2月に入った途端、なんでこんなに忙しいのさ!?と思わず言っちゃうくらいに
何故かあたしを含め、周りも忙しくて。
調査依頼が入ったり、ナルの論文で振り回されたりと
バタバタと過ごしている内に、ふとカレンダーを見ると、、、
「麻衣ちゃん、ピーンチ・・・」
今日は2月14日。
そう。乙女の一大イベント、バレンタインデー!
や、やややややややヤバイ!?
すっかり忘れていたけど、今日はバレンタインだよ。
当然、チョコなんて買っちゃいないさ。
ナルがチョコを欲しがるとかあり得ないけどね!?
あり得ないけど、奥さんとしては例えチロルチョコだったとしても渡すのが
最低限のマナーというか・・・、一応あげないと後が怖いしね!?
どうしよう。ナル必殺の一言。「麻衣、お茶」が来る前に買いに行っちゃう?
紅茶の脇にチョコを添えれば、自然に渡せるだろうし?
・・・・・・・・・・・。
「よしっ! 買いに行っちゃおう!!」
即決したあたしは、ホワイトボードの自分の名前の欄に「go out」の一言を書いて、
初めて1人でイギリスの街へと繰り出した。
-
そして、打ちひしがれて帰ってきた愛おしい奥さんにトドメを刺す旦那様。
「馬鹿」
「うぅぅぅぅぅ」
「一軒目で普通気づくだろう? 麻衣の目は飾りなのか?」
「あ、あたしだって、やけに店の軒先にバラが売られてるなー、とか思ったさ!」
そう言い訳をしてみたけど・・・、ナルの冷ややかな視線はそのまま。
だってさ、知らなかったんだもん!
「イギリスのバレンタインって、日本と違うなんて初耳だよ!」
「チョコを送る習慣があるのは日本だけだ。
日本の製菓業界が販売促進の為に作りだしたのを知らなかったのか?」
・・・・・・・・・・知りませんでした。
答えないあたしを見て悟ったナルは、大きな溜め息を1つ。
「先に教えておくが、ホワイトデーも日本が作りだした習慣だ。
イギリスにはそんな習慣はない」
「ないのっ!?? お返ししないの!??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・麻衣。もう一つ確認しておくが」
あたしが渡した薔薇の花を呆れた様子で見ているのに、
何で美人は何をしても絵になるんだろう。。。
つーかナルに薔薇とか似合いすぎて笑っちゃいそうだし!
ぷっと吹き出しそうになった瞬間、
ナルがバラの花束を返却するようにあたしの前に突きだしてきた。
「世界的にバレンタインデーは、男性が女性にプレゼントをする日なのを知っているか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
チョコが売ってなかったから、もぉ薔薇の花束でいいや!
ナルにプレゼントー!ってしたのも、もしかして間違ってた・・・?
動きが止まったあたしに、ナルがニッコリと営業用の微笑みを浮かべる。
あ。からかう気満々だ、このやろう・・・。
「これは僕から愛する奥さんにプレゼントしますね?」
「プレゼントしたものをプレゼントするな!」
「メッセージカードは新しく書いておいたので、気にしないでくださいね」
「気にするわい!」
「ラボに薔薇の花束は邪魔だから、さっさと持ち帰れ」
「本音はそっちでしょ!!」
酷いやつだ!! もぉ二度とプレゼントなんてしてやるもんか!!
差し出されたバラの花束をふんだくって、ナルの部屋から出ようとした瞬間、
背中にかけられた言葉。
「麻衣。お茶」
「~っ、へいへい! 分かりましたよ!」
淹れればいいんでしょ、淹れれば!!
この際、紅茶に薔薇の花びらでも浮かべてやらぁ!!
-
「 なーんだ。あの子にしては珍しい事してるわねー、と思ったのに」
あたしのデスクの上に置いてある薔薇の花束を見て、
まどかさんは、女子高校生みたいに「これナルが? ナルよね??」って喜んでいたのに。
事情を話したら、苦笑しながら差し出した紅茶を飲み始めた。
ちなみにまどかさんのデスクの上にも、立派な薔薇の花束があるよね??
相手は誰だろう・・・、ってすごく気になるんだけど!
リンさんかな? それとも出資者の人?? 実はお付き合いしていた人がいた!?
興味津々に薔薇の花束に視線を送っていると、
まどかさんは逆に、あたしが貰った・・・というか、返却された薔薇の花束を見ていて。
だけど何かに気づいたように、「あっ」と声を洩らした。ふに?
「麻衣ちゃん! ほら、ここにメッセージカードが挟まってるわよ!」
「あー・・・そういえば、メッセージカードだけは新しく書いたとか言ってた気が」
何て書いてあるんだろう。
事務的に、「I vove you」?
