5月17日に採集されたミヤマカラスアゲハの゙雄は5月28日朝、遂に天に召されていた。


破損している、小さいなど、言葉で説明していたが、具体的には伝わらなかったと思うので、500円硬貨を置いた。500円硬貨と大差ない、胴体が小さなミヤマカラスアゲハ(笑)。



果たして交尾可能か、当初は危惧したが、三度も交尾し、そのすべてが有効な交尾であった。


以前は蝶類は一生に一度しか交尾しないとされていたが、今では多くの種で複数回交尾することが知られている。

一度目は18日昼。この交尾は18日午前に雌が全く産卵しなかったことから実行したものである。

二度目の交尾は21日夕方。これは、半日雌をハマセンダンの゙袋に入れて、全く産卵しなかったことから、いわばキハダに戻す前の、雌の気分転換の゙ために実行したものである。


雄が交尾の゙際に雌に与える精子を含む袋、精包は、再交尾を゙行うと最初のものが奥に押し込まれ、最初の精包の内容物は栄養分として利用されると考えられている。再交尾は精子供給の゙意味だけでなく、雌の栄養補給としての意味もある。

精包は、ミヤマカラスアゲハの゙場合、通常交尾終了後30分位は交尾孔を゙見ると確認できるが、1回目の交尾では、数分後に確認したにもかかわらず、「あるような気がする」程度で、ほとんど確認できない状態だった。

18日の゙最初の交尾で作られた精包があまりにも小さく、実は交尾が成立していないのではと言う不安もかすめたために21日に再交尾させたと言う面も゙あった。交尾終了までの時間とか、交尾終了時の゙動作などが全く正常だったので、成立したのだろうと見切り発車した面も強い。


ニ度目の交尾で作られた精包も非常に小さく、同様の不安があったが、雌が順調に産卵していたために再交尾は行わなかった。

22日産卵分にも細かい糞が見え、孵化が始まっている。結果としてここまでの交尾は正常であったことが確認された。受精率はほぼ100%だと思う。量はともかく、受精能は高かったようだ。


その後、24日にはやや産卵数が少なくなったため、翌日からカラスザンショウを゙試した。

ハマセンダンはキハダよりも香りが弱いせいか、キハダの゙後にハマセンダンに移して産卵しないことは珍しくない。今回も多分無理だろうと考えていたため、やっぱりな、という感じで、あまり時間をかけることはしなかった。

しかし、キハダからカラスザンショウに移すことで産卵しなくなるケースは今までに経験していない。カラスザンショウは最も香りが強く、刺激が強いため、キハダでの産卵数が減っているが、カラスザンショウならもっと産卵するのでは?と言う期待もあってカラスザンショウに移したものである。


なお、以上の話はあくまでも雌の産卵に限った話である。幼虫の゙摂食対象の゙選択はもう少し寛容であり、キハダに産卵され、孵化した幼虫は、ハマセンダン、カラスザンショウの゙いずれに移されても食べる。母蝶の産卵誘起は主に前肢の嗅覚器に依存しているのに対し、摂食行動には主に口器付近の味覚(接触化学覚)器が関与しているためではないかと思う。

幼虫の゙摂食に関して唯一うまくいかないことがあるのは、カラスザンショウから他の植物への移動である。但し、食べないと死ぬような状況にまで追い込む実験はしていない。カラスザンショウを゙食べていた幼虫も、飢餓状態ギリギリまで追い込まれれば、ハマセンダンやキハダでも食べるようになると思う。特にカラスザンショウからキハダへの移動は問題なさそうだ。


2日間、カラスザンショウでの産卵を試したが、雌は全く産卵しなかった。そこでまたもや雄の出番となり、27日に三度目の交尾を゙行わせ、雌はキハダに戻した。


この三度目の交尾の゙後に雌の゙交尾孔に付いた精包は今までになく大きく、交尾後しばらくしてもはっきり見えた。天気が回復する明日からは、また雌は産卵するだろう。


この雄は、小さな体で10日程で三回の交尾。採集した直後は、すぐに死ぬのではないか、家まで保たないのではないかと思っていたが、よくぞ激務に耐えて生き続けた。

あの花で待っていても、あの雌と交尾可能な他の雄は多分飛来しなかっただろう。ところがこの雄は三度も交尾し、雌に精子とエネルギー源を与え、力尽きて死んだのだ。この雄が天国に行けない筈はない。


力石徹のように葬儀もやってやりたい所だが、それは省略し、雄の死体をキハダの根元近くに軽く埋めて埋葬するのに留めた。アリが発見し、巣に運び去るであろうが、それは自然の摂理。とやかく言うつもりはない。