ところ変わって。




ミズキが、学校に来なかった。


これは異常事態。


なぜなら彼女は、3年連続皆勤賞を狙っていたのだから。


達成まであと半年だったのに。




「これは……最悪の事態が起こった、ってことでいいのかな」


アンパンをほおばりながら、こう言ったのはイチハ。


彼女は身長172cm。元バスケ部。


今朝は登校中に「巨人!」「ガタイMAX!!」と叫んできた小学生に、社会の厳しさを教えるためにローキックをかましてあげました。


生徒指導の田村に現場を目撃されて、怒られました。


でも、それよりも大変なことが起きてしまいました。




「どう考えても……ね。うん~。フラれたんだね~」


レモン牛乳を飲みながら、こう応えたのはララ。


身長147cm。元バスケ部マネ。瞳がくりんくりんしててまん丸で、ちっちゃくて可愛い。


ゆるくウェーブのかかった髪を毎日ポニーテールで束ねている。




**高校3年A組の昼休み。


いつもは、いつもの3人で、机をくっつけて、いろんな楽しい話やくだらない話をしている。


でも今日は、そのうちの一人、ミズキの姿はそこにはなかった。


ミズキが学校を休むようになって5日目。




「私……もうだめかも」


ミズキがそうぼやいたのも5日前。彼氏とケンカしたらしい。


2年も付き合っていたそうだ。




「あの子大丈夫かな」


「大丈夫じゃぁないと思うな~」




「やっぱ3人いないとだめ。寂しい。」


「だね~。どうしたらいいかなぁ」




「メールしてみない?」


「ちょっと。。。気まずくない~?」


「今のままじゃ何も変わらないよ。メールで伝えるの。


学校に来て また一緒にバカしよう って」


「……そだね。いい考えかもぉ~!」


そういうわけで、二人のメッセージをまとめて、イチハがメールで送ることになった。




『ミズキがいつ戻ってきてもノート貸してあげられるように、私めっちゃ苦手な数Bの授業、寝ないで聞いてるんよ~。はやく戻っておいでぇ。』


「こんな感じでいいかなぁ」


正直ちょっと短い気もするけど、私の作文能力ではこれが限界、とララは思った。


文学っ子のミズキなら、もっと上手な、素敵な文章が書けただろうに。


そんな彼女に、こんな拙い励ましの言葉を送ることになるとは。


ララは、続きを書いてもらうために携帯をイチハに渡した。




そういえばミズキ、最近は絵本にもハマってたな~。


木漏れ日の差す、素敵な森の中の風景を描いた1ページを、ものすごく目をキラキラさせて、私に紹介してきた。


あの本、そういえば題名がなんか……何だったっけ……あ、イチハ書けたみたい。




イチハも同じくらいの長さの言葉しか浮かばなかったようだ。


『Please, light our darkness. Please, save us from our trial.』


「えぇ~?!これミズキに送るのぉ~?!


いくらあなた、英語得意だからっていっても……ミズキの英語の成績知らないわけじゃないでしょぉ!」


ララが心配するのも当然だった。ミズキの英語の成績は1だった。(もちろん、10段階評価で)


「伝わらないくらいがいいと思ってさ。でも、気持ちは必ず伝わると思うんだ」


きっと、ね……




「よしっ、完成っ。書き足したいこと、もうない?」


「ない……、あっある!あるある~!」


「実は私もあるから、じゃあ二人で1文ずつ書き足そうね」




あれ…?


