緊張する。
あと30分もすればライブの本番が始まる。
手が震えている。
エフェクターとシールドをつなげられないほどの震え。
ついさっきまでヨチヨチ歩きだった緊張が、鉄棒にぶら下がって片手懸垂するほど逞しく育っている。
しかも、まだ、リハーサルだというのに。
緊張の坩堝へ。
膨張を女壺へ。ならハニカムことができるのに。
緊張してんのオレだけか?と思い、他のメンバーを見る。
泳いどる。
後先考えずに泳いどる。
すんごい泳いどる。
君ら、凄いね。
ギターボーカルのイオリちゃんは25メートルを泳いで折り返しターンの潜水しとる。
ドラムのケンボウにいたってはバタフライしとる。
やかましいほどバッシャバシャとバタフライしとる。
水しぶきが勘に障る。
二人とも勇ましい泳ぎっぷり。
それでもリハーサルは淡々と進む。
リハが終わり、予定通りに開場した。
職場の先輩、職場の同僚、中学の同級生、高校の同級生、知らないオジサン、タレ、親切な人、顔面がエレカシに似てる先輩、たくさんの人たちでホールが埋めつくされていく。
ステージの上からその様子を見てヒザが微笑む。
このヘタレが。と自分に言う。
ライブハウスの照明が暗転し、スタッフさんから開始の合図がきた。
その瞬間、ケンボウが叫んだ。
『煙が出てる‼︎』
イオリちゃんが叫んだ。
『ヤバっ‼︎煙や‼︎』
ケンボウがコーラス用のマイクでスタッフさんへ知らせる。
『煙出てます‼︎煙出てます‼︎』
スタッフさんは冷静に応答する。
『スモークです。』
ケンボウがマイクを握りしめて叫ぶ。
『ケムリッ‼︎』
スタッフさんは諭すように優しく応答する。
『スモークです。』
ステージ上がスモークで覆われる。
ボクは声をあげて笑った。
おかげで緊張が吹っ飛んだ。
スモークのやりとりは大型スピーカーによって客席へと伝わっていた。
ひとりは小学校から。
ひとりは高校から。
同級生3人。
焦らんでええ。
ボチボチでええ。
ほな。
大型スピーカーから3つの楽器が産ぶ声をあげた。
くだらないコトに花を咲かす旅が始まった。
【やさしい歌】
word/song NOSHI
とてもすてきで美しく やさしい歌を歌う
だれよりも人間で だれよりも心こめて
わからない言葉より よく知る言葉から
誰よりも美しく やさしい歌を歌う
とてもやわらかで じゅんすいな気持ちが大切で
誰よりも人間な心が大好きで
やわらかでじゅんすいな気持ちがやさしさで
なによりもすばらしい やさしい歌を歌う
やさしい歌が好きだ
やさしい歌を歌う君が好きだ
やさしい歌のあとには
きれいな花が咲く