でも 信じるって ・・・ だれを ?


  この世界で 信じられる人 それは 彼だけだった


  そして私は その唯一信じることのできた彼を 失くした


  私に 信じられる人は もういない





――― あなたのことを守ってくれる者達を 信じなさい ―――



  私のことを 守ってくれる者達 ・・・?



「・・・・・・あ」



忘れていた この世界で 信じられる者達


今ようやく 思い出した



  ひとりになった 私を


  進むべき道を失くした 私を


  いつも 最後まで ずっと 見守ってくれた


  どんなときでも 手を差し伸べてくれた



そう、



「イチハ、ララ・・・」




その時だった


少女が 自分の名前を 思い出したのは。


少女の名は ― ミズキ ―




  もういちど 信じてもいいですか ?


  こんな私を あなたたちを忘れていた私を


  もういちど 助けてくれますか ?




「ばかじゃないの?いつでも助けるし、いつでもそばにいるよ」


「うわっ、私が言いたかったこと全部、イチハにいわれた~・・・」


突然の声 誰もいなくなったはずの世界なのに・・・?


振り返ると そこにいたのは あの牡鹿とキツネ



ミズキは言った


「そうか、あなたたちだったんだね・・・」



2匹は暗闇の世界とは対照的に 光をまとい 輝いていた


そして 見る見るうちに 2人の少女に形を変えていった



牡鹿は 背の高い イチハに。


キツネは ポニーテールの ララに。



二人は 微笑み そして ミズキに向かって 手を差し伸べる


ミズキが その手を取り 3人は輪になった 


寒さに凍えていたのが嘘のように あたたかさで満たされた



『Please, light our darkness. Please, save us from our trial.』



不思議な呪文を イチハが唱えると


3人の手元で 何かがキラキラと 輝き始めた



戸惑うミズキに ララは ニコリと笑いかけ


ララは 空を指差した 「えいっ」


すると 手のひらから溢れた輝きが すっと空へ昇り

漆黒の空に ひとつの星が 現れた



この世界から 消えてしまったと思われていた 希望の星




イチハも同じように 空を指差し 「ほらっ」



少し群青色を取り戻した空に ふたつめの 星




イチハとララは ミズキのほうを向いた


表情でわかる ふたりは こう言っている


(ほら、あなたも・・・)




ミズキは 空を 指差すことが できなかった



  私に 希望の星が 作れるのだろうか ・・・?


  だって私は 希望をすべて 失った ・・・



「何言ってんの、大丈夫よ」と、イチハは、ミズキの右手を握った。


「心配症だねぇ~~」と、ララも、ミズキの左手を握る。



そーれっ


二人は同時に、ミズキの両手を 空に向かって 大きく振り上げた






つづく・・・・・

6月24日


13時ちょうど




カーテンが引かれた 暗い室内に 


少女がひとり 眠っていた


大事な人をなくした彼女は、5日間、部屋から一歩も外に出ていない



毎日のように、親友から届く 心配のメール


でも 欠けてしまった心を埋めることはできなくて 


1通も返事を出していない。返事を書く気力もない。


物が喉を通らなくて。苦しくて動けなくて。



何がいけなかったんだろう。


思い当たることは、考えれば考えるほど、限りなく出てきて、


あのとき こう答えればよかったのに


あのとき こうしたらよかったのに



   そうすれば 私は今でも 幸せに 笑っていたのだろうか


   あの人は 私のことを 大事に想っていてくれたのだろうか



しかし、それらすべてが、取り返しのつかないものだと、心のどこかでわかりながら、


それでも、後悔は、止まらなくて、



やり場のない不安と寂しさだけが、暗い暗幕のように、心を覆っていった




「明日、目が覚めなければいいのに……」


そう思って眠りについたミズキは


かれこれ20時間も眠り続けていた


彼女の心が 彼女を守るために 現実に返さないのだ



   彼女は今も 夢の中を 彷徨い続ける



・・・・・・



同時刻のこと



二人の女子高生の想いを乗せた一通のメールが 小さな携帯から 飛び出して 



受け取り主の携帯に向かって 飛んで行った





イチハとララが 教室から見た空は



「雲ひとつないわ。今日は、晴天だね」



「うん~」





  真っ青な 雲ひとつない青空に



  一筋の 飛行機雲



  向かう先は …… ――――――



 ・・・・・・



ミズキの携帯が メールの着信を知らせた


イチハとララとお揃いのメロディ



 ・・・・・・




同時刻


最後にたどりついた場所で 力なく座り込んでいる少女がいた


彼女の頭上に広がる空は 真っ暗な 黒


―― 希望が 全て無くなったとき そこには 絶望しか 残らないんだ ――


真っ暗闇の空を見上げた少女は こう呟いたまま


膝を抱えて 頭を垂れていた



・・・・・・




「・・・・・・え」


聞き覚えのあるメロディが 聞こえたような気がした


見上げた空 相変わらず真っ暗で星ひとつなかったけど


ただひとつ さっきと違うところがあった



  漆黒の空 でもかすかにそれは浮かんでいた



   一筋の 飛行機雲



「あ・・・・・・」


何か大事なことを 忘れている気がする


何だろう 何だろう わからない・・・・・・


「なんでわからないの・・・・・・っ」


少女は不安で立ち上がった


空気が凍えるように寒い 身体が冷たい



―――怖い


このままじゃいけない どうすれば どうすれば ・・・・・・?




