五味幹男のアジアときどきフットボール

五味幹男のアジアときどきフットボール

スポーツライター・五味幹男が、「フットボール」というスパイスを加えてアジアを紹介します!

スポーツナビファンブログで連載スタート!!

高校サッカー小説「9人サッカー」



11人でやるだけが、サッカーじゃない。

9人でもサッカーはできる。


JFAの競技規則によれば「8人以上」であればチームとして認められる。


戦術はレストランだ。

なぜ、あまたの戦術は左右対称なのか?

非線形フォーメーションとは?

9人でサッカーを続ける意味とは? 覚悟とは?

そして、ある日加わった“半分しかプレーできない”選手。


学校の方針により部員が9人に制限されてしまった

空見学園高校サッカー部とサッカー未経験の新米監督による


「新たなる地平のサッカー」がいま始まる――。



高校サッカー小説「9人サッカー」 by スポーツライター・五味幹男



◆facebookページ、あります→こちら


◆twitterも、あります→こちら




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日経トレンディネットにて

「サッカーからみたアジア経済」

というテーマで連載をしています。


サッカーで名をあげようとする国は少なくありません。

特に経済発展著しいアジア圏では

それぞれの国が独自のやり方で強化を進めています。


日本サッカーがそうであったように

その方法は、国民性はもとより経済のやり方に通ずるものがある。


なればこそ

サッカーを通じて見えてくるその国の経済があるのではないか。

そんなコラムです。


第1回は、シンガポール

第2回は、マレーシア

第3回は、タイ

第4回は、カンボジア

第5回は、インド



記事はこちらです

日経トレンディネット

「サッカーからみたアジア経済」(タイ編)




Amebaでブログを始めよう!
 前半終了のホイッスルを聞くと、透はその場に立ち尽くした。長くもあり、短くもあり、まるで時間感覚が失われていた35分間だった。スパイクの底から伝わる感覚は確かにあったが自分のものではないようだった。左の上腕を締め付ける力だけがやけに際立って感じられる。

 「さあ、いこうぜ」
 司が通り過ぎざまに肩を叩いてきた。その声に引っ張られるように司の背中を追いながらベンチに戻った。
 「なんだよ、あの審判。金もらってんじゃねえのか」
 「こら、そういうことを言うんじゃない」
 ベンチに戻ると大祐を進藤がたしなめているところだった。

 「先生、ありがとうございました。助かりました」
 司が進藤に頭を下げた。司がファウルを取られたとき進藤が誰よりも早く相手のファウルだと暗にアピールしたことを指して言っているのは透にもわかった。

 進藤は司に小さくうなずくと全員を見回した。
 「いいぞ、いいぞ。このままいこう。終わり間際の感覚を忘れるな。だいぶいい感じになっているぞ」
 進藤が切り替えるように手を叩いた。

 部員たちはベンチ前を取り囲むようにそれぞれが後半に向けた準備を進めていた。大祐はスパイクを脱いだ両足を投げ出して両手で太ももをさすっている。隆と裕也はコップを片手に話している。陸と友則が海の手振りにうなずきながら、3人で額を突き合わせている。

 「なかなか様になってるじゃんか」
 顔を向けると司が人差し指でキャプテンマークをつついてきた。心臓が締め付けられ、顔がこわばるのがわかった。
 「そんなかたくなるなって。そんなのただの目印のようなもんなんだから。いままで通りでいいんだって」
 司のあまりの軽い口ぶりに、そんな無責任なと思ったが言葉にならなかった。
 「そうそう。俺たちだって透にこれまでと違うことを求めようなんてこれっぽっちも思っていなし」
 大祐が柔軟体操をしながら笑顔で言った。
 「いや・・・・・・」
 言いながら、透は自分があまり期待されていないことを残念がっているのに気づいた。
 「あれ、もしかしてがっかりした」
 裕也が勘ぐるような笑顔で顔を覗き込んできた。
 「そんなんじゃないよ」
 透は慌てて両手で顔を擦った。
 「わかりやすいな、透は」
 その様を見て、陸が乾いた笑い声を発した。

