ごんざの辞書のみだし語の重複14 「воз」(voz) | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 「воз」(voz)という接辞も、「из」(iz)「раз」(raz)とおなじように、ごんざの辞書では「воз」(voz)とつづったり、「вос」(vos)とつづったり、ごちゃごちゃになっている。

岩波ロシア語辞典 「вос...(接頭辞)=воз.(ただし無声子音の前で)。」

 やっぱり、ひとつのことばが、「воз」(voz)のつづりと、「вос」(vos)のつづりの両方でみだし語になる、ということがでてくる。

「ロシア語」(ラテン文字転写)     「村山七郎訳」  『ごんざ訳』

「возписую」(vozpisuyu)       「書きつける」 『ゆかく』(よくかく)
「восписую」(vospisuyu)       「書く」    『かく』

「возъпоминаю」(voz'pominayu)   「回想する」  『たぬる』(たずねる)
「воспоминаю」(vospominayu)    「回想する」  『おわさする』
                          村山七郎注 「噂する」

「возпоминатель」(vozpominateli)  「回想者」   『たぬるふと』
「воспоминатель」(vospominateli)  「回想する人」 『おわさするふと』

「возпрiемлю」(vozpriemlyu)    「名付親となる」『でする』(代する)
「воспрiемлю」(vospriemlyu)    「受取る」   『うけとる』

「возпрiемликъ」(vozpriemlik')   「名付親、教父」『でするふと』
「воспрiемликъ」(vospriemlik')   「受取る人」  『うけとるふと』

 みだし語のつづりの中に「прием」(priem)という部分があって、これは『うけとる』という意味なので、その意味を訳すと『うけとる』になる。でも、みだし語は、「プレゼントをうけとる」という意味ではつかわれない。それは「洗礼をうけてキリスト教徒になった子を親としてうけとる」という意味でつかわれるのだ。
 ごんざはこの辞書をつくりはじめる2年前にペテルブルグで洗礼をうけていたから、こういうことはわかっていて、『でする』(代する)という訳語をつけている。英語の「godfather」だ。現代日本語でも「代父」というらしいから、ごんざの訳語の『でする』(代する)というのはぴったりだ。
 ごんざはよくわかっているのに、どうして『でする』と『うけとる』に訳しわけたのだろう。

「возъпрещаю」(voz'preshchayu)   「禁止する」『さしぇん』(させない)
「воспрещаю」(vospreshchayu)    「禁止する」『いわしぇん』(いわせない)

「возъпрещенiе」(voz'preshchenie) 「禁止」  『さしぇんこ
「воспрещенiе」(vospreshchenie)  「禁止」  『いわしぇんこ

「возпретитель」(vozpretiteli)   「禁止する人」『さしぇんふと』
「воспретитель」(vospretiteli)   「禁止する人」『いわしぇんふと』

「возхваляю」(vozkhvalyayu)   「誉めちぎる」『くつふぉむる』(きつくほめる)
「восхваляю」(voskhvalyayu)   「称賛する」 『ふぉむる』