やりたいことはあるけれど、こっぱずかしさが邪魔をする。
誰かが先を行くまでは様子を見ている人見知り次男坊。
反省会では、イッチョマエ、ノーガキだらけのオットコマエ。
舞台上では、ヒッコミジアンのアジアンボーイ。

それぞれが、“自分がやったる”という思いに薄情だった。
そんなバンドはうまくいかない。
もう、次がダメなら終わりにしよう。
それぞれがそう考えていた。
そんな時、名古屋へのツアーが決定した。

初めてのツアー。
仕事が終わり、夜中にメンバー3人でバイク2台にプラスチックカバーを装着したような車で名古屋へ向かった。
高速を走ると車のボディーはカタカタと小刻みに揺れながら音を立てた。
ケンボウが言った。
『イオリちゃん‼︎これ大丈夫か⁉︎』
イオリちゃんは言った。
『ケンボウ、ビビってんちゃん?でも、ボディー外れそうやなぁ。ハンドルぶれるし、なんかエンジン音すんごいし、止まるかも知れんなぁ。』
ボクは言った。
『この車はチョロQっぽいから、止まっても後ろに引っ張ったら前に進むで。何回か繰り返したら名古屋まで行けるやろ。大丈夫。』
イオリちゃんが言った。
『そやな。なんとでもなりますわ。』
ケンボウが言った。
『ちょ、ションベンしたい。』

レコーディングした曲を車中で有線放送風にオンエアし、尿意を催したケンボウの為にサービスエリアで休憩するフリをしてサービスエリアを通り過ぎたり、ガソリンがないフリをしてガソリンスタンドへ寄ると見せかけ、ケンボウがトイレへ行けると興奮しているのを確認してから、ガソリンほぼ満タンやから通り過ぎたり、なんだかんだで尿意を我慢させたまま無事に名古屋へと到着した。
ケンボウが“ムーニーマン”と呼ばれずに済んだことが面白くない。

ライブハウスに到着したのは朝の8時だった。
まだスタッフも来ていない。
予定の入り時間まで3時間あった。
何もすることがない次男坊3人組は車を使った“ハリウッドごっこ”に汗水たらした。
いわるゆ“両手を広げて車の上にしがみついたまま走行するやつ”だ。
ケンボウは何度も何度も素晴らしいアクションを披露していた。
でも、面白かったのは1回だけだった。
尿意を我慢しているケンボウの方が数倍面白かった。

リハが終わり、対バンする皆様への挨拶を済ませ、何の気なくライブハウス内に貼ってあるフライヤーを見た。
そのフライヤーにはこう書かれていた。

“あのノシが‼︎大阪からやって来る‼︎”

『あの、て、どの⁉︎』と間髪入れずに関西人をした。
いわゆる“ツッコミ”という“淋しい病”だ。
この病気を世間では“淋病”という。
しかも3人同時に関西人をした。
素晴らしきチームワーク。
素晴らしき次男坊たち。
しかも、“大阪発‼︎パンク・バンド‼︎”と正々堂々と詐欺までしてけつかんでおられる。
そもそも、“兵庫”やし、MCで下ネタしか話せないので“ピンク・バンド”とは名乗っていたが、決して“パンク・バンド”ではない。

あれ?こんなん、前にもあった…
高校へ願書を提出した。
普通科で提出した。
卒業証書をもらった。
商業科になっていた…

そんな想い出を思い出すことなど一切なく、ホロ酔いでフライヤーを見て笑っていた。
そうこうしている間に、お客さんがぞろぞろと入ってきた。

夏、革ジャン、エンジニアブーツ。
耳、クチ、鼻、マブタ、ありったけのピアス三昧。
カラダはキャンバス、直で和柄のデザインアート。
夜、屋内、サングラス。
上記をコンプリートした“お客様”が団体で入場。
肩に防具を装着していれば、北斗の拳。
映画で言えば、マッドマックスの世界観。
もう、溜息しか出ない歓迎ぶり。

誰がフライヤーを作った?
誰が考えたキャッチフレーズ?
そもそも、“大阪の人”に聞いても『ノシ?知らんわ。』て言われるバンド。

“火のないところに煙はたたない”と言うけれど“突然に火が出る”ということもある。
そこには放火魔がいる。

“大阪発‼︎パンク・バンド‼︎”
“あのノシが‼︎大阪からやって来る‼︎”

出番がきた。
大阪からやって来た。
SEがライブハウスに流れる。
“ラムのラブソング”だ。
それに合わせて、次男坊3人組は代わる代わるに飛び台となり、その上を馬跳びするという小学生の頃によくやったスタイルで入場。

すんごいスベる。

イオリちゃんの顔、まっかっか。
オレ、腕、サブイボ。
ケンボウ、スベリすぎて、下向いて肩震えてる。
革ジャンのマッドマックス団が最後部で腕組んで威圧。
見えなくていいものが鮮明に見える。

ボク、『ほな、始めます。』て言う。
ほんならイオリちゃん、『そやね。』て言う。
ケンボウ、何も言わんままシンバルでカウントを入れよった。

曲が始まった。

音が爆発した。

3人が3人とも“オレがやったる”て気持ちが爆発した。
いつものヒッコミジアンのアジアンボーイはいなかった。
そこには“我が我がのワガママ・マイウェイ”しかなかった。

どうなってもええ。
今を全力でやろう。
とにかく、暴れた。
喉が割れた。
でも、そのままで、声をしぼりだした。
叫ぶように歌った。
倒れたスタンドマイクを立ててくれた人がいた。
マッドマックス団だった。
最後部にいたマッドマックス団が最前列で拳をあげたり、天井のパイプにぶら下がったり、各々の表現で楽しんでくれていた。
気づかなかった。

必死になったら、夢中になってた。

初めてやった。
心の底から“たまらん”てなった。
ライブが終わり、物販席に座っているとマッドマックス団が来て『最高でした。握手してください。』と言われた。
こっぱずかしいけど、嬉しかった。
いい握手ができた。

次男坊3人のモヤモヤは吹き飛んだ。

対バンの皆様から打ち上げに誘われ、最初はおとなしくしていたが、中盤からやかましくなった挙句、『二次会、いくどー‼︎』て仕切る仕切る。
朝、健康ランドの電動マッサージチェアーに脚を圧迫されたままの3人は、掃除のおばさんに『おにいさん、掃除の時間なので、移動してもらえますか?』とモーニングコールされて目覚めた。

3人で『おはよう』て言うて着替えた。
その時、ケンボウは“しゃくれ”ていた。
やっすい笑いのとり方に立腹した。
でも、笑った。
どついたあとに。



【ダイヤモンド】
word/song NOSHI

例えば今 派手に一発やろうとする
計りの知れない期待と孤独感
頭の中にはただひとつ
無理難題を言ってるわけじゃない
心の中でただつぶやく
あなたの魂 声にならない言葉を発する
ああ うまくやり遂げ 見つけたい
時間切れになる前に
ああ うまくやり遂げ 見つけたい
あなたの答えを