ミヤマカラスアゲハの゙雌はその日、夕方までに10卵近く産卵した。その後もほぼ毎日産卵を゙続け、1卵しか産卵しなかった前日分とその日の分だけは一緒にしたが、翌日以降の゙1週間は、毎日一袋、10卵から20卵程度と言う感じでキハダに6袋できた。雄も餌を与えている間にだんだん元気になって来たので、2回(最初の゙交尾を含めると合計3回)交尾させた。すぐ下の゙写真は2回目、その下の゙写真は3回目の゙交尾である。

雄の゙破損も゙酷く、紺飛白の゙着物に袴の出で立ちの旧制高校生どころではないが、餌を与える時や交尾の時に翅を掴んで鱗粉が取れたこと以外はほぼ初めからであり、吹き流しの゙中でそれほど暴れなかったため、途中での変化は大きくない。

雌の翅はどんどん短くなっており、特に3回目の゙交尾の時はほとんどなくなっている。これには理由がある。





普通のミヤマカラスアゲハの雌は、袋の゙近くに産卵する場合、主に葉の裏に産卵し、「勢い余って」とか「ついでに」と言う感じで袋にも産卵する。葉から受けた産卵誘引作用の効果が、葉から離れても継続してしまうということだと思う。お腹を゙内側に曲げた産卵姿勢の゙まま袋の表面を゙歩き回り、葉に産卵した後に袋にも産卵するのである。葉に産卵する卵よりも袋に産卵する卵の方が多い個体は普通にいる。


余談だが、袋に産み付けられた卵はどうなるかというと、孵化後大抵は葉にたどり着き、摂食を゙始める。但し、アリが多くいる木では袋の外からアリが卵に噛みつくようで、孵化率は低くなるし、葉にたどり着けずに死ぬ幼虫も゙いるだろう。そのため、卵の数が少ないなどで丁寧に扱う必要がある場合、袋の゙卵が付いている付近ををカットし、袋片を゙葉にピン止めして、幼虫が孵化して袋片から離れた後にピンを゙外す。鋭利な針先が卵や幼虫を゙傷つける可能性を゙考え、針先を゙小さな発砲スチロール片で覆うなどの手間もかかり、毎日やるとなると、かなり面倒な作業である。

今回は毎日別の袋で産卵させており、幸いなことにキハダにはあまりアリが来ず、この雌は袋に産むことが非常に少ないため、この作業は行わず、袋はつけたままにしている。色々な面でこの雌の産卵習性は有り難いのだ。


話を元に戻す。なぜこの個体の翅の損傷が激しいかというと、この個体は、袋に産卵するのでなく、袋と枝の間の゙狭い隙間に無理やり入り込み、葉の表に産卵しようとするのである。狭い所に無理やり入り込もうとすれば。翅が破損する。そのため、毎日の産卵終了時には袋の下の方に翅の破片が散らばっており、翅はどんどん小さくなる。それが毎日繰り返されているのだ。

下の写真は、3回目の゙交尾前の給餌時である。ほとんどアゲハらしさを゙留めていない。ハチとかハエの一種ですと言われたら、信じてしまいそうだ。



右前脚が手を降っているように見えるのは、ただの偶然、手ブレによるものだが、私にはこの゙様子が『伊豆の踊子』の゙中の重要な場面、入浴中の゙踊子が男湯にいる「私」を゙見つけ、手を振っているシーンと重なっているように感じられた。


教科書に載っている『伊豆の踊子』は面白くないと聞いたことがある。多分、茶屋の゙おばあさんの゙旅の一座に対する侮蔑的な言辞とか、あの踊子は娼婦だと聞かされた後に裸で手を振っている踊子を見て、そんなんじゃない、子供なんだと『私』がホッとする場面とか、そういう『サビ』の゙部分は教科書には載っていないのだろう。サビ抜きの゙伊豆の踊子、そりゃあ面白くないわな。


着衣ならぬ翅を゙脱ぎ捨てた格好であることに頓着せず、無邪気に手を振るミヤマカラスアゲハ。伊豆の踊子も、伊豆のミヤマカラスアゲハも、やることは結構荒っぽい。