最後まで生き残った175頭について。


手元にある蛹の数は、16日から20日に蛹になったものを゙中心とする39頭と、25日から6月末までに蛹になったものを゙中心とする42頭の合計81頭である。当然ながら早い蛹の中の雄の割合は高く、遅い蛹の中の雌の割合は高いと思われる。これは、早い時期に羽化し、成熟した雄を使って交尾を試し、遅い時期に産卵された雌から卵を゙得たいという目的と一致している。


上で、「中心とする」と言う曖昧な言い方をしたのには2つ理由がある。


1つは、中間の時期に蛹になったもののうちの変形した蛹を゙若干含むと言うことであり、もう1つの理由は、前蛹の見落としの結果、いつ蛹になったか分からない蛹が少し含まれることである。本来は早いグループに入るタイミングで蛹になったのに、見落とされてかなり長期間常温で放置され、遅いグループに入っている蛹が若干あるだろう。


21日から24日までに蛹になったもののうち、変形のない94頭は、アゲハの達人の元に6月26日朝ヤマト運輸当日便で発送され、当日夕方に到着している。


これらの蛹のほとんどは前蛹になった時点で屋内に取り込み、蛹になってから1〜2日程度常温で保存し、硬化後は10℃程度の低温で保存しておいたものである。先方の手元に到着後も、検品、発送などの時間を゙除き、冷蔵庫の野菜室に入れられていたようなので、常温に置いた期間は最大3〜4日程度のものがほとんどだろう。


やや低温で保存すれば7月後半に羽化させられるものが多い。この蛹を手に入れた方は累代飼育にチャレンジできるだろう。

夏型として羽化させ、標本にすることに何ら異存はないが、チャレンジしたいなら、ハンドペアリング、採卵を゙経て、来春春型を゙羽化させることも可能である。因みにミヤマカラスアゲハのハンドペアリングは極めて容易。採卵も直射日光にさえ気をつければ容易。相対的に暖地産ではあるから、産卵さえさせられれば高温には耐えられると思う。累代飼育に成功された方からのご連絡を゙楽しみにしている。


唯一気になるのは、雌親でカラスザンショウでの産卵を゙2日間試したが産卵しなかったことである。もちろんハマセンダンでも産卵していない。もしかしたら、キハダへの執着性が強い系統かも知れない。普通はカラスザンショウで産卵するし、最初からカラスザンショウを゙用いれば問題ないとは思うが、保証はできない。安全を期すならキハダの苗木を一本購入しておいた方が良い。

但し、これはあくまでも産卵の話であって、幼虫は3種のどれも問題なく食べる。大きさに差が出ることは確認していないが、カラスザンショウの硬い葉はあまり好まないかもしれない。


オークションは完売し、94頭のうち88頭はオマケ分も含めて購入して頂いた合計7名の方に送られた。


残る6頭のうちの5頭は「(寄生の可能性のある)変色の兆候が見られる」と判断され、1頭は羽化が近いと判断され、発送から除外されたものである。走っている車内からミカンの枝に付いているアゲハの蛹を゙見つけると言う、信じ難い眼力の方の判断に間違いがあろうはずがない。すべて仰る通り、下の写真は羽化した1頭である。


(7月11日追記)

2枚の写真のうちの下の写真は、本日羽化した雌。太平洋側や西日本のものは、北海道や日本海側のものと比較して後翅に派手さはないが、前翅が綺麗な傾向があると感じている。これらの゙個体は屋久島産に似ており、その特徴が良く現れていると思う。但し、屋久島産は春型が夏型と同じ程度に大きく、夏型は他に例がないほど巨大になることがある。

本州などにおける変異は連続的で、成虫の移動力の大きさを゙考えても、亜種として分けるのは難しいと思う。唯一不連続な印象が強いのは対馬産であろうか。

(追記終)



