ごんざの「夜中」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 この辞書のみだし語は、ペテルブルグを意識して選定されたものではないので、ペテルブルグの人たちがみたこともないものもでているし、逆に、ペテルブルグの基礎語彙であっても、でていないものもある。「белые ночи」(belye nochi)「白夜」は、夏のペテルブルグではふつうの現象だけれど、この辞書のみだし語にはない。

「ロシア語」(ラテン文字転写) 「村山七郎訳」    『ごんざ訳』

「полунощiе」(polunoshchie) 「夜半」       『よなか』
「полунощныи краи」(polunoshchnyi krai)
               「夜半の地方(北国)」『ふぁんぶんよるのふぉ』(半分夜の方)

 夏に白夜になるような地域では、冬の夜はやたらとながい。そういう地域を「полунощныи краи」(polunoshchnyi krai)(夜中の地域)とよぶらしい。「краи」(krai)(さいはて、地域)なんて、よそのことみたいにいっているけれど、ボグダーノフ師匠もごんざも、自分たちが今くらしているところのことだ。

 ロシア語の「полунощiе」(polunoshchie)(直訳すると「半分夜」)も、日本語の「夜半」も「半分夜」という意味ではなく「夜中」という意味だ。ごんざは『よなか』はちゃんと訳したのに、(夜中の地域)には『ふぁんぶんよるのふぉ』(半分夜の方)なんていう訳語をかいてしまった。それとも、1年の半分は夜がやたらとながくて、半分は昼がやたらとながい地域、という意味でかいたのだろうか。

 ペテルブルグと薩摩の緯度の差はすごくおおきい。ペテルブルグはだいたい北緯60度、薩摩はだいたい北緯30度だから、北極と赤道の間を3等分したところが、ペテルブルグと薩摩だ。
 聖書にでてくる世界は薩摩とおなじぐらいの緯度だから、聖書の気候については、実はボグダーノフ師匠よりもごんざの方が理解しやすい点もおおかったんじゃないだろうか。