 「いいんだよ。だってそもそも司のわがままなんだから」
 隆が突き放すように言った。
 「おいおい、ちょっと待てよ。俺のわがままって、それだけじゃないだろう。第一、俺がキャプテンになったのだってちゃんと決めたわけじゃないし、なんとなく流れでって感じだったじゃないか」
 「そうだっけ?」
 隆が隣の裕也にとぼけた口調で聞いた。
 「うーん、記憶にございません」
 裕也がバカ丁寧なお辞儀をした。
 「おまえらなー」
 司が足を踏み出すと裕也と隆があとずさった。ベンチが笑いに包まれる。

 司がこちらを向いた。
 「つまりあれだ、俺は仮だったということだ。よくあるだろテレビ番組なんかで、カッコ仮っていうやつ。俺がしていたのは正式なキャプテンを決めるまでのつなぎであって、それが延び延びになってようやくこのあいだ決まったと、そういうわけだ。なあ、みんな」

 司がみんなを見回した。つられて透もみんなを見回した。

 誰もがなにも言わなかった。透はゆっくりとみんなを見回した。そのすべての目が「俺たちが選んだキャプテンはおまえだ」と言っているように感じた。遠くでは蝉が絶え間のない鳴き声を聞かせている。

 「そろそろ準備しようか」
 進藤が腕時計を見ながら言った。
 「よっしゃ」
 大祐が威勢よく立ち上がって、尻を手で払った。
 「准、これ、交代用紙だ」
 准は進藤から紙を受け取ると運営のテントの方に歩いていった。

 透はベンチの端に座っている功治に近寄っていった。功治のスパイクの紐は固く結ばれたままだった。手に持っているコップの中身は半分も減っていない。

 「じゃあ、行ってくるよ」
 うつむいていた功治がゆっくり顔を上げた。
 「はい、お願いします」

 透は返事を聞くと間をおかず踵を返した。功治のためにも必ず勝って帰ってくる。

 後半開始を告げるホイッスルが鳴った。

第60節 仲間②へ

 透が目を覚ましたとき、最初に飛び込んできたのは真っ青なキャンパスにくっきりと描かれた雄大な富士山だった。

 「うおー」
 大祐が去年と同じように叫び声を上げた。その声に眠りの世界から引き戻された何人かが同じように叫び、それは数珠繋ぎになって瞬く間に車内が騒がしくなった。

 裕也が窓をめいっぱい開ける。冷たい空気が一気に流れ込んできた。

 「富士山よー、また来たぞー」
 身を乗り出さんばかりに裕也が声を張り上げた。しかし、富士の山は何事もなかったかのように、過去、数百年、数千年の間そうしていたように静かに鎮座している。

 透たちは渋滞に巻き込まれることなく、予定の30分前に山中湖に到着した。今年は准が増えたので総勢で11名になる。進藤は12人乗りのマイクロバスを運転するために2ヵ月前に中型免許を取得していた。

 山中湖の宿は1年前に訪れたときとなにひとつ変わっていなかった。まるで時間が止まっていたかのようだ。迎え出てくれたオーナーの老夫婦も変わらず元気そうだった。

 夏休みに入り早2週間が過ぎようとしていた。半年後に受験本番を控える3年生にとっては勝負の時期でもある。ここで蓄えた力が、秋以降の本番に向けて一段と飛躍するための礎となる。透もこの合宿を挟んで、ふたつ夏期講習を申し込んでいた。もちろん、合宿には参考書をもってきている。おかげで今年の荷物は去年に比べ、倍以上の重さになっていた。

 「あれ、ない」
 バスから荷物を降ろしながら友則が言った。
 「なにがないの」
 裕也が友則の横に立って荷台を覗き込んだ。
 「ボールが、ボールがないんです」
 「えーっ」
 荷台の前にみんなが集まった。陸と海はすでに降ろしたのではないかと周囲を見回している。
 「俺が降ろしてきた」
 背後から落ち着き払った口調で進藤が言った。ひとつ間を置いて続ける。
 「今回の合宿でボールは使わない。とことん走り込もうと思ってな」
 そう言うと進藤は目を細めながら富士山に向かって顎を傾けた。
 「ほら、富士山もそうおっしゃっている」
 進藤につられるように全員が富士山を見た。

