本書はO・ヘンリーの著作の中で、編者がさらに選りすぐった短編集の一巻です。
タイトル(主題)にはには収録された作品の中でも最も傑作とされる作品の名前を付けられていて、それは「賢者の贈り物」だったのですが、今回は別なものを紹介したいなと思ったので副題を今回のブログのタイトルにしました。
さて、ではその今回紹介したい作品は何かというと「手入れの良いトランプ」というお話です。
本短編集を初めて読み通したときに一番印象に残った作品です。
ルーとナンシーという二人の仲の良い田舎娘が、貧しい田舎を抜け出して、それぞれ工夫して都会で良い生活を手に入れようとする物語です。
そんな二人が手頃な住居を確保し、それぞれ良いと思った仕事に就くこともでき、最後の仕上げに大金持ちの良い男と結婚したいと夢を語るところから、物語は始まります。
まず、ナンシーはデパートで接客の仕事をしています。
彼女はその仕事を、薄給だが同僚からは人間関係における身のかわし方を(接客業なのでみんな慣れている)、そしてデパートに訪れる上流階級のお客様からは、洗練された所作や着こなしを、それぞれ学べる良い職場だと言います。
対して、ルーはクリーニング店でアイロン掛けの仕事をしています。
漢書はその仕事を、給料が良くて、客が引き取りに来なかった高級な服を格安で買い取れる上に、クリーニング屋に訪れる客から働いているところが見えるので、そこで見初めてもらえるチャンスがある(しかもクリーニング屋にくる客は中流以上)良い職場だと言います。
ルーは続けて、彼氏のダンを示して、「彼とはそうして出会ったのよ」と自慢します。
ダンは、二人が夢想するような大金持ちではありませんが、ナンシーの目から見ても分別とユーモアのある良い男でした。
ナンシーはそれもあってか、自分の結婚相手にも、お金持ちであることに加えて、振る舞いの丁寧さや誠実さもより一層強く求めつようになっていきますが、そんな完璧な人間はそうそういないために徐々に迷走し始めます。
一方、順調に見えたルーにも異変がありました。
職場で安く手に入れた高級品で身を固める彼女にとって、いつも無難な服装のダンが不満に思えてきたのです。
そんなある日、ナンシーはデパートの客でもある大金持ちの男性から、ついにプロポーズを受けますが、これまでの付き合いからつまらない嘘をつく不誠実な人だと知っていた彼女は断ってしまいます。
しかし、後日それを聞いた彼女の同僚たちから「高望みすぎる」と非難されてしまい、薄々自分が夢想するような完璧な男なんていないのではないかと思うようになっていたナンシーは、もしかしたら逃した魚は大きかったかもしれないと後悔します。
そうして落ち込んでいるナンシーの元に、打ちひしがれた様子のダンがやってきて、ルーがその(ナンシーが降った)大金持ち(どうやらルーの務めるクリーニング店の客でもあったらしい)と駆け落ちしてしまったらしいが何か知らないかと聞かれます。
ナンシーはそれを聞いて、すっかり打ちのめされてしまいます。
しかし同様に打ちのめされているはずのダンから、今日ルーと一緒に行くつもりでショーのチケットを2枚買ってあったのだけど、よかったらどうかなと誘われます。
ナンシーは、そこにへこたれない強さを見て、改めてダンに感心します。
時は流れて、ルーがナンシーの元を訪れます。
ルーは以前より一層高級な服装で身を固めていましたが、どこか様子がおかしいです。
二人は、ルーが駆け落ちする以前と変わらない調子でおしゃべりをしますが、すぐにナンシーとダンが結婚することになったと知ったルーが身も世もなく泣き出してしまったのでした。
このお話は「賢者の贈り物」同様、「本当に人生を幸せにしてくれるものは何か」ということをテーマにしたお話だと思います。
しかし、それは単にお金より大事なものがあるというようなありきたりな話ではありません。
この話で語られているのは「目的に合ったアプローチをする重要性」だと思います。
ルーは毎日服を見続けていましたが、ナンシーは毎日人を見続けていたのです。
その結果、ルーはどういう服が良い服かをしり、ナンシーはどういう人が良い人かを知るようになったのです。
本作では目標が「良い伴侶を見つける」ことだったので、ナンシーが成功し、ルーが失敗しましたが、もしこれが「ファッションブランドを立ち上げる」とかだったら結果は逆だったかもしれません。
「目標にあったアプローチをする重要性」を物語の中でこれほどうまく表現できるO・ヘンリーの手腕に改めて感動しました。