列車で出会った不思議な人の 言葉を思い出す


――― あなたのことを守ってくれる者達を 信じなさい ―――






つづく

少女が乗った列車は ゆっくり のんびりと 走り続けていました。


ふっと窓から空を見てみると 暗い空に 星達が 輝いていました




「星が綺麗ですね」


男にしては透き通った 女にしては低すぎる 声が しました


少女が驚いて 車内に目を向けると 一人の男性……いや、女性?


男とも女とも思える 綺麗な髪の 綺麗な唇の それでいて鋭い視線を持った 人が 立っていました




「びっくりしました……ほかに人が乗っているなんて」


少女は どきどきする気持ちを隠せないまま こう 応えました


その人が 一瞬 ふ と笑った気がしました


しかし 驚いている少女の気持ちを 察しているのか いないのか


すぐにまた こう続けました


「希望の星達は ほんとうに 綺麗ですね」




少女は なんだか 人が居てくれたことに 安心して その人と お話しました


「きれいですね…… きっと いろんな人たちの 希望が 輝いているんでしょうね」


「いろんな人たちの じゃないですよ


 あの星達は 全部 あなたの希望の星ですよ」


「えっ……?」


少女は もう一度 空を見ました




私の 希望なの ?


少女は 少し 不安になりました


なぜなら…… さっきから 少しずつ 星の数が 減っている気が していたからです




「あの 私の希望の星 って 一体……」


少女はそう言いかけて はっ としました


その不思議なひとは もう 姿を消していました




・・・・・・


少女は いつの間にか 眠っていました


少ししか 眠りませんでしたが とても とても 恐ろしい 夢を見ました


猟銃を持った自分が 自分を助けてくれた あの鹿とキツネを


・・・・・・




「殺してしまった……」


目が覚めると たくさん 涙が溢れてきました


嫌な汗が たくさん 流れました




空を見ました


星の数は 見るからに 減っていました




こわい…… 私 どうなるの……


「もうすぐ 終点ですね」


不思議な人が 立っていました


少女は 不安で たまらなくて 聞きました


「一体 この列車は どこに 着くんですか?


 終点で 降りた先にある答え って 何なんですか?」



その人は 笑顔とも 泣き顔とも はっきりしない表情で 答えました


「そうだね…… この列車に乗った人は 以前にも何人かいたけどね


 皆 たどり着く先は きまって――――」


―――― きまって 星ひとつ無い 真っ暗な 闇の世界だ ――――



そのとき 列車は ちょうどトンネルに 差し掛かったところだったので 肝心な部分が 少女の耳に入る前に


轟音に その答えは かき消されてしまいました




その人の 口の動きだけが 見えました


本当に 綺麗な 唇でした


薄くて みずみずしくて よく見ると ベージュの口紅を 塗っているようでした




少女は たぶん この人から 答えはもらえないだろう とわかったので その後は 何も聞きませんでした


その人も もう何も 話しませんでした


列車が 終点に 着いたようです




少女は その人に


「ありがとうございました 少しの間でも あなたとお話できて 私とても…… 嬉しかった」


と お礼を言いました




その人は やはり 笑顔とも 泣き顔とも はっきりしない表情で 少女に言いました


「あなたのことを あなたの大切な者達が 守ってくれているようですね」


「大事な お友達が いたんです


 でも…… でも もしかしたら わたし わたし 二人を……」


「それ以上 言わなくていいですよ 大丈夫」


「えっ……」




「大丈夫 その二人を 信じる気持ちを 持ちなさい 


 きっと あなたを 助けてくれるから」


「……はい……」




駅を出てからは 一本道を ただ歩くしかありませんでした


その道は 薄暗く 少女は とても 心細くなりました


それでも 少女は 手に巻いたハンカチを ぎゅっと握り締めて 歩き続けました




数分経って 少女は 気づきました


道が なくなっていました


そこは 下に大きな海の広がる 断崖の上でした




「わたしの 探している 答えは どこ ……?」


少女が 問いかけても その声は ゆるやかに 大気に 溶け込むだけでした




闇色に染まった空は 真っ暗で 希望なんて 本当に ひとかけらも ないね




もう 涙は 流れませんでした 


少女の心の中に 希望は ありませんでした


この暗い空と 同じでした




少女は ひとつの 答えを 出しました


「希望が 全て無くなったとき……


 そこには 絶望しか 残らないんだ」




少女は 座り込んで うなだれたまま 動けませんでした


少女には もう 


歩く力も 


考える力も 


残っていませんでした




・・・・・・


 つづく・・・