※以下の文章には残酷な表現が含まれます。気分を害する方もいるかもしれませんのでご注意ください。
あと、内容的に今までの記事とは全く関係ないです。若干の脚色含みます。
あるところにヴァンパイアの男がいた。
そのヴァンパイアはお約束どおり自分の城を持ち、近くの領民からは恐怖の対象となっていた。
ヴァンパイアは、自分の妻となる人間の女を探していた。
そのため、度々人間の女を襲って生き血をすすっていたが、どうしてもふさわしい人間が見つからなかった。
ある日、ヴァンパイアは領主の娘が絶世の美人だという噂を耳にする。
ヴァンパイアは早速、その娘を品定めしに領主の館へと忍び込む。
娘は、花壇で花の手入れをしていた。
ヴァンパイアは人間に変装して彼女に近づく。
人間のフリをしている時は、能力が制限されるが太陽の光を受けても大丈夫だからだ。
領主の娘は噂通りの美女だった。
しかし、ただの美女であれば何度も目にしてきたヴァンパイアは、
それだけでは妻としてふさわしいとは判断できなかった。
最高の妻となるべき女は、身も心も清らかでなければならない。そう考えていた。
彼は娘と話をする。
話をして、ヴァンパイアは領主の娘が目が見えないことを知る。
娘はヴァンパイアのことを、どこかの貴族の男性なのだろうと思い込む。
見ず知らずの自分に対して普通に接する彼女に対して、
ヴァンパイアは最初は品定めするためにいろいろな質問をなげかけた。
そのどれもに対して優しく真面目な回答をする彼女。
ヴァンパイアは次第に、彼女の心の清らかさに気づく。
この世の穢れの一切を知らぬ女性だと、彼は思った。
同時に、彼女のことをもっと長く観察したい、とヴァンパイアは思うようになった。
いつのまにか彼女に惹かれていた。
ヴァンパイアは領主、つまり彼女の父親を襲い、殺した。
そして、領主に変装した。
そうして、彼女と一緒に暮らすようになった。
近くで彼女を見続けるうちに、ヴァンパイアはどんどん彼女に惚れこんで行った。
自分の妻となるべきはこの女だと、確信するようになっていった。
あとはこの女をさらい、妻となるための儀式を行わさせる。それだけだ。
しかし、ヴァンパイアはそれを実行することができなかった。
父親として長く接したせいなのか、それとも惚れ込みすぎてしまったのか。
彼女のことを穢してはいけないと、思うようになっていた。
しかし同時に、彼女を支配したいという欲求も高まっていた。
ヴァンパイアは葛藤に苦しんだ。
自分の妻としてしまえば、彼女もヴァンパイアになってしまう。
それは、この世で最も清らかなものが失われてしまうこと。
それ以上に、彼女がこのままの彼女ではなくなってしまうということ。
それを自らの手で壊してしまうことが、ヴァンパイアはできなくなってしまっていた。
月日がたち、とある男がヴァンパイアの城の噂を聞きつけこの地へ訪れた。
彼はヴァンパイア退治を専門とするハンターだった。
彼は城を探索した。
しかし城は主を失い、廃墟と化していた。
彼はいなくなったヴァンパイアの消息をつかむため、領内で探索を続けた。
そして、何年も年老いた様子もなく中年男性の姿のままでいる領主の噂を耳にする。
領民は領主の善政に感謝しつつも、容姿がいつまでも変わらないことを不気味に思っていた。
ハンターである男は領主がヴァンパイアではないかと考え、接触を試みる。
すると意外なことに領主はハンターと話をすることをあっさり受け入れてきた。
緊張しながらも領主の城へ入っていく男。
男は、自ら自分がヴァンパイアハンターであり、この地に居座っていたヴァンパイアを探していることを告げた。
すると領主は、自分がそのヴァンパイアであると告白したのである。
これには男も驚いた。疑ってはいたもののこうもあっさりと白状するとは思いもしなかったからだ。
男は領主に、何故ヴァンパイアが自分の城をほったらかしにして領主のフリをしているのか問う。
ヴァンパイアは自らの過去を語り始めた。
妻となるべき女を探していたこと。
領主の娘に恋をしたこと。
娘を近くで観察したいと思い、父親を殺してなりすましたこと。
そしてそのまま領主のフリをして生活を続けたこと。
男は戸惑っていた。
なぜそんなことをしたのか。
なぜさっさと娘をさらって妻にしなかったのか。
なぜ領主のフリなんてヴァンパイアにとって何の意味もないことを続けたのか。
男は、その領主の娘は今どうしているのかを尋ねた。
ヴァンパイアはしばらく黙って、やがて答えた。
自らの手で、彼女を殺したと。
ヴァンパイアとしての本能が抑えきれず、ある日ついに手を出してしまった。
彼は、彼女を襲いながら後悔していた。
彼女は、ヴァンパイアが自分の父親になりすましていたことを知り、悲しみ、恐怖するだろうと思っていた。
父親を殺して入れ替わっていた自分のことを恨むだろう。そう思っていた。
しかし彼女は、何も驚かずにただ大人しくしていた。
彼女は、自分の父親が別人になっていることをすでに感じ取って知っていたのだ。
それを知った上で、同じ父親かのようにヴァンパイアに対して振舞っていたのだ。
目の見えない自分を、本物の父親と同じように面倒みてくれていたヴァンパイアも、父親に変わりはない。
彼女はそう言って、事切れた。
ヴァンパイアは激しく自分を責め立て、後悔した。
自分の一番大切なものを、いや、この世で一番貴重なものを壊してしまったことを。
彼はそれ以来、ヴァンパイアとしての自分を捨てた。
領主になりすまし、領主として振舞った。
人を襲うことも、自分の城に戻ることもしなくなった。
長年、生き血を吸うことをしなかったせいで、今はもうヴァンパイアとしての力は残っていない。
あるのはただ、不老不死なだけで、力のない普通の人間と変わらぬ領主の姿だった。
このまま血を吸わなければ、いずれ不老不死の力も衰え、老いることなく体が崩壊するだろうと彼は言った。
ハンターの男はこの地からヴァンパイアが姿を消した理由を知り、ただ頷くことしかできなかった。
だが1つだけ疑問があった。
ヴァンパイアが噛んだあとの娘はどうなったのか?
