「苦しみと幸せと惨めさは、
女性なら皆知っている筈」
と、タンゴのパートナーファン・カルロスと自分とのドキュメンタリー
制作にあたり、「それが映画にするほどの価値があるのか、自分の人生はありふれたものだから」と ありふれた理由を語ったマリア・ニエベス。
1940年代のアルゼンチンタンゴの都ブエノスアイレス、そこで二人は出会い、以来半世紀以上のパートナーを組んだ。
2015年映画製作の当時マリアは疾うに80歳を超えている。
出会いから別れまで、愛憎に満ちた二人の長い物語。
先ずは概要から(映画。COM)
アルゼンチンタンゴの伝説的ペア、マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペスを描いたドキュメンタリー。それぞれ14歳と17歳の時に出会い、その後50年近くにわたってペアを組んだマリアとフアン。何度も別れを繰り返しながらも必ずまた手を取り合ってきたふたりだったが、やがてフアンはマリアの元を本当に去ってしまう。現在80代になったふたりが若きダンサーや振付師を聞き手に、ふたりの愛と葛藤の軌跡や互いへの思いを明かしていく。そしてその中でも特にドラマチックな場面を、若きダンサーたちが美しいタンゴの振付で再現する。ビム・ベンダースが製作総指揮に名を連ね、「ミュージック・クバーナ」のヘルマン・クラルが監督。
タンゴはタキシードにドレスを着て、
「これは紳士・淑女の踊りである」
というメタメッセージの傘の下に、
時に見つめ合い、時に唇を寄せ合って
時に足を絡め、身を横たえて
性的行為の仄めかしが横溢する。
結びあわされた手と肩に寄せた手を通じて
相手の体温や汗ばみ、つまり興奮を感じ取り
そのことが一層お互いの情感を高め合い、
更にはそれを観る者に感情移入を誘う。
踊る二人に恋情が芽生えるのは必定。
恋情は嫉妬を呼び、嫉妬は憎しみをもたらす。
なぜ二人は結婚しなかったのだろうか。
結婚が、若い男女のファンを失う、
という恐れもあったであろう。
しかし、
結婚すれば、仕事上の危機は、家庭の危機に直結し、
愛情の危機は、舞台の危機に直結する。
危機は倍加し増幅するのだ。
結婚しなかったことが、パートナーとして長続きした理由、と読む。
それに二人が夫婦だと知ると、
寝間を覗くようでこちらの居心地も悪い。
二人の愛憎があからさまに二人の口から出ることはない。
まだ二人の中にはその愛憎が風化していないのだ。
総指揮のヴィム・ヴェンダースは
世界を旅し、他人の人生を旅する旅人。
それを自然に風化するまでそのままにしておく。
あからさまにしないことが、旅人としての礼儀なのだ。
そしてアルゼンチンタンゴの名曲、「リベルタンゴ」
加えてこのドキュメンタリーの特別映像と予告編。
お終い。