瀬戸内国際芸術祭2016を取材する機会を頂いた。2009年に直島を訪れた時から瀬戸内海の島巡りをしたいと思っていたので、非常に楽しみにしていた。
まず、香川県文化芸術局 芸術祭推進課 今瀧さんからお話を聞いた。
「この芸術祭は、瀬戸内の島々などを舞台に、アートを通して地域の活力を取り戻し、再生を目指すことを目的としたイベントです。3年に一度の開催。2010年 第一回 93万人。2013年の第2回は107万人。そして第3回の今年は、
さらにその数を越す勢いです。
参加者は女性7割。香川県外が61%。 平均滞在日数は2.48日。2泊以上がなんと45.9%。
海外からも年々増えていて、今年は15%程度が外国人になるのではないか。国は、台湾、香港、中国、韓国、フランス、アメリカ、イギリス、オーストラリアからの来場者が多いです。
2013年の経済波及効果は 132億円と我々の想像以上でした。」
お話を聞くだけで、いかに成功しているイベントかがよくわかる。
そして、私がもっとも感嘆したのは、移住者が増えているということ。
小豆島は人口3000人。移住者は300人と増えている。人口の10%が移住しているとは人口減、少子高齢化の日本で、
すばらしいこと。 男木島は移住者が増えたので、休校だった小学校が開校し、学校も新しく改築され、
道路もできているそうだ。移住者の多くは東京や大阪からで、IT関連の方が多く、オフィスにいかなくとも仕事が出来る方が多いという。
観光=ツーリズムの究極の目的は、地域交流、国際交流から更に発展し、移住し、その地域の担い手が増えることだと思っているので、まさに、その成功例がここにあった。
この芸術祭のコンセプトは、
NATIVE その場の固有性を生かす
LOCAL 都市、中央でなく地方、地域から
COMMUNITY 他者との関わりや協働の中から
「観光が島の人の感幸」であること。「あるものを活かし、新しい価値を生み出す」
考えの下、アーティストと住民、国内外からのボランティアの協働によって生み出される作品が、世界からの来訪者との交流を瀬戸内の小さな離島が生み出して
いる 年々、海外からのボランティアスタッフも増えているそうだ。
男木島を歩いてみると、島民の方々とすれ違い、挨拶を交わし、話す機会もある。
皆さんとっても気さくな方々だ。目の前には海があり、のんびりとゆったりした時間が流れている。
空気がおいしく感じられ、見上げればビルにさえぎられるものなどなにもなく、見渡す限りの青い空。
また、蝉の鳴き声の大音量には驚かされる。地元の公園で聞く蝉の声と比較すると、少なくとも蝉の数は10倍以上多く感じる。それだけ自然が豊かということ。
高松に行くには、フェリーで40分。いつでも都会に移動も出来る。移住者が増えるのもうなずける環境だ。
芸術祭は、空き家を改築してアーティストがイマジネーションを膨らませて表現する舞台となる。
それと同時に、空き家を改築して、移住者が暮らし始めている。問題になっている空き家対策にもなっている。日本の会社制度は、在宅勤務も増えてきていることもあり、今後も移住者は増え続けるだろう。昨年、ツーリズムの発展、拡大に貢献したとして「第1回ジャパンツーリズムアワード」を受賞したのも十分うなずける。
さて、今回の芸術祭の舞台となるのは、12の島と2つの港。アート作品は全部で206。
すべてを見て回るには、1週間は必要とのこと。私が今回、見学したのは男木島。人口179人。平地が少なく、斜面に民家が密集する島。車が通れる道路も少ない。
この島には、16の作品がある。効率的に回れば、半日で見て回ることは可能だ。
坂道が多く、炎天下の中を歩くのは結構ハードではあるが、作品を見ながら歩くのはとても楽しい。
ここでは、私が特に気に入った3つの作品を紹介する。
1.
男木島の港を降りて目に飛び込んでくる島の案内所。案内所自体がアート作品になっている。53番
ジャウメ・プレンサ作 (男木島の魂) 世界の言語を組み合わされて作成されている。
2.
オンバファクトリー 56番 坂道がとにかく多い島なので、荷物を運ぶオンバ(乳母車)が必需品である。
ここでは、島民の人から「こういう用途で使いたいのでこんな形にしてほしい」と要望を聞き、すべて手作りでオリジナルを作成している。カラフルなペイント
を施し、日常的に使えるアート仕立てになっている。ここでは、島民がリクエストしたものを見ることが出来る。まさに、アートと日常が一体となっていること
が伺える。カフェも併設されている。島民以外でも発注することも可能。1作品3万円~。
3.
今年の新作 58番 アキノリウム 松本秋則さんの作品。竹を使ったアート。
天井裏と床に数多くのサウンドオブジェを設置、風と音の世界が広がる。
開催期間は春、夏、秋とある。是非一度訪れて欲しい。詳細はこちら。
最後に、香川県の観光課の方から
「芸術祭の成功は、直島の成功があったから。直島が観光地として知られるようになり、
人気が出るまで30年かかった。その土台があるから実現できた」とおっしゃっていた。
やはりいきなりの成功はなく、地道にコツコツと観光地の魅力作りをする以外に成功の近道はないと実感。