話す力」 草野 仁 小学館新書