 「それも悪くないかもね」
 透は言った。発した言葉が富士山に吸い寄せられるように消えた。不安は感じなかった。雄大な富士山の懐に抱かれながら、日が昇るとともに走り出し、日が暮れるまで走る。それもまた、こうしてわざわざ合宿にくるひとつの意味のような気がした。

 「それじゃあ、各自準備して用意ができたら早速走ろうか」
 その日は、こぐたびにキイキイ鳴る、宿から借りた自転車にまたがる進藤をしんがりに、日が落ちるまで眩しい緑に受験勉強で疲れ切った目の奥を癒されながら走り続けた。

 翌朝は5時半に起床した。地上の生きとし生けるすべてのものの目覚めを感じながらまずは軽めのランニング。その後、朝食を摂り、午前中を切り返しや反転の動きを混ぜたダッシュ中心のメニューをこなす。太陽が南中になる少し前に宿に戻り、風通しのよい食堂で昼食を摂る。それから1時間半ほど昼寝をして、気温が下がり始めたところでまた走り始める。日が傾き、富士山が黒っぽい輪郭を伴って茜色にその身を染める頃、中距離のインターバル走で1日の練習を締めくくる。日没とともに宿に戻り、夕食の前に入浴。1時間ほど時間をかけて夕食を摂った後は片付けや掃除をして、その後は全員で机に向かう。消灯は23時。これが1日の大まかな流れだった。

 放課後の練習でも毎日のように顔を合わせ、お互いのことは知っていたつもりでも、こうして寝食を共にし、文字どおり24時間を一緒に過ごしていると新たな発見がある。透はチームメートのそうした一面を、楽しみながら積極的に探すようになった。

 なかでも一番の発見は、はじめての合宿参加となる准に、寝ている間にパンツを脱いでしまうという癖があることだった。部屋に荷物を運び込み、なんとなく寝床の場所取りが始まったとき、准は一目散に窓側の隅に陣取った。そのときは気にも留めていなかったが、准にはできるだけ目立たないところを、という思いがあったに違いない。

 准の癖は2日目の朝に発覚した。部屋で一番に目覚めた裕也が、下半身丸出しで寝ている准を発見したのだ。なぜだか布団は横になって胴体だけを覆っており、さらに両腕が頭の上で三角形をつくっていた。「まるでおでんだった。上からはんぺん、こんにゃく、最後に卵。まあ卵はうずらだったけどね」。それが裕也の評だった。あまりに面白すぎたために写真を撮り忘れたのを裕也は後々まで後悔していたが、准は「そんなことしてたらマジ、おまえの携帯ぶっこわす」と真っ赤な顔をしていた。

 そして、翌朝から准は標的になった。大祐や海が一度実物を拝んでみたいと寝ている准の布団をいきなり引き剥がすという悪ノリをはじめたのだ。気配に飛び起きた准は必死になって抵抗していたが、たいていは脱げたパンツを拾って局部だけを隠した准が部屋を走り回って逃げるという感じだった。結局、このバトルは最終日の朝まで行われたが、透には、准が怒っているというよりこうした戯れを楽しんでいるように見えた。それが証拠に、最終日は局部をさらしたままの准が逆襲とばかりに大祐に襲い掛かり、それが飛び火して最後は全員が下半身丸出しの状態で、もみくちゃになった布団の上に立ち尽くすという状態になった。騒ぎを聞きつけて部屋に入ってきた進藤はそれを見るなり口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。ちなみに誰のイチモツが一番かについては、満場一致で一番きゃしゃな裕也に決まった。人間の体というのはよくわからない。

 合宿最後の夜、少しだけ早く夕食を摂って、1年前と同じように目抜き通りに出掛けた。その日は平日だったが、例年そうであるように、目抜き通りは部活やサークルの合宿などで訪れている多くの学生で賑わっていた。

