「ニッポン戦後 サブカルチャー史」
あの時があるから…今がある
ニッポン戦後サブカルチャー史
その1からつづく
ナレーション
平仮名の「おたく」からカタカナの「オタク」へ…
その変換は90年代に起こった。
コミケの変遷とともに、歴史的転換期を見ていこう。
コミックマーケットが産声を上げたのは1975年。
「マンガファンが交流する場」として東京・虎ノ門の小さな会議室でスタートした。
時代はまだ「おたく」という言葉が誕生する前。
集まったのはおよそ700人。
その9割は10代の少女たちだった。
当時少女たちの間で絶大な支持を得ていたのが漫画家萩尾望都の作品。
代表作「ポーの一族」は永遠に年を取らない吸血鬼が主人公。
この作品に刺激を受けて作られた同人誌などがひそかな人気を博していた。
およそ40年にわたりコミケの運営に携わる安田かほるは初期のシーンをこう振り返る。
安田かほるさん
「ポルの一族」っていって当時ものすごいはやっていた「ポーの一族」というマンガのパロディーなんですけれど、小冊子印刷して結構売れてましたけれど。
その当時みんな大学生だったんで、まあ別に体制をひっくり返そうというんじゃないんですが…大きいものに巻かれたくないみたいなのとか…あと自分たちで一つ一つ全て作っていこうみたいなところはものすごくあって。
ナレーション
一部のマンガ好き少女たちの同好会的存在だった「コミケ」
しかしそのエネルギーは80年代に入るとより大きなものとなってゆく。
時代は70年代後半から続くアニメブーム。
81年アニメ「機動戦士ガンダム」の劇場公開イベントが行われた新宿には1万人を超えるファンが集結。
その熱狂ぶりがマスコミでも大きく報道され、アニメが子供だけのものではなく若者文化の一つとして認知されるきっかけとなった。
アニメブーム拡大とともに、コミケはアニメファンをも取り込み参加者を大きく増やしてゆく。
そして89年…
長きにわたった「昭和」が幕を閉じ「平成」の時代へ。
4月には初めての消費税3%が導入され人々の暮らしが変わってゆく。
そんな時代だった。
その矢先…日本中を震撼させる事件が起こる。
東京・埼玉で…幼い女児が次々と被害者となった連続誘拐殺人事件が発生。
人々の関心をかきたてたのは容疑者の部屋。
ビデオやマンガが大量に積み上げられた様子がセンセーショナルに報道され「おたく」という言葉が世間一般に知られるきっかけとなった。
そして迎えた90年代
「オタクバッシング」
「有害コミック騒動」
コミケは世間からマイナスの注目を浴びる事で皮肉にも参加者数を急激に伸ばしてゆく。
そして90年代後半。
コミケは大爆発時代を迎える。
このころ日本はバブル崩壊後の長引く不況のただ中にあり、証券会社や銀行が相次いで破綻。
出口の見えない不況は、社会全体を大きな不安で包み込んだ。
そんな中にあっても、オタクカルチャーシーンは活気にあふれていた。
アニメ業界では
「新世紀エヴァンゲリオン」が爆発的ヒットを記録。
一大ムーブメントとなりその経済効果はこれまでで、1500億円を超えたとも言われている。
ゲーム業界では各メーカーから発売された次世代ゲーム機が市場を席巻。
さまざまな人気ソフトも誕生した。
マンガ業界では95年
「週刊少年ジャンプ」発行部数が空前の653万部を記録。
これらのブームに支えられオタクの時代が到来しようとしていた。
安田かほるさん
確かに不況だったり…就職が厳しかったりとかっていう現状はあるんですけれど、自分たちが好きなものに1点集中的にお金をかけるみたいなのがやっぱり「オタク」って言われてる人たちの中では結構標準な感覚なので…どれだけお金をかけても作品をコンプリートしたいとか…ビデオを全部そろえたいとかという気持ちというのが強いので、まあ折れなかったっていうか気持ちが折れなかったというところで…あまり関係なかった。
ナレーション
そんな時代コミケは会場を日本最大規模の会場東京ビッグサイトに移して開催される。
そこに集結したのは40万人を超える胸を張ったオタクたちだった。
宮沢章夫さん
今の中で「おたく」…
君たちはもうカタカナの「オタク」だったと思うんです。
もっと言うならば何だ…
「ヲタク」?
風間俊介さん
あ~面白いですねそうやって言葉に変えていくと…
宮沢章夫さん
でまあこれは一つは…一般化したっていう事はかなり大きな意味があったんじゃないかと思うんですよね。
だからネガティブさというのを…もう少しカジュアルにしたというかなそれが「オタク」になった時にそれは感じたんですけどね。
アメリカは「ナード」って言葉がありますよね。
マシュー・チョジックさん
昔「Nerd」とか「Geek」ちょっとニュアンス的に「オタク」に近いですね。
「Nerd」「Geek」ちょっとネガティブな言葉なので、最近みんな「僕はNerdじゃなくてオタクです」みたいなちょっとオシャレな感じしますね。
宮沢章夫さん
オシャレ!「オタク」はオシャレなんですね。
福嶋麻衣子さん
「Nerd」と「オタク」っていうのももはや両方言葉としてあるって事なんですか?
マシュー・チョジックさん
はいそうです。
宮沢章夫さん
僕は今回…こういう90年代を話するので「エヴァンゲリオン」を見たわけじゃないですか。
やっぱり僕は「エヴァンゲリオン」が…95年から96年にかけて放送されて…そのあとさまざまな事が「エヴァンゲリオン」について語られた時代というのが、一つの90年代を分ける力になったんじゃないかと思うのは「オタク」というものを変えたっていう気がするんですね。
そこに「オタク」の分岐みたいなものがあると。
非常にカジュアルになったカタカナの「オタク」になった層というのが一方にあり…それからもう一方がよりコアなところに行ったんじゃないかなと思うわけですね。
それを「エヴァ」が一つの分岐点として
それを見る事によってそれに対してどういう態度をとるかっていう事を、ある種の試金石みたいな感じで存在したように僕には見えるんですね。
風間俊介さん
ほんとにそうだと思います。
その…「エヴァンゲリオン」そして「攻殻機動隊」っていうこの2つの作品は…まずオシャレでかっこよかったんですよね。
で、今までアニメっていうのはオシャレでかっこいいわけではない。
けど、それがまた海外から見たらクールだったんだと思うんですけど…
間違いなく誰が見ても多分これはオシャレっていうものが生み出されたのが「エヴァンゲリオン」だと思うんですよ。
で…そうしたらこれを好きだっていう事は恥ずかしい事ではないという概念が生まれて…そこからやっぱり平仮名の「おたく」というのとカタカナの「オタク」
そのなんか…街の男の子とかが…
もうすごいかっこいい格好してる子が「あっ俺オタクだからさ」って言う「オタク」と今まで使われてた「おたく」っていうのの分岐点は、このかっこいい「エヴァンゲリオン」にあったんだと思うんですよ。
宮沢章夫さん
なるほどそうだね。
だからここでやっぱり明確にカタカナの「オタク」というのが出てきたっていうふうに考えてもいいのかなぁ…
つづく…