言うまでもなく、7300年前よりも前にも鬼界カルデラの噴火は起こっている。しかし、1万年より前になると、屋久島と九州南部が陸続きになってしまう。氷河期の後の温度上昇に伴って縄文海進と呼ばれる海水面の上昇が起こり、屋久島が九州と分離。恐らく九州南部と同様、低地にカラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハの両方がいる状況で巨大な噴火が島を襲ったと考えられる。
今、私は7300年と書いているが、これが7200年だろうと7500年だろうとどうでもいいと思っている。逆に地質学者にとっては噴火が何月かはどうでもいいだろうが、生物を考える上ではこちらが大問題だ。この点に関して、全く手掛かりがないわけではない。鬼界アカホヤ火山灰の飛んだ方向から、ある程度の推理は可能である。知られてる飛散方向が、異なる季節の火山灰の最大値の総和であることを意識しながら分析すると、次のようになる。
一部は朝鮮半島まで到達している。偏西風の強い冬に、これはない。冬以外の季節にも大きな噴火が起こっている。そして、南は沖縄本島までしか飛んでいないが、北は東北の秋田県、岩手県南部まで飛んでいる。これは、南風の強い時期に大きな噴火が起きたことを意味する。
九州南部の風は夏を除き北西の風が優勢。最大の噴火は7月から8月、夏だろう。
この時期であれば、一部木と共に埋まって死んだ幼虫や蛹もいるが、かなり成虫が飛んでいる。蝶への被害は比較的軽微。背の高いカラスザンショウやハマセンダンが一部火山灰の中から頭を出している。植物は被害甚大であろう。
わずかに生き残ったカラスザンショウやハマセンダンに産卵する蝶は、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、そしてモンキアゲハの3種。わずかな資源を巡る種間競争の勝者は多分モンキアゲハ…。カラスアゲハを絶滅させた犯人はお前だ。カラスアゲハは少なくなったカラスザンショウやハマセンダンを巡る競争の結果絶滅したのだろう。
ではなぜミヤマカラスアゲハは生き残ったのか?この点は私がああでもない、こうでもないと考え続け、ずっと結論が出なかったことである。
話は突然変わるが、私が屋久島のミヤマカラスアゲハに興味を持って屋久島に訪れるようになる少し前、中田隆昭氏が屋久島に移住していた。今や『自然島』の主宰者として、梢回廊キャノッピを提案し、屋久島のエコツアーを支える大立者である中田さん、当時は飛島南というようなチャラいペンネームを使い、「データ屋久島」を発刊し、屋久島の自然情報を昆虫愛好家などに発信することを一つのビジネスと考えていたようだ。その中田さんに「データ屋久島」に屋久島のミヤマカラスアゲハのことを書かないかと誘われ、今は書けないと言って断ってしまったことがある。
生きたミヤマカラスアゲハを送れとか、むちゃくちゃな依頼ばかりしながら、折角の原稿依頼、断ってしまってごめんね、中田さん。あの時、私は今日書いたことあたりまでは到達していた。でも、この先が分からなかったから、書くにかけなかったんだ。でも、今からなら書いてもいいよ。とはいえ「データ屋久島」とっくに廃刊しているよね…。
仕方がない。明日以降、この先をここに書くことにするから、それで許してね。