そして朝は歌い始め

僕らは音のない歌を感じ始める

それはたぶん

命に関する歌で

そしておそらく

しあわせに関する歌だったりするのだろう


だって朝は歌いながら

朝自身を殺していくのだから

朝が歌った歌は跡形も

薫りさえ残さず

消え去ってしまうのさ


鈍感な僕らはまた

朝が死んだ世界に取り残されて

気怠い命を引き摺って歩く

あんなに素敵な朝の歌なんて

みんな忘れて猫背で歩く


夕暮れに 真夜中に

それを聴くには

ちょっとだけコツがいる

うまくは説明できないけど

なんかちょっと力を抜く感じでさ


それが上手な人を知ってるよ

人はみんなその手の人のこと

詩人っていって笑うけれど


朝の歌はみんな知っているはずで

僕は不思議な気持ちで

笑うフリをしてみるのさ


いつのまにかそのコツが

僕にもわかってしまったのだろうか

いろんな時間に聞こえてしまうんだ

それでちょっと鈍臭くなっちまってさ

ね?

やっぱおかしいよね?

うん

別にいいんだけどさ


できれば笑ってもらいたいくらいさ

役に立たない詩人みたいだねって


そして僕はこっそり

こころで笑うんだ


その嘲りが遠い憧憬を含んでしまうんだよなって感じてね


そのコツみたいなもの

伝え方はわからないけど

教わるんじゃなくて

思い出すことなんだよって


きっと朝は歌ってくれていて

だから

朝に踊る

少し変な人になってみるんだ


ねえ

朝の歌


ねえ

聴こえているよね?


ねえってば!




    -「朝の歌」-