ヴァンパイアに噛まれて死んだ人間は、通常時間が経てばヴァンパイアとなって生き返るはずだ。
領内で聞いた噂では、娘は数年前に病死したという噂だけ聞いていた。
しかし噛まれたとなれば、どこかで生きているはず。
ハンターはヴァンパイアに問い詰めた。
ヴァンパイアは答えた。
自分の噛んだ人間がヴァンパイアになってしまうということは当然知っている。
しかし、一度ヴァンパイアとして蘇生した人間は、まだ不老不死の能力を持たず、
ヴァンパイアとしての儀式を行わなければすぐに体が滅んでしまって長くは生きられない。
事切れた彼女の体を抱きながら、ヴァンパイアは自らの存在を呪っていた。
このまま、彼女がヴァンパイアとして蘇生し、儀式を行って妻にしてしまえば、彼女は永遠のものとなる。
それは本来ヴァンパイアとしては当然の行為であり、喜ばしいことだ。
だが彼は、彼女がそうなってしまうことを許せなかった。そうなってしまえば、彼女は彼女ではなくなる。
ヴァンパイアは、彼女が蘇生できないように、彼女の頭と胴体を切り離した。
完全に蘇生してしまえばそんなことでは死なないが、
まだ人間の体のままであるうちに首を切り離してしまえば、蘇生することはなくなる。
彼女がヴァンパイアになってしまうのを防ぐにはそれしかなかった、と彼は言った。
ヴァンパイアは、ハンターの男に頼みがあると言った。
ハンターがそれは何かと聞くと、ヴァンパイアは領主の館の地下へハンターを連れて行った。
そこでハンターが見せられたのは、頭と胴体を切り離された、領主の娘の遺体だった。
ヴァンパイアは彼女の死後、特別な方法で調合した薬に彼女の体を漬け込み、
遺体をそのままの形で保存していたのだ。
ヴァンパイアとして蘇生しないかを監視するためと、彼女を側から離したくないという気持ちからだった。
彼女の遺体は綺麗なドレスに包まれ、首さえ離れていなければとても死んでいるようには見えなかった。
同時に、確かにこの世のものとは思えないほど、美しかった。
ヴァンパイアはハンターに頼んで、こういった。
自分は普通の方法では死ぬことができない。
このまま体が崩壊するまで待つことは簡単だが、いつまた本能に目覚めて人を襲うともわからない。
そうなる前に、ハンターの力で私を滅ぼして欲しい。
そして、彼女の遺体を汚く閉塞された地面の中などではなく、どこか遠くの海へ流して欲しい。
領民達には迷惑をかけるかもしれないが、ハンターであるあなたが現れて、今しかないと思った。
どうか私のことは、領主になりすましていたヴァンパイアを退治したと、正直に伝えて欲しい。
ハンターの男は、それを了承した。
ヴァンパイアが言うように、今は人に危害を与えてなく、力がないとしても、
もしまた本能に目覚めてしまったら危険な存在であることには変わりない。
そしてハンターはヴァンパイアを滅ぼした。
無抵抗で力のなくしたヴァンパイアの体はあっと言う間に灰となってその場に崩れ落ちた。
彼はその灰を、領主の娘の遺体が入った棺の中へすくって入れた。
棺を担いで館を出たハンターは、領民達に領主になりすましていたヴァンパイアを退治したことを告げた。
自分はこの棺の中のヴァンパイアの死体を遠くの地へ捨てに行く。もうここに来ることはないだろう。
そう言ってハンターは街をあとにした。
領民たちは、善政をしいていた領主がヴァンパイアだったと知って、怒っていいのか悲しんでいいのかわからず
ただ複雑な気持ちで佇むしかなかった。
いやなんか、すっごい印象的で映画みたいだったので、つい記事にしちゃった(*ノωノ*)