去る9月4日、ファーストリテイリングが「ユニクロ」の販売動向を発表。
国内既存店の客数と単価がともに9年ぶりにプラスとなって、株価は一気
に上昇した。(日経9月5日朝刊)
従来は客数と客単価は逆相関であった。
ユニクロの商品は極暖のトックリのシャツやウルトラライトダウンのベストや
ジャケット、パーカなどをそれぞれ数枚ずつ持っているが、主として室内用
もしくは旅行用に購入し、それ以外のものはトレッキング用を使用したり、
近所のヨーカ堂で揃えているから、機能中心に商品を選択する消費者で、
ユニクロ、というブランドには好悪の感情はともにない。
しかし社長の柳井氏に対しては、使用人を酷使する人、というイメージ
(p113参照)があって、超が付く資産家であるが、尊敬の念は持てない。
ユニクロは自社が開発した商品を生産を委託した工場から買い切り、
店舗で売り切る戦略だから、既に飽和している市場で収益を上げるには、
①毎年いかに魅力のある商品を開発して、消費者に旧製品を廃棄させる
事が出来るか、他社の製品を駆逐することが出来るか、
②その商品をいかに低コストで生産するか、そのための工場生産国選択
やそれとの価格交渉。買い切りはその際の有力な交渉カードになる。
③売り切るための広告、店舗ディスプレイ、品ぞろえ、人員配置など。
マーケティングやマーチャンダイジングは店舗に商品が到着した段階では
既に大半が終わっているから、店舗では商品をいかに効率よく売り切るか
が店舗運営の要諦、つまり利益の源泉でもある。
④薄利多売、と一言で片付けられるのは面白くないだろうが、アパレル
産業全体から見ればそういう位置づけになるから、人件費を含めた
コスト削減も生産コスト削減と同様、重要なボトムラインの一つである。
以上の経営的手法は、アパレル業界ではともかく一般に珍しくもない
から、同社がこれだけの成長を遂げ利益を上げていること自体が、
そこに何らかの歪がでることは当然予想できることであり、
そのひずみにどう対処するかで経営者としての手腕と人間的器量が
問われるわけである。
企業やその経営者を中心に据えた本は得てして「礼賛もの」が多いが、
実際に生産や販売の現場、最もシビアな面が表出する場に直接取材、
潜入して見たこの書はそれだけで希少価値があり、読むに値する、
というものだ。
ユニクロは、増田氏の2011年文春刊の「ユニクロ帝国の光と影」中の
①国内店長が繁忙期に月間300時間を超えて働いた。
②中国の下請け工場で10代の女子社員が深夜3時まで残業。
という指摘に対して文芸春秋社を「名誉棄損」で訴えたが、2014年
最高裁がユニクロの上告を棄却して文春側の勝訴に終わった。
その過程で柳井社長が「ユニクロはブラック企業ではない。なんなら
ユニクロで働いてみればすぐわかる」と某インタビューで語った(p46)
ことから筆者が、妻と一旦離婚して妻の姓に変え、住民票から免許証
まで新姓に変えて、ユニクロのバイトに応募して潜入した。
面接から、雇用契約、日々の急な出勤の要請や同じ職場の同僚バイト
の話、業績の帰趨を決める「感謝祭」、カンボジアでの「ブラック告発」
現地取材、あるいはユニクロの体質改善ー
トップダウン経営から、ボトムアップ経営へーの真摯な提言など興味深い
内容がレポートされている。
読了してのまず感じたのは、採用の際の雇用契約の禍々しさ。
時給千円のバイトに、守秘義務を課すのだ。しかも守秘義務の内容は、
被雇用者控えもなく、その内容を聞いても答えがないらしい。(P61)
なんだか恐ろしいものを誓約させて口封じをしようというのか。
読む限り、店舗には守秘義務に該当する様な経営ノウハウはないから、
勤務実態などをマスコミにばらされる、ブラック企業のレッテルなどを
極端に警戒しての事としかその理由は考えられない。
海外生産については、アップルやナイキを始め名だたる世界ブランドが
「搾取工場Sweatshop」の指摘を受けて、委託先の工場の労働条件を
改善せざるを得なくなった。
ユニクロを含めて、生産を委託する側は強い交渉カードを持ち、価格や
納期、品質について指図する。それは当然現場の労働条件にはね返る
から、委託側が受託側の労働条件に連帯した責任を有するのは当然
だろう。
読みながら去来したのは、「富士そば」の経営哲学。
バイトにも有給休暇やボーナスを出し、売り上げのノルマはなく、
職場の雰囲気を大事にする。働く人たちが居心地よければ、利用する
客も居心地が良い。従業員は「内部留保」だと言う。
富士そばの社長は、柳井社長のように年俸2億4千万、所有の
自社株の配当が100億、総資産2兆円のスーパーリッチになることは
願ってもいないだろうし、また成れないだろうが、半面、部下を叱咤激励し
自らもストレスの多い日々を送ることもないだろう。
カネも財産も墓場には持っていくことは出来ない。
さすれば柳井社長はどのような死生観を持っているのだろうか。
最後に増田氏に倣ってユニクロに対する提言。
店舗は「白」を基調に統一され、カラフルな衣料も映え、
清潔感はあるのだが商品を探すのが大変で、近くに居るスタッフも
商品の整理に忙しそうだから聞き辛い。
男性、女性、キッズなどを縦のカラーラインで、上下などを横のカラー
ラインで表示するなどの工夫をすれば、客も目当ての商品を探し易く、
店舗スタッフの負担も減るだろう。
また企業秘密に関して言えば、本来的には「商品開発」だろう。
もう十数年も前「ベネトン」が登場し、このイタリアのブランドは斬新な
色使いで消費者を魅了した。
しかしどうだろう、もう昔日の勢いは感じられない。
それに対しユニクロは「機能性」つまり、極暖やウルトラライトダウン
などの分野を切り開くことで、危機ー踊り場を乗り切っている
ように見える。
そうした「機能性分野」というものが、どこまでの地平があるのかが
今後の、ユニクロの帰趨を決めるだろう。