M子をブリッジに呼びK君を懐かしんで、かつてのK君に仕草がそっくりだと言って思い出話しをしながら、ジッとM子を見つめ名前を付けてほしいと依頼する猫型宇宙人。あまりにも突然だったので驚くM子。「人間のために今回のミッションのみ自分に名前をつける」と、名前の必要性の説明をする猫型宇宙人。恐れ多いことだと感じながらも、思案にくれます。東京で実家が味噌屋を営んでいるM子は味噌に因んだ名前をいくつか提案することにしました。M子が順に名前を挙げていきます。しばらくして気に入った響きだと納得した猫型宇宙人は「ミソズイ」を選びました。「ずいずいずっころばし♪」を楽しそうに唄うM子。猫型宇宙人は「ミソズイ」となり、こうして人々の記憶にとどまることになりました。

 

体の中のナノロボットは人間にテレパシーを使えるようにしたために、言葉が違ってもだれとでも、あるいは動植物などとも基本的な意思疎通ができるようになりました。居住区で人々は過去に誰もやったことのないような様々なコミュニケーションを楽しみ、大自然を愛でることをしながら過ごしましたが、小さなトラブルですらまったく起きることがなかったのです。それが人間自体の力に因るものなのかナノロボットの力に因るものなのかは分かりませんでしたが、平穏であることには変わりはありませんでした。「褒め上手」な人が多くなることが人間の調和をもたらすのかどうかは分かりません。この体験はM子にとってとても刺激的なものでした。

 

それでもこのような環境ならでは、すぐに興行師のような人が現れるのは世の常です。もとより儲け話が生ずる余地はありませんが、興行師は様々な催事を打ち上げていきます。そうこうしているうちにM子を探し当て、ビューティーコンテスト出場者にエントリーするように誘います。M子は出場するかどうかで迷います。なぜなら世界の有識者、宇宙飛行士から第一線の科学者と一般市民の見守る中、一糸まとわぬ姿で日本の古代伝説のアマノウズメのように踊ったり歌ったりすることが求められるからです。できるかどうかで悩みます。まだ中学2年生です。そうこうしているうちに群衆の中から大きな声がします。

 

しかし、「いつになったら出発するのか?」すべてを愛でる世界が専門家たちの頭の中をずっと花畑にしていたわけではありません。「やるべきことがある」。誰かが言いました。そしてミソズイに会うためにブリッジに集まります。

ミソズイは何故に地球の軌道上にとどまっているのかを丁寧に説明しながら船の中枢部を案内します。重力で無限軌道を作り出して移動する推進装置のようなものを見学しているときに、宇宙の環境に少しでも悪い影響を与えないように配慮して、時間をかけて膨大な計算をしていることを明かします。そして稼働すれば目的地まで一瞬で着いてしまうことを話します。「あと1日待ってほしい」。ミソズイの言葉は納得のいくものでした。

(画像:leonardo.ai生成)