【後半の一部分、加筆修正・2024年7月23日】



弟は今40代半ばであるが、いつの時代に発症するかによっても、患者の人生は大きく変わってしまうように思う。




弟が統合失調症を発症したのは、弟がまだ未成年の時期(平成の初め)だったが、この時代は、統合失調症に対する社会的な偏見も、今とは比べ物にならないほどきつかったと思う。




国や自治体のサポート体制も、ほぼ頼りにならないような体たらくで、統合失調症に関する本(知識・情報)も、今ほどには充実しておらず、今あるような良い薬も開発されていなかった。




※薬の処方に関して、昔は様々な症状に合わせてたくさんの薬(種類も量も多い)が処方されていたが、現在は症状の根源に効く薬を少量(種類は少なくなっている)飲むと言う処方に切り替わっている。




何より当時は、急性期の(他人や自分に対して危害を加えるような)ひどい状態になったら、入院措置が取られることが多く、そのまま何年も入院して社会から隔絶すると言うパターンもよくあったようである(その状態が今も継続している人がかなりいるようである)。




現在では基本的には家庭で面倒を見ながら、通院で治療をし、社会復帰も可能な位置で患者をケアすると言う体制である。




統合失調症は100人から150人に1人は発症すると言われる病気なので、患者を全て社会から隔離すると言うのは、現実的ではないのだろう。




ただ(基本的に入院が当たり前だった時代を経ているにもかかわらず)、うちの弟はどんなにひどい状態であっても、家庭内暴力で警察沙汰になって取り押さえられたケースでさえも、ほとんど入院してこなかったと思う。




その意味では、弟自身は社会から隔絶されると言う経験をほとんどしていないが、その分家族が凄まじい忍耐と許し(赦し)と諦めを強いられて、精神に異常をきたすほど(例えば、PTSDなどの発症など)の地獄の苦しみを味わっている。





母が弟の病気を認めないのも、弟の病状はそんなにひどくないと言い張るのも、(昔の病名)精神分裂病の患者と言えば、鉄格子のはまった病院で、朝から晩まで叫び倒していると言うイメージを持っているためである。




確かにそれと比較すれば、弟はまだマシかもしれないが、本人も母も認めないと言うことで本人の治療が阻害されたり、停滞してしまうのは問題である。




昔のパターンの1つとして、我が家の場合を考えてみると、



【統合失調症の発症】→ →【本人と家族の病気に対する知識不足や隠蔽、社会的制度の未整備】→ →【発症5年以内に治療にアクセスできない(弟の場合、ここは間に合ったと思う)】→ → 【病気に対する知識不足により薬をちゃんと飲まない】→ → 【急性期症状を繰り返し、病気の慢性化】→ → 【認知機能障害の重篤化】→ → 【社会復帰へのハードルが高くなる】→ →【本人も家族も解決策のない袋小路に陥る】と言う悪循環である。




※ただ現在に至るも、母も、弟も統合失調症という病気に関して認めることすら否定的で、病気について調べることも、知識や情報を学習することもしていないため、それが現在弟が置かれている状況の把握を困難にしている(だから、本人が「今から大学に行こうか」と言うような発想をしてしまったり、母がそれを応援してしまい、何度も同じ失敗を繰り返し、何度も無駄金を使ってしまうのである)。




※ 昔は(今もあると思うが)病気になっても、症状が改善すれば、できるだけ薬は飲まないほうが良いと言うような都市伝説が蔓延していたように思う。




現在では

【統合失調症の発症】→ → 【保健所や市役所の専門窓口へ相談】→ → 【精神科での治療の開始】→ → 【病気の慢性化の回避】→ → 【適切な治療と服薬で社会復帰が可能に】



と言う良い循環も現実的に可能となっている。




昔も今も同じであるが、病気を隠蔽する(相手構わず病気をカミングアウトすると言うことではなく、病気を認めず、病院にすら行かず、家庭の中でなんとかしようとする)のが1番良くないと思う。




どの解説書にも口を酸っぱくして書かれていたのは、発症から最初の5年間をいかに過ごすかが病気を慢性化させないためにもっとも重要であるということである。




その次の段階で重要なのは、病院から処方された薬をきちんと飲むこととある




発症から5年間の最重要時期をうまく対応できたとしても、薬を飲むことを自分で勝手にやめてしまうと、病気が再燃し、それまでの努力が無駄になってしまう。




しかも、何度も病気を再発していると、慢性化する上に薬も効きにくくなるらしい。




だから薬は自己判断で、絶対にやめてはいけないという見解は、現在の精神科医の共通認識であるようだ。




周りの人間も、統合失調症に精通した医者では無いのだから、患者に対して「症状が良くなってきているのだから薬をやめたほうがいい」などと無責任に物知り顔でアドバイスするのは絶対にやめた方が良いと思う。




当然、本人も「症状が良くなってきたから、もう薬はやめてもいい」などと絶対に判断してはいけない。そんな安易な判断をすることで、その後の人生がめちゃくちゃになってしまうかもしれない。




統合失調症は一度発症すると完治する病気ではない。ただ、一生薬を飲み続ければ、うまく付き合っていける病気でもあると多くの本で説明されている。




糖尿病と同じと考えればわかりやすいかもしれない。だから医者の判断を仰がずに、自己判断で薬をやめるという事は絶対にしてはいけないと思う。





先日、統合失調症とは全く無関係な本を読んでいると、その本の著者が知り合った統合失調症患者に「服用する薬を少なくしていく」「最終的には、薬をなくした方が良い」とアドバイスをしたところ、その患者は、ほどなくして自殺してしまったとあった。著者自身は医療関係者でも何でもない。




その本の中で、著者は「彼がどうして死んだのかわからない」と回顧していたが、ひょっとすると薬の服用をやめるようにアドバイスしたからではないかと言う疑問が私には浮かんだ。





統合失調症を発症しても、現在では、上手に適切に対処すれば、社会復帰も可能である。それを思うと、弟が病気を発症した時代は不運だったと言えるだろう。




ただ、うちの場合は、母が統合失調症と言う病気に対して強烈な偏見があり、病気に対しても無理解で、弟の病状を悪化させてしまった点、適切に対応できていれば家族に背負わせずに済んだ余計な苦労を背負わせてしまった(弟の妄想だけが真実と思い込み、主に私に対して妄想に合わせて現実を改変することを強要)と言う点は否定できないが。




時代が悪かった。


そう考えると、弟も不憫である。