なお、屋外袋掛け飼育での寄生であるが、キハダ、カラスザンショウ、ハマセンダンを゙含むミカン科の植物の葉には高率で寄生バエ(ハチ)が待ち構えており、このような枝に単に袋を゙かけてそのまま幼虫を入れると、高率で袋の中の幼虫のすべてが寄生を゙受ける。アゲハ類を゙育てているつもりが寄生者を゙育てていることになる。


袋の中に幼虫を゙入れる前に、枝を徹底的に振り回すと、枝に付いていた寄生者は飛び去り、寄生の確率をほぼゼロにできる。


今回、寄生の疑いがある蛹が5つあると言われ、ピンと来た。5頭とは、カラスザンショウの枝に入れた幼虫の数であり、袋掛けしたカラスザンショウの枝のうちに、高い位置にあって脚立を゙使わないと袋をかけられないものが1つあり、足場が悪くトゲが邪魔だったために振り回しも甘かった。その袋の中の幼虫がすべて寄生されたのだと思う。




色々と細かいことにも触れたが、全体として、今回の飼育は、大袈裟に言えば想像を絶する大成功である。

正直な所、私はミヤマカラスアゲハの幼虫を6月に飼育することは怖かった。7月に入ると産地にはないような猛暑の日があり、.野外で得た卵からベランダの鉢植えで袋を゙かけない状態で飼育し、7月半ば頃に中齢幼虫で死亡した経験もある。7月に終齢幼虫は無理だろうと考えており、現に遅れた2頭の成長は7月に入ってからかなり変調を゙きたしている。

7月だけでなく、6月も怖かった。6月と7月、この両方を回避しつつ累代飼育を゙成功させる方法はないか、それをずっと探していたのである。


そんなんじゃだめだ、7月を回避することは止むを得ないにしても、6月まで回避しては累代飼育はできない。

今回、伊豆のミヤマカラスアゲハは、私を゙6月に飼育せざるを得ない状況に追い込み、背中を゙押してくれたと思う。


実際、産地では6月も7月もミヤマカラスアゲハはどれかのステージで生活している。冷涼な環境を好むミヤマカラスアゲハに関東平野の7月の猛暑に耐えることを要求することは酷だが、6月を越せないのは、飼育者の責任である。


飼育経験のある人なら分かると思うが、6月にミヤマカラスアゲハを゙200頭近く飼育して病気発生ゼロ、こんなことは普通では考えられない。当たり前のようにブログの記事を書いていたが、どこかで1つの袋の中で病気が発生し、その袋の中の幼虫をすべて殺して病気の伝播を゙防ぐとか、それに失敗してすべての幼虫が死に、連載を中断するとか、十分あり得ると考えていた。あのミヤマカラスアゲハは翅をボロボロにしながら私に自信を与えてくれたと思う。


あのミヤマカラスアゲハは死んだ。しかし、手元にはあの雌の子どもたちが羽化する蛹が沢山残っている。それを使って来年春にはあの雌の孫達を春型として沢山羽化させようじゃないか。6月を乗り越えられたんだ。8月、9月も乗り越えられる筈だ。決して侮らず、6月の飼育で守った原則を忠実に守り゙、そしてこの飼育で得た知見をフルに生かしてやって見よう。それが1年間できるなら、2年、3年続けることも可能なはずだ。




なお、下の写真は、上の記述で「羽化が近い」とされた個体の写真。23日頃に蛹化するグループの中で、この個体だけ6月20日ないしはその前とかに蛹化したが見落とされてほとんどの期間を゙常温に置かれ、7月3日に羽化した。蛹の期間は約2週間、普通である。前翅のラインの太さに雌親の片鱗が残っている。夏型としては中々綺麗な雄だ。夏型でこれなら、春型はどんな感じか?そこも気になるところだ。


さて、これにてミヤマカラスアゲハの累代飼育に関する話題は一旦お休み。次回の更新は、羽化が始まる時期、多分7月下旬になると思う。それではその頃にまた。