「……驚いた、これなんて以心伝心?」


「ふたりして同じこと書き足そうとしてたとはね~。。私も驚いたよ~」




「じゃ、送信します」


「おっけぃ~~」





神様


どうか 


このメッセージが 


この気持ちが 


あの子に伝わりますように





・・・・・・


 番外編おわり

少女は ひとりぼっちで 旅を続けていました


いろんな場所へ行き いろんな人に会い


彼の写真を いろんな人に見せて 聞きました


「このひとを しりませんか?」


返ってくる答えは きまって


「知らないなぁ」 「ごめんね、知らないわ」




あのキツネと牡鹿と 別れてから


少女は 決して 歩くのをやめませんでした


はやく 彼をみつけたい もう ひとりはいや


少女の姿は ボロボロでした




いくつもの 眠れない 夜を越え


いくつもの 先の見えない 朝を迎え




少女は いつしか どこか知らない 荒野を歩いていました


夜になりました


とても 星が 綺麗でした




あの群青色の空が 心の闇なら あの星達は ・・・ 希望


今にも消えそうな 繊細な


それでも この闇を照らそうと 精一杯に 輝こうとしている




少女は 小さな駅に 着きました


白髪のおじいさんが ひとり 駅の階段で 煙草をふかしていました


少女に気づくと それまで空に向けていた目線を ゆっくりと少女に向けました


「おじいさん、お尋ねしたいことがあるのですが……」


そこまで言うと 言葉が詰まって 喋れなくなりました


きっとここにも 手がかりは …… ないのだろう


言葉が出ない代わりに 涙が出ました


自分では気づかなかったけれど 地面にひざをついていました




少女は 夜空を見上げて 泣いていました


おじいさんも 一度少女に向けた目線を 再びその美しい夜空に向けて


煙草をふかし続けました


とても 静かな 時が流れました




・・・・・・


 ――――― あなたの大切な人が どうか見つかりますように 


 それまで あなたが 無事でいられますように―――――


少女は ハッと我に返りました


手に巻かれた 包帯を 見ました


そうだね こんなに簡単に へこんでちゃだめだね


包帯を巻いた手を 両手でぎゅっと抱きしめて




何分経ったのか 何時間経ったのか


おじいさんが 言いました


「貴方の探しているものが この先にあるよ この列車に乗りなさい」



「おじいさん……ありがとう……」


少女は 列車に乗り


最後の 旅に


最後の 答えを探しに




……


 つづく・・・・・

むかし あるところに ひとりの少女と ひとりの青年が いました


ふたりは 森の中の 木でできたおうちに ふたりで暮らしていました


木漏れ日が差す きれいな きれいな 場所でした


ふたりは 幸せでした



ある日 青年は出かけたまま 帰ってこなくなりました


少女は 彼が帰ってくるのを 待ちました



何かあったのではないか と思うと 心配で 涙が溢れてきました


その涙を拭いてくれる人は いませんでした



何日も 何日も 待ちました 


晴れの日は 彼がいつ帰ってきても 気づくように 家の外で お花の冠を 作りながら


雨の日は 彼が濡れてしまわないように 傘を差しながら


雪の日は 彼が寒がらないように ふたり分の ココアを入れて 何度も温めなおして


待ち続けました


それでも彼は 帰ってきませんでした



少女は 決心しました


彼を探しに 旅に出よう


ちいさなポシェットに ハンカチと 少しのお金と 彼の写真を入れて



森から出るのは 大変でした


暗い道を歩いて 木の枝が服に引っかかり 跳ねた泥が服にかかり


足元の蔓に つまづいて 手のひらが 擦り傷だらけになりました


少女は 泣き出しました



すると キツネの子が 少女に近づいてきました


口に なにか草を くわえていました


「おじょうさん この草を つぶして 手に塗って」


少女は 言われたとおりにしました


草をすりつぶして 手に塗って ポシェットから ハンカチを取り出して その手に巻きつけました



大きな雄鹿が のそりと 姿をあらわして 言いました


「わたしの背中に 乗りなさい 森の外まで 乗せて行ってあげる」



少女は キツネの子と一緒に 鹿の背中に乗って 森の外を目指しました


なんだか うれしくなって 少しだけ 少女は 幸せになりました


少女が笑うと キツネの子も笑いました 鹿は歌を歌い始めました


その歌は 少女が知らない言葉で 歌われていました



・・・・・・


明るい光がまぶしい と思うと そこは森の外でした


「キツネさん 鹿さん どうもありがとう」


少女は ふたりに お礼を言いました


「わたしと一緒に 旅をしてくれませんか」


とお願いしましたが ふたりは 「それはできない ごめんね」 と言いました


少女は また一人になるのかと思うと 寂しかったのですが ふたりに感謝して 別れを告げました


ふたりは言いました


「あなたの大切な人が どうか見つかりますように それまで あなたが 無事でいられますように」


「ありがとう あなたたちのこと わたしずっと忘れない」



この手に巻かれたハンカチをみたら いつでもあなたたちが 励ましてくれているような気がする




ふたりと別れてしばらく歩いていると うしろのほうで 耳を切り裂くような 鋭い音が 聞こえました


なぜか 少女の目から 涙が溢れました


どうしてだろう なんで涙が でてくるの ?


今 なにが起きたのか わかるような わからないような 不思議な気持ち


ただ ひとつだけ


はっきりと 私の心が教えてくれた


「あのふたりは もういないんだ」



・・・・・・


少女は 気づいていませんでした


キツネや鹿が 人間の狩猟の 対象であることを


少女は 知りませんでした


人間の 心の闇を



・・・・・・


 つづく・・・