宗徒は、またまた議論する。
「座主を取り返したいけど、護送の役人が沢山いる。無事に奪還することは難しいのではなかろうか」
そこで、たどり着く答え。
「そうだ、神様に聞いてみよう!」
祈る、皆で権現に一心不乱に祈る。

すると、まだ若い召使い(鶴丸)が叫んだ。
「私に、十禅権現が乗り移られました!!!」
そして、「我をあがめよ。」
それは言ってない。
でも、こう言った。
「我が山の座主を他国へ移す等、言語道断。そんな事になったら、私はこの山に居たって意味ないじゃん」

宗徒は疑う。
それもそうだ、数多いる高僧を差し置いてなぜ召使いに?
そして、証拠を見せよとテスト開始。
4~500人が一斉に、持っていた数珠を社殿の大床に投げたのだ。
で、「本当に権現なら、間違う事無く元の持ち主に返せる筈、さて、いかが?」
感じ悪い。

でも、この鶴丸。
走り回って、全く間違える事なく持ち主に配ったのだ。
やったね鶴丸。
さぁ、これで本物の権現だと証明された。

皆、伏し拝んでから「さぁ!座主を奪い返しに行こう!!」
何たって、神様が付いてるからね。
安心、安全。
Go,Go!

ところが、追ってきた宗徒を見た座主は、驚いてこんなことを言う。
「勅勘を受けた者は、月日の光にさえ当たってはいけないという。まして、急いで出て行けなんて院宣があったのに、ここで立ち止まる事さえ憚られる。早々に帰りなさい。」
正論だ。
さらに「大臣になる資格のある家から出家し、今まで沢山勉強してきた。良い事は沢山してきたけど、悪い事は何もしていない。無実の罪で流罪になるけど、誰の事も恨んでいないよ。迎えにきてくれて嬉しいけれど、皆帰りなさい」
立派だ。
平家物語をここまで読み進んで、初めて全うな人物が登場した。

このような人だから、皆も必死。
「帰ってきてよう」「御輿に乗ってよう」
皆、涙ながらに説得する。
でも、さらに座主は「今までは3,000人の宗徒の座主だった。でも今は流人の身。尊い学者や知恵深い宗徒たちに担ぎ上げられるなんて、恐れ多くてできないよ。たとえ、山に帰る事になっても皆と同じように、鞋(わらじ)というものを履いて歩いて登ろうと思う。」
素晴らしい。
けど、わらじ、履いた事無いのね。
多分、蹴鞠以外では外を歩いた事も稀なのでは?
まさにセレブリティ。

でも、こんな所で押し問答している時間はないよ。
さぁ、どうする?