・・・・・・・・・・あり得て、麻衣ちゃん、今から泣きそうだよ。
恐る恐るメッセージカードを開けて、中を見てみると・・・
予感は的中。
うん。麻衣ちゃん、泣いちゃってもいいかな・・・?
でも差出人の欄に書いてあるのは・・・
「なーんで、『Secret Admirerer 』なの?」
「さぁ」
「さぁ、じゃなくて! 花束をつき返したのも、メッセージカードを書いたのもナルじゃん!」
なんで『ひそかにあなたを想っている者より』なんて書いたの?
よく分からない本がたくさん置いてある机をバンッと叩くと、
ようやくナルが顔を上げて、本からあたしに視線を移した。
ただその顔は真剣で。
や。いつも真剣だけどさ? でも、邪魔をするな、みたいな目で見るじゃん?
そうじゃないから、あたしも意表を突かれたっていうか・・・なんで??
「それを麻衣に贈ったのは、僕か、ジーンか・・・。どっちだと思う?」
「ほえ?」
「麻衣はどっちだと嬉しいんだ?」
どっちって・・・。
あたしが好きなのは・・・。
好きなのは・・・?
イギリスに来る前までは、ジーンだって迷わずに言えたのに。
でもジーンは、何か事件が起きないと逢えない・・・。
逢えても夢の中でだけ。
だから逢えた時は、一瞬だとしても、ものすごく嬉しくて。
好きだよ。今でも好きだよ。
だけど、その一瞬以外にずっと隣に居てくれたのはナルで・・・。
分かりにくい優しさに、何度も救われた。
天涯孤独のあたしの家族になってくれた。
素敵な義父母を作ってくれた。
・・・だから好き? 違う。
そんなのナルに失礼だ。
「・・・・・・・・・・・・・・わかんない」
「馬鹿」
だけど麻衣らしいな。
そう言ったナルの顔が、一瞬だけど柔らかな微笑みを作った。
瞬きをすると、またいつもの無表情に戻っていたけど、、、見間違えじゃないよね?
あぁ。やっぱり双子だよね。
「あたし、いつかきっと・・・、ナルがジーンみたいに微笑んでくれるんだと思ってた」
「それは湖畔で聞いた」
「笑顔が綺麗で、、、好きだったの」
「綺麗というか、いつも間抜け面でへらへらと笑っていたけどな」
・・・・・・・や。君たち、双子でしょ?
同じ顔のことを間抜けな面とか言わないでよ。
「でもあたし、ナルが笑った顔も好きだよ」
ジーンみたいな微笑み方じゃなくても。
太陽のようなジーンとは対照的に、
月みたいなナルの微笑み方は穏やかで、そして優しさが垣間見えるから。
それにさ・・・。さっき、ちょっとだけドキッとしちゃったし?
そう言うと、ナルは眉をしかめたけど、すぐに 微笑んだ。
「へぇ? それはそれは、ありがとうございます?」
「その営業用じゃなくて! 目元が笑ってないから怖いっつーの!」
「今日はもぉ帰るか。まどかから調査依頼を押し付けられたから、
明日からの準備もしなきゃいけないだろうし?」
「ぎゃーっ、初耳だよ! てかまた調査依頼!?」
今月に入って何件目!?
寒いし、機材の運搬は大変だし、寒いし、その割には結果が出ないし。
結果が出ないとナルは超絶不機嫌になるし、もぉ本当にヤダ・・・。
でもこれがお仕事だもんね。これでお給料を貰ってるんだもんね。
とほほ・・・と肩を縮めながら歩くと、首根っこをガシッと掴まれて
急に後ろに身体が傾いた。
そしてあっという間にナルの腕の中。っていうか後ろ抱っこ?
顔を上げると、ナルの端正な顔が近づいてくる。
「今回の調査依頼は、ずっと僕の傍にいてくださいね。デイヴィス夫人?」
「な、何故にでしょう。。。」
「誰かさんは単純ですから? 恐怖による心拍数の上昇を勘違いしそうですし?」
それって吊り橋効果なのでわ。。。
口を引きつらせながら、「つまりは・・・」と回答を求めると、
ナルの唇があたしの鼻の上を掠める。
「ジーン以上に僕のことを好きになるはずだ」
あくまでも計算上の話だけどな。
そう告げた唇が、今度はあたしの唇に重なった 。
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そして、「5.お前の心は俺にも分からない」に続きます(笑)
ゴーストハントの2巻が発売されましたよねw
そして3巻は来春発売予定(ノ´▽`)ノ 一年に1冊ペースww
続きが気になる人は、文庫を読みましょうw
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BOOKOFFとか行けば普通に100円とかで買えます(笑)