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辞書を編纂する、という途方もない忍耐を要する作業にのめりこんでいる編集者の物語。
コトバに対する鋭い感覚を要する仕事でもありますね。
「たくさんの言葉を、可能なかぎり正確に集めることは、歪みの少ない鏡を手に入れることだ。歪みが少なければ少ないほど、そこに心を映して相手に差しだしたとき、気持ちや考えがはっきりと伝わる。一緒に鏡を覗きこんで、笑ったり泣いたり怒ったりできる」
コミュニケーションに関するHow to ものにはない核心をついた洞察です。
勿論、幸せな誤解、も偶にはありますがそれを解く努力が後程なされないと、不幸せな結末になるのではないでしょうか。
この小説を読んで、辞書の「紙」の問題に気づかされました。大切ですね、紙は。
本好きの私には、面白くて一気に読んでしまったのですが、読後感、として登場人物の人間的な「襞」が必ずしも十分に織り込まれていない、とちょっぴり不満が残りました。
特に、主人公馬締の相手、香具矢のキャラはもっとユーモラスに描けるのではないか、と思いました。
「死者とつながり、まだ生まれ来ぬものたちとつながるために、ひとは言葉を生みだした」
こうした随所に光ることばがあります。
次作を楽しみに待つこととしましょう。