失敗から学ばない者に未来はない。昨年は累代飼育に失敗したが、確認できたことはあった。まずそれを再確認したい。


1.発育温度をt(度)、発育日数をd(日)として、ミヤマカラスアゲハの蛹は常温の範囲内で以下の式に従う。


(t−7)d=200


発育零点は7℃とかなり低い。基本的に北方性の蝶である。

有効積算温度の200(日度)が大きいのか小さいのか、そこは分からない。


多分この式が良く成り立つのは10〜25℃程度の範囲であろう。昨年は名古屋近郊産、本年は伊豆産だが、それほど違いはないと思われる。


7℃よりも高い温度であれは蛹での形態形成は進む。7℃よりも極端に低い温度では発育がほぼ完全に停止し、長期間置くと死亡する可能性がある。蛹を発育零点よりも少し高い温度、例えば10℃に程度に保持すれば、生理的な障害は殆ど出ず、羽化を遅らせることができるはずだ。


5℃は7℃よりも「極端に低い」とは言えないが、5℃設定の冷蔵庫に長期間入れておくと死亡する可能性があり゙、冷蔵庫に入れたまま1か月放置などは少し危険。

もっとも、冷蔵庫の5℃と言う数字自体目安に過ぎず、今の時期、家庭用冷蔵庫の゙温度設定を゙「弱」にしておけば庫内温度は10℃近いだろうし、たまに開けるだけでも効果はあるはずで、問題はないかもしれない。この辺はあまり神経質になる必要はないとは思うが、せっかく買った冷温庫もある。大事をとって冷温庫で10℃に設定して保存する。


上の式の応用形として、蛹化と羽化前の合計5日間を25℃、残る期間を10℃に置いた場合の計算も実行してある。蛹の゙硬化と羽化は遅延させずにスムーズに進めさせたいので、各2〜3日、合計5日間常温と言うのは、自然な設定である。


低温に置く期間をxと置く。


(25−7)✕5+(10−7)✕x=200より、

x=37


蛹の期間dは、

d=x+5=42(日)

眼の位置が黒くなるなどの羽化兆候が出たら冷温庫から出すとすると、蛹化から冷温庫から出すまでの期間は約40日。


ここまで伸ばせるなら十分。この式に従えば、手元に残したすべての蛹が使える。


余裕を゙持たせて、前後3日、合計6日間常温ではどうか。袋の中で蛹化したのを見逃して、蛹化後の常温期間が長くなることは普通にある。


(25−7)✕6+(10−7)✕x=200より、

x=31


蛹の期間dは

d=x+6=37(日)

蛹化から冷温庫から出すまでの期間は34日。


これだと微妙。

蛹に゙なってから冷温庫に゙移すまでの期間は2日程度が望ましいだろう。表面が白っぽくなり、硬化した雰囲気になったら、冷温庫に入れる。


2つの式でえられたdの値を゙比較すると。常温で置く期間を1日伸ばせば、蛹の期間は5日短くなることが分かる。


5日の意味は25℃(以上)では5℃の時の6倍の日度を゙稼げるから、差が5日と言うことだろう。

(25−7):(10−7)=6:1

6−1=5


常温での1日は、低温期間の6日に相当する。蛹になったのを見落として長く袋の中、常温に置いた蛹は早めに冷温庫から出す必要が出る。そこは覚悟しておこう。


低温に置く期間を10日伸ばしても、常温で羽化するまでの日数は2日しか短かくならない。2日程度の羽化日のずれは個体差として普通にあるため、低温に置く期間の多少の違いによる羽化への影響は誤差と見なそう。早いグループと遅いグループを゙同時に冷温庫から出す。


積算温度則の式自体、単なる一次近似であり、大体の目安である。

S字状の成長曲線において、温度依存性の高い区間を゙直線に近似して大体の成長速度を見ているだけであるから、小さな誤差を゙気にする意味はない。


2,発育零点と有効積算温度の他、成虫の10℃での生存期間も゙確認した。


雌::約1ヶ月  雄::約2週間


この値は冷蔵庫で保存した場合や、常温で保存した場合と大差ない。温度を下げても、成虫の生存期間は伸ばせない。成虫での低温保存は無意味である。


ここに期待して失敗したのが去年の゙結果である。しかし、これは重要な事実であり゙、この失敗は生きる。低温保存は蛹の期間だけにする。成虫になったら適温、例えば20℃程度で保存する。


自画自賛ではあるが、なんて素晴らしい予備実験だろうか。ほとんど手間いらずだ。この2つのデータは、今年やるべきことを明確に示している。詳細は次回に。