息子の手術が延期になった。

 
入院予定の2日前に病院から電話があり
25日の手術を27日に、
術前検査としての造影剤検査を25日に
延期して欲しいとのことだった。
急に言われても困るけど
主治医の体調の都合と言われれば仕方ない。
 
実はコロナ感染者と濃厚接触したそうで
PCR検査を受けたらしい。
結果は陰性で
安心して手術を受けてほしい
と言われた。
 
午後からの検査予定だけど
朝一に入院する。
コロナのせいで自由に面会はできない。
入院の時に付き添えば
あとは退院まで会えないだろう。
こっそり売店で待ち合わせする
という裏技はあるけど
仕事もあるし、医療者としては使えない。
手術の日も、別室か車の中で待機することになるそうだ。
遠く離れた場所で結果を待つしかない。
 
 

 
 
 
入院受付から案内された部屋は
4人部屋にしては妙に広かった。
流石、整形外科の病棟だなー。
車椅子にも対応してるのかなー。
などと思っていたら
カラコンにマツエクのギャルナースが
書類を持って来た。
『この部屋は一日1800円の別料金がかかることを
ご了承ください』
個室以外にもそんな料金システムがあること
知らなかった。
アンガーマネジメントしててよかった。
部屋の選択権がないならば
受け入れるしかない。
それに身長185センチの大男で
初めての入院だから
少しでも快適な空間で過ごせると考えよう。
 
入院に必要な聞き取りも終わり
検査のための点滴をすることになった。
ホントはそばで見ていたい。
でも看護師の立場だと
家族に見られて点滴するのは嫌だろう。
緊張のあまり失敗されても困る。
しかたなく
「いつまでここにいても良いでしょう」
ギャルナースに聞いてみた。
「そーですねー。コロナもありますし、
あまり長時間はねー。検査終わったら先生から説明ありますので、連絡しますねー」
「よろしくお願いします」
キャルナースに頭を下げお願いする。
息子は自分のことよりも私を心配しているようで
「検査の結果なら僕聞いとくで。
検査するの夕方やし、それまで待ってもらうのん
悪いわー。もう帰りー。明日も仕事やろ」
割と気楽そうに言う。
1時間後、息子からLINEが来た。
「こんなことになってるけど、大丈夫?どーしたら良い?」
 

 
血が逆流してる!
点滴終わったのに放置されてるのだよ。
ナースコールして!!
そもそも
そんな肘曲げるところに
点滴の針を留置しない。
おそらくは手術後まで留置するはずだから
腕を動かしても大丈夫なところに
針を刺すのやけどなー
と返信する。
「ありがとー。直してもらった。
実は2回失敗しはって、シーツも服も血まみれになってん。次、失敗したら上手な人と代わるねーって言われた。ここしか太い血管ないらしい」
ありえない!
けど新人ナースあるあるではある。
若いナースとは経験の浅いナース。
つまり採血や点滴はヘタな確率が高い。
カラコン、マツエクのギャルナースは
新人だったようだ。
 
 
入院受付横の待合室のソファに座り
本を読む。
文字が頭に入ってこない。
仕方なくスマホを取り出し
ネットニュースを流し読みする。
造影剤の検査が終わったとLINEがきた。
「3時間は安静にしなあかんねんてー」
腰椎に針を刺すせいで脳髄液が入っているところにも穴があき、動くと激しい頭痛がするそうだ。
手術をすれば更に身体に負担がかかるだろう。
それから更に時間が経ってLINEが来た。
「今、電話していい?」
「もちろん、良いよ」
嫌な予感がする。
息子に何かあったのだろうか。
コロナが無ければ付き添いもできただろう。
姿が見えないだけで心配は倍増してしまうようだ。
色々と妄想していると電話が鳴った。
「先生、緊急手術が入って結果聞くのん
いつになるか分からないらしい。
だから、もう帰ってー。
もう、5時やん。
朝から9時間も待ってもらってるやん。
僕の罪悪感が半端ないわー」
「手術終わったら説明してくれるなら
待つよ。だって心配やもん」
「いや、もう帰って」
「待つってば」
同じやり取りを数回して、息子が折れた。
やれやれ。
5時を過ぎると待合室の電気が消えた。
秋の終わりは日の暮れも早く
道路に面した大きな窓の外もいつの間にか
真っ暗になっていた。
通りの向こう側から来る車のヘッドライトが
眩しく光る。
いつ終わるかわからない手術を待つ時間。
それは他人ゴトの待ち時間。
息子の手術の時はどんな気持ちで待つのだろう。