 歩いているとすれ違いざまに肩が軽くぶつかった。振り向いて見ると相手は紫のタンクトップに白いショートパンツ姿の大学生らしい女性だった。

 透はデジャブに襲われた。まさかと思いながら、何事もなかったかのように女友達と談笑して歩くその後姿を見ていた透ははっとした。長いストレートの髪からのぞく横顔がゆかりに似ていたのだ。

 「なに見てんの、透ちゃん」
 ニヤついた海の顔も1年前と同じだった。
 「別に」
 透は見間違いに苦笑いしながら前を向いた。

 去年も食べたジェラート店までの途中、土産物屋に寄った。准は両手で提げるくらいの量を買い込み、司は去年買いそびれた漬物を発見して満面の笑みでレジに向かっていった。裕也はふたりの妹のためにキーホルダーを買っていた。

 「あれ、今年は色違いじゃないの?」
 透が尋ねると裕也は苦笑いをした。
 「去年、色違いを買ってったらケンカになっちゃって。だから今年は同じ色にしようと思って」
 優しい横顔だった。弟も妹もいない透は、これが兄の表情なのだと思った。

 ジェラートは去年と同じように全員がそれぞれ違う味のものを選んだ。去年は9人だったが、今年は10人なので1種類増えて10種類になる。みんなでひと口ずつ味見しあうので自分が買ったものでもひと口しか食べられなかったが、残念だとは思わなかった。

 この夜、花火は上がらなかった。花火大会は来週に開催される予定になっていた。代りにと言うわけではないだろうが、時折、湖の方から甲高い音とともにロケット花火のささやかな光が夜空にきらめいた。

第58節 キャプテン①へ

※※※
本投稿は、スポーツナビファンブログで連載している
● 高校サッカー小説「9人サッカー」 ●
の一部です
※諸事情によりスポーツナビファンブログで掲載できないため
ここでの掲載としています。
※最初から読まれる方は上のリンクよりご移動ください。


↓↓↓
第42節 ミス②

 次の練習メニューが始まった。

 トップの大祐が中央に寄せながらクサビのパスを受けて出し手にリターン。そのボールをサイドに展開してからのセンタリングをフィニッシュにつなげるというものだ。トップの大祐と右サイドの司は固定で、パスの出し手とリターンを受けるのは功治、透、准が順繰りに入れ替わる。フィニッシュには大祐にパスの出し手が加わる。それ以外の部員は守備に入る。

 准の番になった。進藤は遠くからその背中を見た。距離が離れていてもこれだけ大きく感じるのは、やはり貫禄というべきなのか。

 准は大祐からのリターンを寸分の狂いなくコントロールした。上体をぴんと伸ばし、マークについた隆が届かないところにボールを置いていなすと、裕也と海の間を縫うようにパスを放った。

 しかし、ボールは受け手となるはずの司には届かず、その3メートルほど前を横切っていった。そのままタッチラインを越え、草むらに消えていく。

 「なんだよ、それじゃ意味ないだろ」
 喰って掛かったのは大祐だった。
 「そうですよ。きちんと司さんにつながなきゃ意味ないですよ」
 間髪入れず功治が加勢した。

 准は無言だった。答える代わりに軽いランニングで功治と透がいるところまで戻った。功治が横顔をのぞき込むようにして反応を窺っている。

 大祐がダッシュで駆け寄っていった。准の前に立つ。あの対決以降、大祐が准に対して表立って敵を表すことはなかったが、依然として腹の底には据えかねるものがあるようだった。進藤は不穏な空気に導かれるように腰を上げて近づいていった。

