次男が腰が痛いと言い出したのは高校に入る前ぐらいからだったと思う。

身長も伸びて部活もしている。
長男も私も腰痛持ちで、それは仕方のないことだと思っていた。
3週間ぐらい前から
腰痛に加えて足が痺れると言い出した。
鍼灸院で針治療をしてみる。
脚を組んで座るクセがあるせいか
骨盤が歪み、脚の長さが左右で随分違っていたらしい。
数ヶ月前には父が坐骨神経痛になり、杖がないと歩けない状態から鍼灸治療で回復したこともあり、
何回か通えば治るだろうと軽く考えていた。
針治療の後も足の痺れは続き、本人も不安になったのか
「ちゃんとした病院で診て貰おうと思う」
と言う。
 
 
 
 
 
知り合いの紹介で天理の病院に行くことにした。
レントゲンをしっかり診てくれるらしい。
どこの整形外科でもレントゲンは撮る。
でも、そこに写っている物を正しく読み取ることができるかどうかは医者次第だろう。
そう思いながらも、きっとまた
『湿布して痛み止め飲んで、しばらく様子見てみましょう』
そんな風に言われるんだろうな。
特に何ごとも無いことを医師から伝えてもらって
安心してこのままの生活を送るのだろうな。
軽い気持ちで受診した。
問診の後
「じゃあベッドに寝てみて」
医師は腰を触りながら痛い場所を聞く。
脚を上げたり下げたり、足の裏を触りながら痺れの具合も確認していく。
『まずはレントゲンとMRI撮って来て』
予想通りの言葉と、すぐにMRIの手配をしてくれることに感謝する。
受診してMRIの予約をとり、また次回にMRIを受けて
結果説明はその次の診察で。
そんな流れのことも多い。
患者は何度も通院することになる。
結果を知り、治療開始まで時間がかかることになる。
「すぐに撮ってくれて手間が省けてラッキーだったね」
「MRIなんて、時間かかるのにごめんなー
あんなにしっかり触って診察してもらったん、初めてやわー」
確かにMRIは40分くらい要する。
でも何度も天理まで来る事を思えば
その場で待つ方がずっと良い。
触診もせずに
「とりあえずレントゲン撮ってきて」
今までの整形外科ではそんな感じが多かった。
特別やんちゃでは無いのに
ブランコが激突してオデコを6針縫ったり、
転けた時に目の横を切ったり
ソファーから落ちて
頭から血が吹き出る怪我をしたり
ウンテイから落ちて腕を骨折したり
捻挫、肉離れはしょっちゅうで
整形外科にお世話になる事が多かった。
 
 
 

 
 
 
 
本を読みながら待つ事40分。
「お待たせ。お腹空いたなー
もう21歳やのに付いてきてもらって悪いわー」
「こんな時に気を使わなくて良い、良い。
休みやったしね。遠いし、電車では来れないからねー。結果も今日教えてもらえそうやし、良かったやん」
まだまだ余裕な感じで診察を待つ。
 
医師はレントゲンとMRIを診て
『結果から伝えるわね』
紙に『腰椎ヘルニア(突出型)』と書き
サラサラと骨の絵を描く。
『このタイプは手術しないと、治りません』
「えええっ、手術ですか。いつですか?」
次男の顔が強張る。
『早急にやな』
「無理です。無理です。僕、来週から免許の合宿で、、、」
『キャンセルやな』
「えええっ、ちょっと待って下さい。
友達と一緒に受けることになってて、
友達も2週間予定あけてて。キャンセル料もかかるし。
ええと、キャンセルできません」
『何処で受けるの?』
「静岡です」
『あー、それ無理やわ。
救急搬送されないで。広域の問題あるからなー。
静岡には知り合いの医者もおらんなー。
この前も救急搬送された人おったけどなー』
救急搬送されるほどの痛みが
いつやって来るのかは誰にもわからないらしい。
『ここの神経でオシッコでやんようになる事もあるで。尿閉やな。出にくく無い?』
サラリと言うけど、尿閉になると急性腎不全になる危険性もある。そんなことは次男には理解できないだろう。
過去の事例なども説明してくれるが
次男は免許合宿を優先したいようだった。
友達に迷惑をかけたく無い気持ちが強い。
キャンセル料も2週間の予定も
自分だけなら仕方ないと思えるが
友達の事を考えるとキャンセル出来ないという。
 
何が起こるかわからないと言われても
キャンセルしてすぐに手術するとは言わない次男に
『ブロック注射しとこか。まあ、すぐに手術と言われても決められないやろから、ちょっと考えてみ』
先生の方が折れるかたちになった。
 
ブロック注射はこれまでに無いぐらい痛かったらしい。
手術に対する不安、麻酔に対する不安
激しい痛みがいつ来るかわからない不安
沢山の不安を抱えて帰路につく。
 
 
空はこんなにも青くて
若草山はいつも通りにハゲていて
いつもと変わらない田舎の風景が続いている。