golden(以下g):「80年代当時、20代前半の頃にはピンと来なくてスルーしてた音楽が、今頃になって楽しく聴けたりすることってけっこうあるよね。」
blue(以下b):「ソウルとかA.O.Rとかは特にそうやな。」
g:「20代前半の頃って血の気が多かったし、勢いがあって破壊的なエネルギーが高いのが好きだったから、ポップなのとか明るいのとかはけっこう軽く見てる感じだった。」
b:「けっ、商売に精出しやがって、みたいな(笑)」
g:「ああいう世間に媚売ってるようなのはどうもね、なんて。」
b:「まぁ、若気の至りやな。」
g:「例えばバングルスなんかも、ヒットしてた当時はちょっと馬鹿にしてたんだよね。」
b:「アイドル崩れのギャルバンでしょ、って。」
g:「あれ何年リリースやったっけ、もうブログ始めてだいぶたってたなぁ、ブロ友さん経由で知ったマシュー・スイートとスザンナ・ホフスの『Under The Covers』のシリーズ。」
b:「あのアルバムでのスザンナ・ホフスがめちゃくちゃカッコよかってんなー。」
g:「マシュー・スイートとの絡みもいいんだけど、スザンナ・ホフスがリードヴォーカルの曲ばっかり聴いてた。スザンナ・ホフスがすごくキュートで。」
b:「いや、キュートなだけちゃうで。時にはすごくしおらしく、時にはめちゃくちゃワイルドで。」
b:「で、バングルスを中古屋で見つけて聴いてみたら、意外なくらいすんなりハマって。」
g:「86年の『シルバースクリーンの妖精』だね。」
b:「まぁ、ジャケットといいタイトルといい、20代前半の頃やったら手を伸ばすことはありえへんような感じやけどな。」
g:「でも、ライヴの映像とか見ると、かなり本格的な、ちゃんとしたロックバンドなんだよね。」
b:「そやねん。普通にカッコええっていうか、めっちゃええよなー。」
b:「アルバムで1曲となると、まずは“Manic Monday”やな。」
g:「プリンスが曲提供したっていうのは当時から話題にはなってたけど。」
b:「イントロといいハーモニーといい、60'sポップスっぽい軽やかさがええねん。」
g:「スザンナのヴォーカル曲の“If She Knew What She Wants”とか“Walkin' Down Your Street”とかがやっぱり好きではあるんだけど、スザンナだけじゃなくてヴィッキー・ピーターソンやデビー・ピーターソンの歌もけっこうよかったりする。」
b:「ビッグスターの“September Gurls”を実はカヴァーしてたっていうのにはのけぞったけどな。」
g:「あの曲のヴォーカルはベースのマイケル・スティールなんだよね。」
b:「アイドル・バンドかと思ったらそういう渋いところをついてくるっていう。」
g:「バングルスって、元々はスザンナ・ホフスがビートルズやバーズみたいな60年代っぽいロックを演りたくてメンバー募集したところから始まったらしいんだよね。」
b:「あー、そーゆーたらスザンナ・ホフスのギターってリッケンバッカーやな。」
g:「ロジャー・マッギンへのリスペクトなのかな。」
b:「バンド名もBeatlesと似た感じで、ってことでBanglesにしたらしいけどな。」
g:「まぁ“Walk Like Egyptian”みたいにヒットを狙ってやらされたような曲もあったりはするけど、全体としては浮ついたところがないしっかりしたロックで。」
b:「あの曲も♪ウーウェーォー、みたいなコーラスが面白かったり、全員歌えるバンドだけあってハーモニーがカッコよかったりする。」
g:「そういうところも60'sぽかったり。」
b:「なんちゅーかな、安心して聴けるねんな。普通に聴いて普通にポップでバラエティー感があって、聴いてるうちになんとなく気分がよくなるねん。」
g:「心を乱されない、っていう。」
*
b:「普通のロックで当時ヒットを飛ばしてた女性シンガーといえば、ベリンダ・カーライルやな。」
g:「“Heaven On Earth”が大ヒットしてました。」
b:「最初は、このベリンダ・カーライルが元Go-Go'sのあのベリンダ・カーライルやってわからんかったな。もっとはっちゃけたイメージやってんけど妙にお上品で。」
g:「ギャルがいきなりイケOLになってた?みたいな。」
b:「(笑)」
g:「でもこれも、今聴くといいんだよ。」
b:「クリームの“I Feel Free”なんかカヴァーしてたんやなぁ。あんまり記憶になかったわ。」
g:「当時聴いたときはふーん、って感じだったけど、ギターが鳴ってる曲があったり、シャウトというかコブシ回しがカッコよかったり、けっこうロックじゃん、って。」
b:「2000年代以降はダンスミュージックばっかりで、こういう普通のロックってめっきり減ってしもうたからなぁ。」
g:「大人っぽい普通の、何の変哲もないっていえばそれまでなんだけど、これも心ゆく乱されずに落ち着いて聴けるよね。」
b:「当時お付き合いしてた彼女がな、そういう何の変哲もない普通のポップロックが好きやったな。」
g:「このアルバムもテープに録音してあげたような気がする。」
b:「うー、そうやったかもな。」
g:「FMラジオが好きで、部屋ではそういうポップでメロディーのきれいなのがよく流れてた。」
b:「音楽は心乱されへんけど、そういう思い出にはちょっと心が乱れる(笑)」
g:「いやぁー、いい曲だねぇ。サビのメロディーが頭にこびりつく。」
b:「若い頃の自分が知ったら“そんなん聴いてんのかよっ!”て言いそうやけどな。」
g:「こういう普通のポップロックを普通に気持ちいいと思えるようになったのは、どういう心境の変化なんだろうね。」
b:「いわゆる加齢(笑)」
g:「いや、そりゃそうなんだけど、そう言っちゃうと身も蓋もないな。」
b:「年取るとな、疲れるのがしんどいのよ。聴きなじみがよくて、なぁーんも考えんと聴き流せるのがええねん。」
g:「心乱されない。」
b:「そういうことやな。」
g:「今さら、オマエノジンセイハナンダッタンダ、シッカリミロ、ヨクカンガエロ、ブチコワセなんて歌われてもなぁ、、、」
b:「確かに。魂を失くしたわけではないけど、そういうのとはちょっと違うわな。」
g:「そう考えると、若い頃っていうのは音楽を聴くことで心を乱したかった、っていうことなんだろうか。」
b:「そういうことやろな。乱されて刺激を受けることがなんらかの次のアクションにとって必要やったんやろ。」
g:「心乱される音楽に会うたびに何か心の中での化学変化的なものがあったていうような。」
b:「まぁ、そういう強い音楽を求めたくなるほど、自分が弱かったんやろ。」
g:「足りない強さを強い音楽で補強していたのか。」
b:「そう考えると今はな、仕事とかで心乱されてばっかりやし、音楽では癒やされたい気持ちの方が強うなってるんちゃうか。音楽聴くときまで心乱されんでええやろ、と。」
g:「あれやこれやといろいろあって、強さというかタフさは身についたっていうことなんだろうね。」
b:「まぁ57年も人間やってるとな、それなりにな。」