 「ボール、拾ってこいよ」
 准はなにも答えなかった。
 「聞こえねのかよ。ボールを拾ってこいって言ってんだ。ミスした奴がボールを拾ってくるんだよ」
 大祐が鋭い声で言った。
 「俺のミスじゃねえよ」
 「はあ?」
 大祐が絡みつくような声を出した。
 「だから俺のミスじゃねえって言ってんだよ」
 准は落ち着いた声で答えた。
 「なに言ってんだ、おまえ。どう見たっておまえのミスだろ。それともなにか。選手権に出るようなチームではミスしたボールも後輩が拾ってきてくれるから行く必要もないってか。悪いけどウチはそんなんじゃねえんだよ」
 言い終わらないうちにたまらずといった感じで大祐が准の胸倉をつかんだ。
 「タイム、タイム。大祐、やりすぎだ」
 進藤は割って入り手をほどいた。准が首周りの乱れを直す。

 「准、ミスじゃないっていうのはどういう意味だ」
 まずは状況を整理しなければならない。
 「そのままです。あのパスに届かなかった人間のミスです」
 「てめえのミスだろうが」
 間髪いれず大祐が怒鳴り声を上げた。
 「そっか」
 裕也が場にそぐわない声を出した。
 「確かにもしあのボールに司が追いついていたら完全に崩されていた。僕と海のちょうど中間。しかも僕からは隆がブラインドになってボールの出どころが見えなかった」
 「んなこと言ったってボールが通らなきゃ意味ないだろ」
 「大祐、落ち着いてよ」
 なおも飛びかかりそうな大祐の前に透が体を入れた。

 前方から土を蹴るリズミカルな音が聞こえてきた。司だ。脇にボールを抱えている。
 「どうしたんだよ。早く練習の続きしようぜ」
 司は笑っていた。草むらに転がっていったボールを拾いに行っていた司は、状況がまったくわかっていないようだ。
 「なに言ってんだよ、司。おまえのことだぞ」
 大祐が準に向けている口ぶりのまま言った。
 「いやー、悪い悪い。俺のミスだ。動き出しが遅かった。あのタイミングじゃなきゃ通らないもんな。最高のパスだったよ、准」
 司はあっさりと自分のミスを認めた。

 サッカーの難しさがここにある、と進藤は思った。

 ここにボールが出てくればいい。それは試合を観ているときもよく感じることだ。しかし、それが試合で実際に実現することはそれほど多くない。

 その理由は、パスの出し手の技術や視野の広さの問題であったりということもあるが、一番はサッカーでは攻守がまさに文字どおりの意味で表裏一体であるからに他ならない。そのことが特にパスを受ける選手の一歩を往々にして躊躇させる。ここにパスが出てくれば理想というスペースがあり、もしかしたらそこにパスが出てくるかもしれないと思う。しかし、もし出てこなかったとしたら、その前にボールを奪われてしまったら、自分が空けたスペースが相手に使われてしまうかもしれないという思いもまた一方であるのだ。
 その一瞬の迷いが理想のイメージの具現化を往々にして阻む。そして、それが続いていくことでパスの出し手も最初からそのイメージを捨て去り、安全な手堅いプレーを無意識に選択してしまうようになる。右サイドをひとりで見なければならない司にはそうした思いが特に強くあるのかもしれない。しかし逆にいえば、あのようなパスが通りさえすれば、高城との試合は違ったものになるはずだ。

 「それで大祐は一体なにをそんなに怒ってんの」
 相変わらず状況を飲み込めていない司の言葉に笑い声が重なった。抱え込むようにお腹を押さえている裕也の横で、隆は背を向けて肩を震わせている。陸と海は鏡写しのように手で口元を押さえていた。
 「さあ、練習続けようぜ」
 振り返った隆が変なイントネーションで言った。
 「そうそう、な、大祐」
 裕也が大祐の肩に手を置いた。
 「なんだよ、なにがどうなってんだよ」
 司がうろたえ始めた。
 「なあ、大祐、なんで怒ってんだよ」
 「うっせーな」
 大祐はばつの悪さを隠すように言い放った。背を向けて駆け出していく。
 「そういうことみたいだから、准、あんまり気にするな」
 あっけにとれられたような表情をしている准に進藤は言った。
 「あ、はい」
 拍子抜けしたような返事だったが、准は笑っていた。

第43節 責任①へ