ハムであるということは

ロースではないということ

ヒレでもないということ

ハムはハムでもきっと

ロースハムでもボンレスハムでもない

クズ肉を集めて作った

チョップドハムかボロニヤ風の安いヤツ

さびれた商店街のすみの

かろうじて潰れてはいない肉屋の

揚げたてを売る惣菜の中の

ただ安いだけが取り柄の

一枚100円で叩き売られるひとつの哀しみ

ロースカツの威厳もチキンカツのボリュームも

コロッケの懐かしい美味さも

メンチカツの情念もない

少しだけ厚いだけの

肉だったはずの何か

衣に隠れて僕は夢見る

可愛いあの子や

優しいあの子の血になり肉になる夢だ

気まぐれでしか買われない

いつも最後まで残って

肉屋のお情けの食卓にさえ並ぶかどうかわからない

そんな僕だけど


少し曲がってしまった揚げ姿も

揚げ過ぎたのか

ちょっと黒い衣の色だって

それはやっぱり僕だから

僕は肉屋の店先の揚げ物達が並ぶステージで

最後まで僕の歌を歌ってみるんだ

君が聞こえなくても

聞こうとさえしなくても

静かに冷めて

不味そうに見えていても


僕は美味しいの夢をみるんだ

僕はハムカツ

どうせハムカツだけどハムカツ

少しは厚いし

食べたらそこそこ

美味いんだけども

どうせハムカツ

わかっちゃいるのさ

僕はハムカツ

こんなやつでも

やっぱり存在する意味だってある

僕はハムカツ

残さず食べてよ


残して捨てても

怒りはしないよ

僕はハムカツ

美味しい夢だよ