スキー場は分からないではないが、ゴルフ場?と顔をしかめる方もいるだろう。私も以前はゴルフ場の建設は自然破壊の面が大きいと思っていた。しかし、これだけ林や草原が放置され、管理されていない状態になると、ゴルフ場のラフはかなり貴重な、管理された疎林的環境や草原環境と認めざるを得ない。


昔は農薬が問題になったこととあるが、もう30年以上農薬はあまり使っていないはずだ。植生的にも元々の自然を生かして造成している所も多い。そして、信州ではかなり標高の高い場所にもゴルフ場は作られている。いつまでも悪者扱いすべきではない。



思い付きで言っている訳ではない。ネットを持って入り込むパワーのある人は少ないだろうから、具体的な場所を挙げる。


津久井湖ゴルフ倶楽部


あのゴルフ場を取り巻く尾根の中の一ヶ所で複数のギフチョウが交錯しているのを見たことがある。離れた所にある生息地から移動してくる位置ではなかった。


その後数年かけて、周囲の沢沿い、林内などを探し回ったが、遂にギフチョウの発生が可能な規模のカンアオイ群落は見いだせなかった。

まさか?と思いながらGoogleマップなどで調べた。確かに環境は悪くない。成虫がいた位置も考慮すると、何番ホールのまわりの多分この辺と言うのも見当が着いているが、そこまで書くとゴルフ場関係者に迷惑がかかる可能性があるため、そこは書かない。


あのゴルフ場のラフにカンアオイ群落があり、ギフチョウが発生していることは、ほぼ間違いないと思う。ゴルフ場の中が貴重な生き物の生息場所になっていることはあるのだ。


低木や薮はかなり刈られている。カンアオイの自生地となる場所もあるだろうし、場所によってはクガイソウ等が生え、コヒョウモンモドキの発生地となっている場所もあると思う。

ただ、問題なのは、仮に希少種がそこに生活していても、ゴルフ場の管理者は多分その知識がないと言うことだ。つまり、ちょっとした管理の変更などで、過去に生息していたことを誰にも知られることなく消滅する。そういう危うさがある。



色々な蝶などの保護活動が各地で行われている。多分地方自治体の職員などが音頭を取り、地元の大学の生態学の先生の指導の元、意識の高い住民の方々が参加されていることと思う。結構なことだ。


こういう活動にスキー場とかゴルフ場関係者などは参加しているのだろうか?いなかったら是非声をかけるべきだ。スキー場やゴルフ場の草刈りの仕方や時期をちょっと変えるだけで大きな保護効果が期待できるし、何よりも彼らはビシネスとして植生管理をやっている。その中に保護的要素を組み込んで貰うことは不可能ではないし、追加的コストも大きくないだろう。


上場企業が経営に関与している所も多い。自然保護に取り組んでいると言う宣伝効果を考え、ビシネス的な合理性から協力してもらえる可能性も低くない。


実際、「ニッセイの森」、「カゴメの森」などさまざまな地域で大手企業がやっている森林整備、あれははっきり言ってしまえば会社のイメージ戦略、人気取りだ。会社と縁もゆかりもない地域でなく、自分の会社の敷地の中に希少種がいたらどうなるか。大喜びで資金や労力を提供する所が出てくることは、想像に難くない。


我が社が運営しているゴルフ場は敷地の中で絶滅が危惧されているコヒョウモンモドキが乱舞している程自然が豊かです。

大いに結構じゃないか。どんどん宣伝したらいい。

独り言を言わせてもらえるなら、周囲に生息地があるなら、環境を整えて放して生息地にしてから元々いたと称するのも、許容範囲だと思う。その地域に生息していたことは本当だし。


更に言えば、クガイソウなどの希少植物の栽培に最も詳しいのは山野草の業者やマニアであり、彼らに協力して貰えば生態学の先生よりもずっと実用的な増殖法等を教えてくれるはずである。蝶などのマニアの中には生態や累代飼育等について詳しい者がいることは言うまでもない。


少なくともある時期に自然破壊の元凶のように言われた人たちこそ、必要な知識や力を持っている。その活用を考えない限り、保護活動が実を結ぶのは難しいと思う。


そんなことは当たり前、業者は悪、マニアは敵などと言う考えは決して持っていない、お前の言っていることは時代遅れだと言われたら嬉しい限りだが、意識の高さが味方にすべき人達を敵に回す方向に向かっているとしたら、残念な限りだ。


明らかに人間の不注意によって特定地域で希少種を全滅させた例としては姨捨でのオオルシジミの消滅がある。この原因に関しては議論の余地はなく、観光資源としての棚田の整備に伴い、クララを全部刈り取ったから。

ちょっと前までの感覚としては、クララは草丈が高く邪魔な毒草。クララと言う名前自体、馬酔木と同じような意味だし、クララを嫌っている農家の人は多かった。知らなければ真っ先に刈り取るのは当然。


今になって考えると、仮にクララを残しておけばオオルシジミ自体が立派な観光目玉になった可能性はあるが、後の祭り。これは当時はまだオオルシジミに関心が薄く、土地改変の権限をもつ人や組織が情報を持たなかったために「知らずに全滅させてしまった」例だろう。

正確には覚えていないが、クララが全部刈られた話を私が聞いたのは、昭和の末期か平成の初めの頃だったと思うので、多分「田毎の月」として国の名勝に指定される少し前だと思う。採集家の間で、それ以前は「姨捨に行けば採れる」と言われていたが、「姨捨はいなくなったので、本州でまともにいるのは妙高の自衛隊の演習場の中くらい」とか言われるようになったのはこの頃だったかな。今は実弾演習がない日も関山演習場への立ち入りは禁止されているようだが、きっと中には今でも飛んでいるのだろう。


知らないことを責めるのは難しい。これは、敢えて言えば情報を与えなかった人の責任だと思う。責任追及なんかどうでもいいから、こういうことを少しでも減らしたいものだ。


今現在、スキー場やゴルフ場の中で希少種が生存していたとしても、知識を与えなかったため、来年は全滅しているかも知れない。それが一番恐ろしい。知らずに全滅させてしまう危険があることは、知っていさえすれば手厚く、安定的な保護が期待できることと裏腹の関係にある。その状態を何とかすることが、最大の課題ではあるまいか。