原題は The Post 「報道の自由」を社運を掛けて守り抜いたワシンポスト紙の物語である。
あらすじは
リチャード・ニクソン大統領政権下の71年、ベトナム戦争を分析・記録した国防省の最高機密文書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在をニューヨーク・タイムズがスクープし、政府の欺瞞が明らかにされる。ライバル紙でもあるワシントン・ポスト紙は、亡き夫に代わり発行人・社主に就任していた女性キャサリン・グラハムのもと、編集主幹のベン・ブラッドリーらが文書の入手に奔走。なんとか文書を手に入れることに成功するが、ニクソン政権は記事を書いたニューヨーク・タイムズの差し止めを要求。新たに記事を掲載すれば、ワシントン・ポストも同じ目にあうことが危惧された。記事の掲載を巡り会社の経営陣とブラッドリーら記者たちの意見は対立し、キャサリンは経営か報道の自由かの間で難しい判断を迫られる
わが国では、寿司友、などと揶揄される時事通信社の田崎史郎はじめ、新聞テレビ記者が、
安倍首相を囲む宴席にはべり、テレビなどで臆面もなく安倍擁護を連発する。
あるいは読売新聞の社主(皮肉)ナベツネが安倍首相と会食を度々して、首相自ら「私の意見は
読売新聞を見てください」と本末転倒なことを国会で平気で述べる。
巷間、安倍政権御用達 読売新聞、安倍政権の走狗 サンケイグループ
(サンケイ新聞、夕刊フジ、フジテレビ)などとも言われている。
これらは時の権力とメディア、「報道の自由」の問題にかかわる見過ごせない事実である。
つまり、事実の隠蔽やすり替え、あるいは縁故主義や利益誘導など腐敗しがちな権力を監視する
ために、最高の法、憲法で「報道の自由」を保障したのだ。
これは敗戦の苦い教訓でもあった。
我々有権者が単に選挙の時だけではなく、平和と安全、生活の安定と福祉がどのように守られ
かつ増進しているのか、あるいは悪化しているのかを判断するためにも絶対必要なものでもある。
米国ではトランプ政権や共和党周辺の「フェイクニュース」が専らの問題であり、テレビではCNN
がトランプと鋭く対峙しているが、新聞はワシンポストだけではなく、高級紙ニューヨークタイムズなど
「権力の監視」と言う役目を忠実に果たしているように見える。
この「報道の自由」に関連して、映画の中で言及された中から二三取り上げてみる。
1、「権力者に対して同時に友人と記者であることは出来ない」
ポストの編集主幹ベンが、ペンタゴンペーパーに含まれる友人との人間関係から、報道すべきか
否かに迷うキャサリンに、自分の亡きケネディとのかつての関係について語った言。
ケネディ夫妻とは家族ぐるみの付き合いであったベンがダラスの悲劇の当日、病院で洋服を
血だらけにしたケネディの妻ジャクリーンから「この病院での事は一切報道するな」と言われて、
過去の関係性そのものが権力者から見て、果たして何であったかを思い知らされる。
2、「報道の自由を守るには、報道することでしか守れない」
米国憲法修正第一条には次のように定められている。
議会は、国教の樹立を支援する法律を立てることも、宗教の自由行使を禁じることもできない。 表現の自由、あるいは報道の自由を制限することや、人々の平和的集会の権利、政府に苦情救済のために請願する権利を制限することもできない
権力者と親しい関係にあるから、と言う理由で報道を差し控える、など論外であるが、
ニューヨークタイムズのスクープで始まったこの報道に対して、時のニクソン政権は裁判所に、
報道は国益を損なう、と言う理由で差し止めを求め、発行人や編集責任者は訴追される恐れが
あった。ポスト紙もこれにひるむことなく追随して報道する決意をするときにベンが述べた。
3、「報道(ジャーナリズム)は国民のために存在するのであって、権力者の為にではない」
米国のフォックステレビにはトランプ側近が多く出演し、フェイクニュースを流すことで知られる
キャスターもいる。一方、トランプは自分の気に食わない報道に対しては、逆に「フェイクだ」と
決め付ける事態が発生している。
監督のスピルバーグは、こうした状況下で、今こそこの映画を作るべき時、と予定を変えて製作に
入ったらしい。主演のメリル・ストリープもトム・ハンクスもトランプ政権の批判を公然かつ決然
と為している。 彼らの強いメッセージが込められた言と思う。
(これに関してはスピルバーグが制作急いだ理由語る、「ペンタゴン・ペーパーズ」パリプレミア 参照)
余談だが、先に述べたようにこのスクープはニューヨークタイムズから始まり、法廷闘争でも
ニクソン政権の矢面に立ったのは同紙であってワシンポストではなかった。
しかし、他紙に追随して報道することを、何故か良しとしない日本のメディアと違って、
彼らは自分もまた独自に調査し報道する。それが力となって権力に対峙し「報道の自由」を
守っていくことに繋がる。 最近の例でいえば森友問題の朝日新聞のスクープに毎日が追随した
ケースがあるが、毎日は大いに称賛されてしかるべきだろう。
トランプは、ワシントンポスト紙を搦手から、つまり卑怯な手段で非難攻撃している。
ポスト紙は現在アマゾンのジェフ・ベゾフが買収してオーナーの地位にあるが、そのアマゾンが
米郵政公社に不当に安い値段で宅配を利用している、とやり玉に挙げている。
これには、むしろアマゾンは郵政公社の経営をたすけているから、この程度の赤字で済んいる、
との反論があるようであるが、手段を択ばないそのやり方が、あの民主党本部に盗聴を
仕掛けたニクソンを彷彿させるらしい。
最後に主演のトムハンクス。
ハドソン川の奇跡のサリー機長とはまた違った役作りで、ぴたりと編集主幹の役にはまっている。
すごい俳優だな、と感服するのみである。