先日の父の日に送ったものが届いたと

母親から電話があり、近況を聞くと

一緒に大正琴を習っていたお友達が

認知症になったらしく施設に入ることになり

もう以前のようには会えなくなったことを

寂しそうに言っていた。

 

そんな母世代の老婆たちが主人公の小説を読んだ

 

アイと富士子は、二十年来の友人・益恵を

 “最後の旅” に連れ出すことにした。

それは、益恵がかつて暮らした土地を巡る旅。

大津、松山、五島列島……

満州からの引揚者だった益恵は、いかにして敗戦の苛酷を生き延び、

今日の平穏を得たのか。彼女が隠しつづけてきた秘密とは? 

旅の果て、益恵がこれまで見せたことのない感情を露わにした時

老女たちの運命は急転する――

 

「羊は安らかに草を食み」

バッハの優しいメロディが流れてくるような

タイトルに、静かで穏やかなものを感じたのだが

内容は、そらあなた!もうね、なんていうか

きっついわぁぁぁぁーー

と叫びたくなりました。

 

認知症を患った友達(益恵)のために益恵の夫に

頼まれて昔住んでいた場所を一緒に旅行するんですよ。

夫は足を歩くして一緒に行けないからってことで

三人の老婆の旅が始まるわけですが

80代が2人に70代後半が1人

1人は認知症で後の2人も腰が痛かったり

足も痛かったりとにかく健康への不安

さらに二人の置かれている立場や状況も

わかってきて

年を重ねると軽やかに

なれる部分と抱え込んでしまう部分

自由だったり不自由になったりと難しい

 

その中でそれまで知らなかった益恵の人生を

垣間見ていくわけですが、それがもうね

ものすごく大きなものを抱えているわけです。

 

終戦後、満州から日本に帰国する時に

父母、兄妹すべてを亡くしてしまった益恵

地獄絵図のようなあの時代を生き抜いたとき

まだ11歳の少女だったんですよ。

その描写がエグすぎて何度も吐きそうになりました(泣)

ちょっとトラウマになりそうなほど

いたたまれなく壮絶で残酷な体験

 

益恵の住んでいた土地として滋賀県の大津にも

寄るんですが、三井寺とかなぎさ公園とか

石山寺とか瀬田とか見知った土地が出てくると

妙に親近感がわいてきました。

 

大津にも松山にも俳句で知り合ったという

益恵の友達がいて連絡すると喜んで会って

くれるわけです。

そこで知らされる益恵の過去

 

敗戦の混乱時の中国の恐ろしさよ

昔、中国の残留孤児の小説(題名忘れた)を

読んだ時にもかなりエグい描写があって

人って狂気に取り憑かれるとこんなことまで

できるんだ、というか精神が壊れるまで

やるんだ、という恐ろしさで震えたのだけれど

生きることと死ぬことが

紙一重の隣合わせの日々

ただ、ただ、戦争の恐ろしさと

平和のありがたさを感じている

 

そしてそれと同様に希望と言うか

生き抜く強さも感じるお話であった。

そう、過去は今に繋がってるんだよねぇ

 

最終章はちょっと物足りない気もしたけど

フィクションなのに生々しくて

圧倒される文章にぐいぐい引き込まれた

 

主人公は80代の高齢女性たちですが

私の世代にもしっかりと響くものがあり

これだけ壮絶で悲しみに満ちた話なのに

読後感は悪くない

と言うより爽快感まであるという不思議な本でした。

 

 

あじさい あじさい 

 

コロナ禍でほとんど外出しなくなった母ですが

病院へ行くついでに友達と会ってお茶しながら

喋るのが唯一の楽しみらしい。

いくつになっても女同士で喋るのは楽しいものなのね。

母も、友達も、みんな元気で。